締め出しの8時間
それは選挙の日の出来事でした。えんじろうは自分の家から締め出されるという体験をしました。それもこれまでに経験したことのない「鍵の故障」という理由でした。
今回はその時の出来事を綴ってみようと思います。
壊れた鍵
選挙の投票をし、帰りに生ものを含む買い物をして家に帰ってきたのです。今年引っ越しをしてから生まれて初めてデジタルロックというものに触れ、10ヶ月が過ぎました。暗証番号の入力にもすっかりなれ、機械的な動作で番号を入力して解錠を試みたとき、異変は発生しました。
いつもなら暗証番号が正しいことを伝える音が鳴った後で、鍵が回転する音が聞こえるのです。ところが今は、そのまま何の音も聴こえてきません。しかし、機械に耳を近づけてよく聞いてみると、暗証番号を認識した直後に「チッ」という中で何かが当たるような音が聞こえます。普段の音からして、中にある物理的な取っ手のようなものをモーターで回しているのではないかと察していましたが、その回す器具が取っ手に触れるところまではいくものの、回転させられるまでの力がないという雰囲気に聞こえました。
何度やってもダメ。このままでは埒が明かないし、生物をずっと持っているわけにもいかないというわけで、仕方なく管理会社に連絡することにしました。
伝達の難しさ
電話はあまり得意ではありません。すぐに適切な文章を考えて、同時に相手の言ったことをすぐにまとめて理解するというのは、自分にとってはかなり難易度が高いと感じてしまうんです。
オカリナを聞いた時に相手がどんな気持ちで演奏をして、今何に対して喜びを感じ、何に対して不安を感じているかまで感じとれるというのに、言葉の世界になると全然ダメ。
言葉のやり取り
家に入れなくて焦っていることもあり、一生懸命状況を伝えようと頑張るのですが、なぜか逆効果のようになってしまうんです。
特にモーターの動作音の話については、相手は鍵が回る音がしたかしないかだけを答えて欲しかったらしいのですが、えんじろうとしては大切な手掛かりになると感じてしまうので、例の「チッ」という小さな音についても伝えたかったのです。なので必死にその音を言葉で伝えようとするのですが、相手は半分怒っているような勢いで回る音がするのかしないのかを問い詰めるような言い方になり、ついついこちらもかっとなってしまい「だから」という言い回しで対応してしまいました。
直後お互いに冷静になり、何とか目的を果たせたのですが、なんとなくわだかまりが残るようなやり取りになってしまいました。こういった後味の悪さが苦手なんですよね。
結局駆け付けるまでに時間がかかるので、1時間半ほど待つように言われました。
思いつき
仕方がないので一旦スーパーに戻り、そこで時間を潰そうと思ったのですが、その前のやり取りが頭の中に引っかかり、また初体験のデジタルロックの故障について知りたいこともあったので、今の住居を紹介してくれた「ハウスコム」のお店まで歩いて行くことにしました。約20分程歩くと、それまでバスでしか行った事が無かった店頭にたどり着きました。
まだ1年と立っていなかったのに、当時自分のことを担当してくれた店員さんは既に退職されているそうです。時間の流れにちょっと寂しさを感じたりして、それでも店長さんが覚えていてくださったことがうれしかったのです。
状況を説明し、正直に手に下げている生物たちを冷蔵庫に保管してもらえないか相談してみました。快く引き受けてもらえたのでひと安心。鍵の故障で考えられる原因については、何とも言えないという見解でした。
そうこうしているうちに管理会社から「あと20分程で到着する」という電話がきたので、こちらも自宅にむかって25分位かけて戻った。
現場検証
まずは身分証が必要だと言われ、その確認ができなかった場合は警察沙汰になるそうだ。たまたま持ち歩いていたものの中に身分証があったことに本当にホッとしました。
10分以上はいろいろと試してくれたと思うのですが、緊急時の強制解除の方法もうまく動作せず、お手上げということがはっきりしました。
ちょっと驚いたのが強制解除といったところで、マスターキーのようなものでセキュリティを通過した状況を作り上げるというだけのこと。つまり取っ手を回すのは結局モーターなのです。だからそのモーターがおかしいのなら、マスターだろうと何だろうと開かないのは当然です。こういう時の緊急なのだから、マスターキーというのは物理的な鍵のことを指すと思っていました。
その後の対処
お手上げだからといってはいそれまでというわけにはいきません。次の手段として提案されたのは、こういう状況に対応するロックセンターというところに連絡するという手段でした。しかしそこも、日曜日ということで営業をしていないらしいのです。偶然出てくれればという希望にすがる形で、管理会社の方が連絡をしてくれましたが、結局ダメな雰囲気でした。
そんなときにふと、水まわりの問題が発生したときに連絡する24時間いつでも連絡できる保険のようなサービスに強制加入させられていたことを思い出したのです。
3段構えの対処
それは自分が加入している状態なので、自分から電話をして相談してみることにしました。こちらの窓口はサービス業の専門家だけあって、手際よくスムーズなやりとりでことが進んでいきました。例のモーターの音に関してもちゃんと伝えることができました。
対処法が見えてきたらしく、対策を準備した上で60分後に駆けつけますという連絡でした。
人柄
最初は喧嘩しそうになってしまった管理会社の人ですが、ここまでのやりとりをずっとご一緒してくれている中で、同情心に火がついてしまったのでしょうか?今から1時間ということだけど、もしどっか行きたいところがあるなら車に乗せていくよとゆってくれました。
本当に心配してくれている姿に最初のやりとりのことはすっかり抜けて、お言葉に甘えて再びスーパーに送ってもらうことになりました。
ここで管理会社の人とは一旦お別れ。24時間サポートの会社にバトンタッチです。その際に考えられる手段も教えてくれました。特殊な工具を使って中から鍵を開けようとする方法ですが、それがダメなら玄関ドアを破壊するという手段も考えられるそうです。
どちらももはや映画やドラマの世界だなと感じました。
穏やかな食事
気持ちが少し落ち着いたところで、朝から何も食べていなかったことを思い出しました。せっかくスーパーにいるのだからということで、その場で買い物して食べました。
そうそう、持ち帰ってきた買い物の荷物は、再びこのスーパーの冷蔵庫にしまってもらうことになりました。今日中には必ず取りに戻ってきますと言いつつ、ここまでたくさんの人の親切によって解決に近づいてきているんだなということを実感しました。
いよいよ解錠
家に戻りサポートの人と合流すると、早速確認作業が始まりました。最初に音から推測した通り、やはりモーター部分の故障のようです。
別に意味はないですが、耳でそこまで感じ取れたことに、勝手に誇らしさを覚えました。
結局管理会社の人が言うように、まずは中から解錠を試みることになりました。無事に解錠されるまでには、意外と時間はかかりませんでした。
さすがプロ、派遣されてきたのは専門の鍵屋さんのようです。
こうして閉め出しから約6時間後に、ようやく自分の部屋に入ることができました。玄関の扉1枚がこんなに遠い距離に感じた事は初めてでした。
取り替え作業
ここからは家の中で待つだけなので、自分にとってはかなり気が楽でした。まずは1時間待つように言われ、そろそろかなと思ったところで30分の延長、そしてついに取り付けが完了した新たな機会を確認することになりました。
驚きの事実
デジタルロックが最新のものに変わってしまいました。しまいましたと書いたのは、それが全面タッチパネルの機会だったからです。これまでは物理ボタンがあったおかげで暗証番号を入力できたのです。スマホなら画面を目にくっつけることで何とかタッチ操作も行えるのですが、例えば銀行のATMや切符売り場など、毎回変な姿勢を取らなければならなかったり、予想もしていないところでパネルが反応してしまうなど、上手く操作できないことばかりです。
実演するところも見てもらったりして、これがどれだけのバリアになっているかをわかっていただきました。その上で別の手段を検討してもらえることになり、どうにかこの難所を乗り切ることができました。
暗証番号の代わりにキーカードを渡され、それを使うことになったのです。物理的な鍵を機械で回し、その機械に回すきっかけを与えるのが物理的なカード。
それってよく考えたら、ただの回す鍵を使えばよかったんじゃないの?と言いたくなります。変な故障にも遭遇しないし、物理的な鍵が欠けたりして壊れるようなケースはめったに無いと思います。なんだか笑えてきました。
買物を受け取りに
再びスーパーに行って、冷蔵庫に預けておいたものを受け取って帰ってきて、長い長い8時間が終わりました。これなら選挙になんか行くんじゃなかったと、訳の分からない理屈を言いそうになりますが、それならそれでもっと時間のゆとりのない時に壊れたかもしれないと思うとゾッとしますね。
まずは「これでいいのだ!」と思うことが大切だと思いました。
まとめ
暗証番号を忘れたことが1度だけあり、その時も相当焦りました。でもその場合は原因の100%が自分にあります。意外とそういう場合は納得できてしまう性格なのですが、今回のように自分に非がない場合は、焦りもあってちょっとしたきっかけで怒りを掘り当ててしまうということが起こります。
今回の出来事で1番衝撃だったことは、そのやり場のない感情を攻撃的な言葉を投げかけられたと感じた相手に向けてしまったことです。
実際は管理会社の人も親身になって考えてくれるとても良い人でしたし、ここを紹介してくれたハウスコムの人たちも、事情を聞いて冷蔵庫を貸してくれたり、スーパーの人も冷蔵庫を貸してくれたり、直接的なメリットのない僕に対してそのように動いてくれた動機は、純粋な親切心だと思いました。
8時間もかかったと考えるのか、たくさんの人の手助けで8時間でことが済んだと考えるのか?後者の方が明るい気持ちになりますね。
実際に自分がやった事は頼み込むことだけで、いろんな人の力によって日常生活に帰ることができたのです。
素直に感謝しようと思えた出来事でした。
長々と読んでいただけたあなたにも感謝いたします。この情報が何の役に立つのかわかりませんが、自分の生きた証として書き残しておきます。