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オオカミ少年の真実 その6

ナドレの葬儀は慎ましやかに行われた。

村の人たちは一緒に悲しんでくれた。

僕は意気消沈していた。
しかし、絶望の影は確実に忍び寄っていたのだ。



しばらくした、風の強い冬の日。

この村は相変わらず、食糧不足だった。

それでも、ヤックルは変わらず、いつもの「オオカミが出たぞ!」
の嘘をつき続けた。


その日の昼下がり、村の裏の方で、
火の手が上がった。


アイツらのリーダーの仕業だった。
自分の家に火をつけたのだ。
でも、なんていうか・・・アイツらへんなんだ。

狂ったように笑い転げて、

そして、火はあっという間に燃え広がっていった。
あろうことかそこに、オオカミがなだれ込んできた。
「なんでこいつらは火を恐れないんだ?」

僕は、「やばい!」と思って、駆け出した。
「オオカミが出たぞ!オオカミが出たぞ!」
大声で駆け回った。でも、村の人たちは僕を見て笑っていた。

もしかしたら、嘲笑だったのかもしれない。

逃げ出す人はいなかった。
「今日は一回で終わりじゃないのかい?」
「ヤックル!何を言ってるんだ!相変わらず愉快なやつだな!」
僕は焦った声で言った。
「村の東側に火が上がっているだろう?
神の葉が焼けて、そこからオオカミたちが
押し寄せてきているんだ。」

オオカミは次第に、村人たちを襲い始めた。
まるで、オオカミたちは何かに取り憑かれたように
荒れ狂っていた。

それなのに、襲われていた村人たちは・・・・

笑ってたんだ。

頭から血を流しながら、笑ってた。



ブワッと風が舞った!


その瞬間、僕の意識は遥か彼方へ飛んだ。

気づいた時には、

すべてが終わった後だった。



村は焼け落ち、村人やオオカミの死骸が火で焼け焦げ、
鼻に付くような匂いが充満していた。

おそらく他のオオカミたちや村人は、
どこかに逃げていったのだろう・・・


そうか・・・
僕は忘れていたんだ。

「神の葉」がどう言ったものかということを。


神の葉は薬だけでなく、麻薬としても扱われていた。
村の主な収入は本当はこの『麻薬』の収益だったのだ。


空腹を忘れさせ、気分を高揚し、
嫌なこともなかったことにできる。

ただ、依存症や、副作用に苛まれる。

そう、僕が両親のことを忘れてしまったことも、
幼い頃に服用した、神の葉の麻薬の副作用だったのだ。

アイツらが笑ってたのも、きっと麻薬のせいさ。
オオカミが荒れ狂ってたのも、麻薬のせいさ。

つまり、もともとはその麻薬のおかげで、
オオカミたちは近寄ってこなかったんだ。


はぁ・・・・

座りこむ僕の横に、
気づけば、ミカが立っていた。


よぉ、ヤックル・・・

暗い顔して、どうしたんだ?

「また一人ぼっちになっちゃった・・・」

一人ぼっち・・・か・・・まぁ、仕方ないさ。

「悲しいんだ。」

・・・・でも、
この結末は、ヤックルが望んだことでも、あったんだろう?違うか?

「違うよ!『一人になりたい』って言ったけど、嘘だった・・・
確かにそう言ったけど・・・本当はそうじゃなかったみたいだ」

「村の人たちとはあんまり仲良く出来なかったけど、
みんな死んじゃって、
はじめて、悲しい、寂しいって思ったよ。」

悲しい・・・か・・・

「・・・・そう、悲しい。」

その割には、泣いたり叫んだりしないんだな。

「そうだね。悲しい時はもっとこう・・・、
泣いたり、叫んだり、
するのかもしれないけど・・・僕には違うのかな。」

「うまい言葉が見つからないよ・・・・」

ふぅ、
わからないな・・・

まぁ、でも・・・だとしたら、
悲しさは思い出から来るのかもな。

確かにね。
大切なものだよ。思い出って・・・
あぁ、確かにな。みんな家族や友達や恋人がいる。
思い出ってのはそういうものを持っている人が抱くものさ。
ヤックル。胸に手を当てて考えてみろ?
お前には親も兄弟も友人も、恋人もいない・・・

なぁ、ヤックル。

大切な思い出を忘れてしまうことは、悲しいな。

でも、それ以上に悲しいのは、大切にしたい思い出すらない、
空っぽな自分なんだ。

「僕はただ、空っぽな自分と向き合うのが怖かったんだ。」

だから、お前には「ナドレ」が必要だったんだ。

そうだろ?



その7に続く


エニヲ


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