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鉄板とお好み焼きと私。

週に1度食べるのが鉄板だった。
なんの話?ってお好み焼きである。
広島出身の私は当然のように週に1回はお好み焼きを食べていた。
広島焼き、とは言わない。お好み焼き、だ。(でも広島風、とか広島焼きって言っても広島人は怒らないよ!)
とはいえ、我が家は広島風をひたすら食していたわけでもなく、関西のお好み焼きも大好きで、その際は”関西風”お好み焼きと呼んでいた。お好み焼きor関西風、である。

あんなに大好きだったのに、大学入学時に上京して以来、お好み焼きはもっとも遠い存在になってしまった。近くに店は少ないし、何より、自分で作れないのである。

簡単そうに見えて、簡単じゃない。それが広島のお好み焼きだ。
仕組みは簡単なのだが、スキルがものをいう世界。
広島人も、家で焼く人は意外と少ないらしく、買ってくるもの、という友人のおうちも多かった。
その中で我が家は、自宅で焼く家だった。外に食べに行くこともするのだが、圧倒的に家が多かった。
焼くときはホットプレート?と想像する方が多いと思うのだが、我が家、ホットプレートはない。鉄板で焼くのである。どこで買ったんだ、その鉄板、というくらい分厚くていかにも強そうな鉄板で1枚ずつ母が焼く。靖子という名前なので、お好みやっちゃん、と呼ぶほどの手腕である。(余談だが、広島お好み焼きの店は、みっちゃん、麗ちゃんなどなぜか◯◯ちゃんの名付けが多い。)焼きのパートナーとして君臨しているその鉄板はかなり年季が入っていて、強くなっている。
手慣れたもので、クレープ的な生地をくるっと回して、その上にどっさりキャベツともやしをのせて、豚肉、イカ天(必須です)、クレープ生地をたらりとたらす。ひっくり返して蒸し焼きに。ひっくり返す際にそばを入れて卵を入れて(そのとき、いつも呼ばれてたけど、今はどうしてるんだろうか?お皿にうつしてる?)出来上がり。たっぷりのネギとソースをかける。(ちなみに、私は広島人も引くけど、塩で食べるのが好き。次点は醤油。興味があればお試しいただきたい)

コロナ禍で2年ほど実家に帰っていない。出張などで上京していた両親も全く上京していない。祖父母・親戚にも会えていない。友人にも会えていない。会う、ということ自体は、インターネットで代替できることが多い。会うこともオンライン上で顔を合わせたり、音声を取り交わすことだってできる。

でも。

食べることはできない。お取り寄せで50%くらいは美味しいもの、再現されたものを食べることができる。ライブ感のあるメニューはどうしても難しい。特に家庭料理なんてもってのほかだ。やっちゃんの鉄板で焼いたお好み焼きはどう頑張っても、冷凍してもらっても無理だ。

自分でやってみるしかない。

何を隠そう、料理が好きだ。料理で少しお仕事もさせていただいている。でも、お好み焼きは焼けない。

1日目。地獄みたいな出来上がりになった。まず、クレープ生地がうまく焼けなくて、クレープ生地にならなかった。結果、小麦粉のビリビリの薄焼with具の多い焼きそばになった。

2日目。クレープ生地はなんとかなった。が、重ねてひっくり返すときに失敗して、結果クレープ生地が乗った具の多い焼きそばになった。

焼きそば地獄である。大量の焼きそばとキャベツとよくわからない小麦粉の皮。暗い空気が家族の中に流れた。

3日目。もうチャレンジするのはやめた。家族も、焼きそばに飽きていた。私はアンテナショップへ走った。広島のものを買って広島充したいためである。同じように考える人が多かったようで、店内は人がぎゅうぎゅうだった。焦りながらもみじ饅頭とがんすを購入し、2階へ。お好み焼き屋があるからだ。
30分くらい待って入店。豚玉そば・イカ天・大葉・ネギを注文。
出来上がった美しいお好み焼き。ずっと食べたかったお好み焼き。無我夢中で食べた。すごく美味しかった。

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でも。

当たり前だがプロの味。やっちゃんではない。
どれだけやっちゃん好きやねん、という話だけれど、舌が覚えたいつもの味なのだから、もはや遺伝子レベルで抵抗できない。
あの年季の入った鉄板で焼かれたお好み焼き。年季が入っているということはそれだけお好み焼きを何十年とずっと作り続けた証だ。

よく、鉄のフライパンは”育てる”っていうから〜などという声を聞くが、鉄を育てるということはこういうことだ!と誇りを持って伝えたいくらいの育ちぶり。もはや中年クラスの貫禄がある鉄板だからだ。

ああ、本当に食べたい。食べたい。食べたい。
どうしてうまく作れないのだろう?私も鉄板を買ったらできるのかな?
あまりものを増やしたくないので、鉄板を購入するか否かで迷い続けている。あの鉄板と同じものは買えない。あの鉄板に似た鉄板を探すが、ラグジュアリーな鉄板ばかりレコメンドされる。違う!そんなラグジュアリーは求めてないんだ!!

フライパンでダメもとでもう一度焼いてみよう。
4日目、チャレンジした。
クレープ生地を焼いたら、一度お皿にうつした。
キャベツ・もやし・豚肉を蒸し焼きにした。クレープ生地に乗せる。
焼きそばを上から乗せる。
卵を焼いて上に乗せる。

かなりルール違反な感じもするけれど、一応見た目的にもまぁ、味的にも及第点なお好み焼きができた。でも、ここで終わったらただの偽物である。

5日目、クレープ生地とキャベツ・もやし・豚肉の蒸し焼きまではセットでできるようになった。
もう少ししたらできるかもしれない。

6日目、ついにそばまでセットでできた。卵で全てを失う気がしてひよってしまった。

7日目、ついに全てできるようになった。この幸福感たるや。

しかし、家族全員私を含めてお好み焼きは、もういいです・・・状態になってしまった。ずっとキャベツともやしと豚肉を食べ続けて、8日目は同じ材料で鍋にした。
幸せレベルが下がっているので、ものすごい勢いで食べた。鍋の幸福感たるや。

お好み焼きをうまく焼きたい、という私のエゴにより、お好み焼きまみれになった我が家から当分お好み焼きを食べたい、という声は聞かれないと思う。練習しないとうまく焼けない。でも、食べ手がいない。

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(やっちゃんの鉄板とやっちゃんのお好み焼き)

ちなみに、やっちゃんは週1ペースで食べていたので、週1ペース以上練習しないとこの感覚は身につかないと仮定している。
なんだかんだ自分も週1食べたいくらいにはいまだに好きだ。

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