【ドラマ】『エルピス』という光。火種を燃やす音楽。

ドラマ『エルピス ―希望、あるいは災い―』が終わった。(※ネタバレ含みます)

最終回は、TVerで繰り返し観ては泣いた。
長年仕えた人間に殺された大門亨が、最期に見た「一筋の光」。その出来事から、浅川恵那が気付かされた「信じるという希望」。
個人的に、人を信頼できなくなりそうな事がいくつかあった。でもやはり人は、信じられる人たちの中にいれば自由な思考で、健やかにいられると確信する出会いもあった。そんな気持ちにさせてくれた人たちへの感謝の気持ちもあって、一層泣けた。

プロデューサーの佐野亜裕美さんが、このドラマの登場人物さながらの遍歴を経て6年の歳月をかけ世に送り出された作品。演出には大根仁さん、音楽に大友良英さんと、自分が信頼する作り手さんが集まった、本当に毎週楽しみなドラマだった。

最終回の数ある印象的なシーンの中で、堪らない気持ちになったところがあった。収録現場で暴れた村井を見た浅川が、その理由を尋ねるため岸本の家を訪れる。最初は拒否した岸本が、浅川の覚悟を知り、事の真相を話す。そして岸本は、大門の死について居た堪れない事実を伝えるシーン。髪をむしり頭を抱えながら話す岸本の横顔に、大友さんのノイズギターがカットインしてくるところだ。

誰にも言えない決して拭えない苦しい真実を、無いものとして心の奥に無理やり押し込め、ジャーナリズムから遠ざかろうとしていた岸本。だが浅川の前でその真実を口にしたことで、その火を再燃させ動き出すシーンだ。

その時に私が思い出したのは、いつかの夜に初めて聞いた、大友良英さんのノイズ音楽の生演奏を聴いた時の思い出だった。
私は野外イベントで暖を取るため焚火の前に座り、流れてくる大友さんのノイズギターをなんとなく聴いていた。炎を見つめながら聴いていると、自分の中の燻っている火種をみつけるような感覚があった。そのまま音を聴いていると、その火が少し大きくなっていく感じがした。それは過去に諦めた何かだとか、考えても仕方ないと眠らせていた思いのようなものを、奮い立たせるような。ただ、決して乱暴にけしかける感じではない。一気に燃焼させるのではなく、少しずつ空気を送り、少しずつ薪をくべて、周囲を暖かく照らす長く持続する確かな炎にしていくような。

このドラマがまさしく、各登場人物の中に燻っていた思いの炎を燃していく様が、描かれた物語だった。エンディングの『Mirage』では「Can't stop the fire」と歌われている。そして大友さんのノイズ音楽には、人の中にあるそういう火種を絶やさず膨らませる感覚を想起させる。

ドラマ終了後、佐野さんがSNSで発表した新会社の設立。エンドロールにもあったその名前は、『CANSOKSYA(観測者)』。
設立の想いを綴った文の中には、
社会に黙殺される声なき声に耳を澄ませ、
 日々忙殺される中では見えないものに目を凝らす」

とあった。


こんな考えでものをつくり、働いている女性がこの世にいるんだと考えるだけで励まされる。同じ時代に生きて、また佐野さんの新しいドラマが観られ続ける世でありますように。


※関連記事メモ


この記事が参加している募集

テレビドラマ感想文

おすすめ名作ドラマ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?