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オオカミ少年の真実 その7

ナドレを作ったのは、ヤックル。お前の心なんだよ。
本当は存在しないのさ、そんな人間は。

自分と同じように、右腕と左足がない傷痍軍人。
父親がわりに作った人間だ。
頭がクラクラする・・・・気分が悪い・・・・
「う・・・・ぐぅ・・・おええええ!」
今までのナドレとの思い出が、全部僕自身が作り出したものだと?


俺だって、お前が作り出したに過ぎないんだぜ。

人につく嘘なんて、たかが知れているよ。
自分につく嘘に比べればさ。

嘘をつくのは得意だろ?
自分自身さえそうやって、騙してたんだ。

うそ・・・・そう・・・・か・・・・
全て僕の自作自演だった・・・

村の人たちは・・・
僕が変なことを言っても、
話を合わせてくれていただけだったんだ。
それが薬の副作用によるものだと気づいていたから。

ナドレのことも・・・・

だから、みんなはナドレに会いに来なかった。
僕にナドレの様子を聞くだけだったんだ。

ミカもそうだ。
僕が頭の中で作り出した存在しない人間だった。
それでも、村の人たちは、
僕に話を合わせてくれてたっていうのか・・?

薬のことを忘れさせるために、
家族を失った悲しみを消せるように・・・

僕の孤独を埋めるために・・・・

「ミカ・・・君ともお別れなのか?」
あぁ。神の葉は全て燃えてしまった。

それでも、ノーチラスの約束を。
あれは、本当は両親との約束だったはずさ。

いつ入れたか忘れたけど、
ズボンのポケットにノーチラスのかけらが入っていた。

『ヤックルが大人になったら、この村を出て、海へ行こう』

朧げな両親との約束。

「そうか。それはナドレとじゃぁなく、
両親との約束だったんだ。」

この神の葉の村にいると、どんどん人格が崩壊していく、
神の葉に依存してしまうから。

それを恐れたお前の両親は・・・・この村を変えようとし、
村人から反感を買い、最後は神の葉に酔ったやつに火をつけられ、二人は殺された。

しかし、このことは村人たちだけの秘密になった。

この村によそ者はいない。全ては丸く収まる。
ヤックル。お前さえ口外しなければ。

だから、ヤックル。お前は神の葉を大量におまされ、
薬漬けにされたのさ。

そのおかげで、両親のことを忘れ、ナドレやミカ(俺)、
という架空の人物を作り上げたんだ。

それでも、それでも、
ノーチラスは現実さ。ノーチラスだけは・・・な。

それでいいんだ。ナドレはお前の依代にはなれない。
ヤックル、お前は自分の足で立たなくちゃ。

それでも、そばにいるさ。きっと、そばにいるさ。

確かに、ナドレはいない。でも、その約束だけは守れるんじゃないか?
海へ行ってみろよ。俺も見てみてぇ!

せめてヤックルは自分のことを信じてやれよ。
俺はよくやってたと思ってるぜ。
これまでなんとかなってきたんじゃぁないか。
これからだってそうさ。なるようにしかならないけど、
どうしていくか、それも自由だろ?

嘘をついたって、絆があれば、信じられる。だろ?

じゃぁな。

全ては自分自身の作り出した。幻だった。

全てが虚しく揺蕩っていた・・・・

それでも、それでも・・・・

歩き出さなくちゃぁ。

行こう!
海へ!




数年後・・・・・



僕は、海の近くに家を建てていた。
いくつもの山を越えた、いくつもの川を渡った。
正直、苦しかったような気がする・・・・

それでも、希望が胸にあれば、
そんな瞬間も楽しめるんだと知った。



白い砂浜、海には太陽が反射し、キラキラ輝いている。

ある日、少女が僕の
家のドアを開けた。

家の中にいた僕は、尋ねる「君は誰だい?」


「昨日、すぐ裏に引っ越してきたの。」
「そうか、さっそく冒険の始まりってわけだ。」
今度は、少女が訪ねる。
「ここはあなたのお家なの?」

「そうだよ。」

少女は何かに気づいたようだった。
「ねぇ、右腕と左足がないっていうのは生活、大変?」

「もう慣れちまった。」

「家族とかいないの?」

「今はいないんだ。」

「そっか、一人は寂しいね。じゃぁ、今度
私のお友達を連れてくるよ!
みんなでいれば、寂しくないよ!」

「ははっ!いいとも・・・・

その時は、俺の育った村の話でもしてやるさ。」




エニヲ

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