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世界のどこかのあなたへ

わたしが小さい頃受けていたいじめについて。

小学校の5年間と中学1年生の6年間、それはそれはしっかりいじめられていた。

元凶は幼馴染のモテていた男の子。彼とはたまたま同じ幼稚園で母親同士が仲良く家族ぐるみで連んでいた。彼が何を言ったわけではないが、学年のうるさい女子たちが習い事も彼とほとんど一緒な私をよく思わず、といったことからじわじわといじめが学年全体に広まった。

机は離され、話すことも人に近づくことも許されず、給食もろくに与えられず、休み時間はトイレに駆け込んでいた。わたしが通った道や触った箇所は腐るようだった。帰り道に高いところから飛び降りろと強制されかけたこともある。

親に言うことも出来ず、架空の友達を作っては明るく話をした。その幼馴染も親の前では私と仲良いフリをしていた。親がいなくなった瞬間にパッと態度が豹変する。習字教室では周りを唆し墨をぶっかけられる。ハッキリ言って地獄だった。

担任の教師も一緒になって孤立させてきた。助けなど望めるわけがない。涙なんてすぐ枯れた。悲しいという感情は尽きなかったが、心は荒みまくっていた。

卒業式の日、やっとこの日がやってきたと幸せに包まれた。同じ中学に進むのは校区の関係で20人弱。やっと地獄が終わったと心底安心した。12才、友だちなんて1人も居なかった。流行りのものはおろか、喋り方すら分からなかった。


そして中学校。希望に満ちた生活が待っていたはずなのに、初めの1週間ですでにわたしはいじめていい人になっていた。ひとりでも過去を知っている人間がいると、驚きのスピードで伝染するのがいじめの特徴。また地獄の3年間だと思った。

しかし、2年生に上がると初めての友達ができた。このクラスの人たちはわたしのことを知らなかった。わたしと話すといじめられるよと伝えると、誰がそんなんゆうてんねんどうでもええわ。と言われた。いろんな思いが込み上げてきて泣き崩れたが、みんなはとてもとてもあたたかかった。

それでもわたしの卑屈に曲げられた性格は変わらなかった。人の目が気になるし、顔色の変化で表情がわかる。

それから色んなことがあり、高校受験。どうしても地元から離れたかった。公立高校に行って小学校の同級生に会いたくなかった。親とともに選んだのは留学ができる私立の高校だった。

たくさんの友達ができたし、留学して性格まで変わった。

それでも地元は怖く、誰にも会いたくなかった。いつまでも小学校の同級生は怖かった。いつか復讐をすると心に決めていた。全員不幸になるように本気で願っていた。

この時くらいから少しずつ変化が起こりはじめた。わたしが変われば変わるほどに周りの態度が変わっていくのだ。たくさんの努力をした。海外に行き、性格が変わり、外見を磨いた。

すると徐々に中学で仲良くなった子を通して、小学校の同級生たちがわたしのことを知ろうとしてきたのだ。SNSでフォロー申請してきた奴らもいた。許可などするはずもないのに。通学の電車で話しかけてきた奴らもいた。自分がしたことを覚えていないのか。信じられなかった。

成人式が近づいてくると、バイト先のお客さんのキャバ嬢やホステスのお姉さまがたが計画を立てだした。わたしの生い立ちを知っているので、見返してやろうと5人くらいがタッグを組んでいた。わたしより楽しそうに。

成人式には行かないが、中学の同窓会に顔を出すことにした。

服、化粧、立ち振る舞い、全部叩き込まれて送り出された。腹立つやつ全員鼻で笑ってこいと、真っ白なファーのついたコートを着せてくれ、ルブタンのピンヒールを履かせてくれた。

"わたしたちはあなたのことが大好き。今日は一段と綺麗だよ。自信もって見返しておいで。何もしなくていいし何も話さなくていい。ただ姿勢よくして凛と立ってればいいから。行けばわかる。大丈夫。何か嫌なことがあったら怖いお兄さんたちが待ってるからすぐ連絡してね。帰りも送ってくれるから。行っておいで。"と、送り出してくれた。

会場に着く前から、唯一の男友達と行動を共にした。入ってすぐにたくさんの視線が気になった。あんな経験は初めてだった。悪口を言ってる顔ではない。女子も男子もわたしと話すべく次から次に近づいてきた。

わたしをいじめていた女たちはとても小さく見えた。ルブタンのおかげでわたしの身長は180をゆうに超える。近況と彼氏の有無を揃って聞いてきた。マウントをとってくる人もいたし、遠巻きにヒソヒソと話しているグループもいた。

あまり話したことのなかった学年イチのイケメンがわたしから離れなかった。長年彼に片想いしてたらしい小学校の同級生たちの悔しそうな顔を見て胸がスッとした。やっとお姉さまたちの言っていたことが少し理解できた。

わたしのことをいじめていた奴等が軽く謝ったりしてきた。もう顔も覚えていないが。ふざけんなの一言である。2次会に男子15人が着いてきた。あの同窓会で間違いなくトップトピックスだっただろう。半年くらいは友人周りがうるさかった。

お姉さまたちの企画は大成功だった。見た目が変わると勝手に周りの反応が変わるのだ。もしかすると彼女たちもそのような経験があったのかもしれない。

なにも復讐という復讐はしていないが、この日から何かが変わった。こんなしょうもない奴らに何年も振り回されてひとり心を痛めつけられ縛られていたのかと思うと馬鹿らしくて仕方なかったのだ。

かわいくて綺麗に見えていたあの子も、かっこよくて雲の上のような存在だったあの子も、いじめてきてこわかった子も、傍観して助けてくれない非情なみんなも、とても大きく見えていたのに怖かったのに、そんな感情がどこかへ飛んで行った。よく見ると大して可愛くない、お姉さまたちの方が綺麗な上に性格も素敵だ。よく見ると別にかっこよくない、もっと心身ともにかっこいい人たちを沢山知っている。いじめられるより怖い体験も沢山見てきた。もっと悲しいこともあった。

世界は広かった。努力してきてよかった。中身も外見もなにも劣っていないじゃないか。存在してていいんだと、そう思えた。後悔なんてなにひとつなかった。

帰って報告をするとお姉さまたちはとても喜んでくれた。明日からもっとハッピーに生きれるねと。なんて素敵な人たちに出会えたんだろうと心からそう思った。

それからも人との接し方や友達との距離感、敏感すぎるところや顔色を伺う癖、愛着障害、フラッシュバック、昔話のしにくさなどまだまだいろんな後遺症のようなものはあるけれど幸せに生きている。

あの小学校のあの学年の人間はわたしという犠牲に目を背け、共通の敵としてわたしを吊し上げることによって成り立っていた。わたしの犠牲の上に素敵な友人とかけがえのない幼少時代の思い出を手に入れた気持ちの悪い集団である。そしてそこに加担する残念な教師が何人いて、今現在も教師として鎮座しているのだろう。残念で仕方ない。

正直言うと、全員の不幸をいまでも願っている。もう子供がいる同級生も多いが、その子供まで不幸になればいいのにと本気で思っている。わたしが受けた以上の悲しみと暴力や暴言を他人から受ければいいのにと願っている。生まれながらに誰かにすでに恨まれているなんてかわいそうな子供だなと思うが、しょうがないよね。と本心で思っている。

子供に罪はないなんて言うがそんなことはどうでも良いのだ。直接手を下そうとかは全く思わないが、何かの巡り合わせでその家族に出会うことがあれば全部話してやろうとは思う。全て壊れれば良いのにと願っている。全てが壊れたとしてもわたしの傷は永遠に治らないのだ。等価交換にすらならない。

性格が悪いと言われても納得する。心の奥底から湧き出てくる感情なのだ。何回も何百回も戦ってきた。自分で自分と戦ってきたのだ。それでも湧き出てくるこの怒りと悲しみは決して消えることはない。それらは日常のふとした瞬間にマグマのように湧き出てくるものだ。

大人になったいま、あのときのわたしを抱きしめてあげたい。誰もそうしてくれなかったのだから。人の温かさなんてみじんも感じたことがなかった。孤独という意味を知っている。


いま偶然この文章を読んでいるあなた。
もしあなたの周りでいじめられている子がいたらなにか行動を起こしてあげてほしい。学校だろうが会社だろうがどこでも。何もしていない傍観者もいじめの張本人と同じくらい憎まれている。傍観もいじめの一種だと、綺麗事ではなく伝えたい。

そっと声をかけてあげるだけで良い。ひとことの手紙だけで良い。きっとそれだけでその子にとっての救済になる。一生忘れないだろう。

もしあなたがいじめている側ならすぐにやめた方がいい。この文章を読んで理由が分からないなら病院に行った方が良い。一生シャバに出ないでほしい。本当に。言い訳なんて一切通用しないので。

もしあなたがいじめを受けているなら。助けを求める勇気を持って。環境が変われば全てが変わるから。世界はその場所だけじゃない。もっともっと広い。今は想像つかないだろうが、本当に色んな人がいる。あなたをいじめている人たちはこの世界の0.1%にすら満たない。

親でなくても、あなたが言葉を出せるだれかに。諦めずに言葉を紡いで。嫌な大人も人間もたくさんいるし、それがあなたの両親や家族かもしれない。先生かもしれない。でもすぐ近くにまともな大人は少なからずいるはずだ。

その環境から出ることは逃げなんかじゃなくて、戦いきったあなたがあなた自身を救うという立派な行為なんだ。

大丈夫だよ。なんとでもなるから希望と未来だけ捨てないで。


この世界に住む誰かの勇気のかけらになれたら。

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