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映画『ラ・ラ・ランド』

語りたくなる映画の話。オススメ映画レビュー。(ネタバレ有り)

さっぱり時流に乗らないヘキですいませんが、今さらラ・ラ・ランド見ての感想。こんだけ経ってたらネタバレだの気にせず書けるってなもんで。

面白いし、話題になるわけだ、と納得した上で。ちょっと残念でもあって。ここからはあえてマイナスな点を書くので、『ラ・ラ・ランド』がすげー好きって方は読まないでもらって。

後半はすげー良かった。事前に見たことがあるCMからして、色味鮮やかだしミュージカルだしなんか歌って踊ってハッピーな映画なんだろーなと思ってたが、そーゆー結末の話なんですね。結末でがっかりして嫌だった、とかいうことはない。バンドエンドでもなく、前向きな結末だし。そんなんで「思てたんと違う!」と腹立てるようなら、一生エンドレスでディズニー映画でも見とくわ。

問題は前半なんすよ。オープニングの長尺はそりゃ良いっすよ。ダチョウ倶楽部もツカミはOK(古)と言うとこでしょうよ。で、主人公たちが出てきてから、キャラ描写になるわけですが。

なるほど主人公の二人は、夢を追ってる人で、夢を叶えるために頑張ってるわけですね。だが見てくと、ヒロインはバイトをナメた態度でテキトーにやってるし、男の方はピアニストの仕事に自分のこだわり持ち込んで滅茶苦茶やってるしで。主人公たちのキャラに好感を持てないし、夢を応援する気になれない、っていう。なんかテラスハウスにでも出てきそうな、「薄っぺらいなこいつ」みたいな若者に見えてしまう。

実際の現実の世界だったら確かに、疲れててバイトやる気出ないとか、うまいこといかなくてわーっとなったりもするわ。しかし、ここでそんなリアリティはいらない。そういうキャラにする必要性も無い。なぜならこれはミュージカル映画で、そもそもがリアリティを求めるもんではなく、前半はフィクションで夢の世界を見せてく話だから。この映画にとって、主人公のチャラい若者描写はマイナスにしか働かない。

最初の人物描写でしっかりと、見てるこっちが好感持てる、夢を応援したくなる人物像を作れていたら。ラストの、えー!そうなるの!ってとこで。完璧な夢の世界から、「人生、思うようにはいかない。それでも…」っていう現実の世界に引き戻される、ズーン。その落差。叩きつけられるそのショック。からのポジティブな強さ。それが何倍にも増して見えたでしょうよ。

ヒロインの夢が叶うのも、まー一応頑張ってはいるんだけども、そんなんみんな頑張るわ。なーんか棚からぼた餅的な。たまたま運良く拾われた感じで。主人公たちが、揉まれてく中で成長してったから夢が叶った、って感じでもないんだよな。。

だいたい、一般観衆から素直な感想で「ダイコン」って言われるような女優が、玄人目に留まるか?一般観衆ってそんなにアホじゃねーぞ。

と、ボロクソに言うようですが、ここから評価一転して。

音楽も良いし。色鮮やかだった画面がだんだん後半へ向けて色味無くなってく感じとかも意図的で良いし。ヒロインのオーディションシーンの歌なんか、歌詞も歌もほんと素晴らしかった。『レ・ミゼラブル』のアン・ハサウェイかこれか、ってぐらい。ここでぐっと鷲掴みにされる。

で、さすがに今をときめくこの監督。面白くすることに関しては信頼できるというか。物語の世界に惹き込む、強力な磁場を作り出すことに関してはこの監督すごいなという。

ラストのめくるめく物語、感情の渦。いろんな別れを経験してきた大人なら、あのラストでの男の笑顔とうなずきを見せられたら、「この映画…良かった」としか言いようがないじゃねーか!

字面にしてみれば凡庸なオチ、だが。ミュージカル、という見せ方によって。ふわふわしてた物語世界が一気に重力を与えられる部分。魔法が解けたんだか魔法かけられたんだかわからないような、あの一点に仕掛けられたマジック。この映画がミュージカル映画である最大の理由はそこなはずで。ポジとネガが反転するような。歌や踊りが無い、あの静かなシーンのために、歌や踊りがあるんだな、というミュージカルのひとつの真理を見せつけられるわけで。

単にふわふわハッピーエンドで終わるミュージカル映画なら、「あー楽しかった」で、次の日には忘れる。そこで終わらずに、現実世界の重力を感じさせることによって見てる側と地続きの世界になり、共鳴できる感情が濁流となってなだれ込んでくるわけでしょう。そうして美しく儚い物語が完成したら。ヒロインよ、乗り換えてくれてありがとう!とまで言えますよ。だから、その魔法が最大限に効力を発揮するための、下準備のとこもちゃんとやってくれよ!と歯がゆくなってしまったんすよ。

というわけで。後半で強引に好評価まで持ってかれた感。だからこそ前半が。好感持てるキャラ造形と、夢叶える過程さえ良かったら。。
おれが爺さんになる30年後くらいに、そこらへんを作り込んでリメイク版やってもらえたら、郷愁も色濃くなり。その時には、スポ根映画『セッション』より推します。


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