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いつか、月が満ちるまで。-月ノ美兎さんの活動2周年に寄せて

もしもこの世界に、『天才』と呼ばれる人間が本当にいるとすれば、月ノ美兎は間違いなくその1人だろう。活動2周年を迎えたこの機会に、月ノ美兎についてもう一度考えてみたい。

月ノ美兎はどこから来たのか?

「委員長と付き合える人はいないですよ。絶対いない。委員長はね、もう、無理だよ。誰にも扱えない。」
―『【樋口楓】初Youtube配信【mabinogi&お絵かき】』より

月ノ美兎のルーツについて語る上で、一つ、絶対に外すことのできないエピソードがある。『吹き戻し』のエピソードだ。配信アーカイブの49:26あたりから見ることができる。
要約すると、「お絵かき教室で『吹き戻し』を題材にした絵を描くように言われた月ノ美兎は、ウケ狙いでほとんど吹き戻しが描かれていない絵を描く。『これはないな』と考えてすぐに捨てようとするが、後ろで見ていた先輩に説得されて渋々その絵を提出すると、講師から大絶賛を受ける」というものだ。その中でこんなことを言っている。

「わたくしがウケを取ろうと思って、邪道だと思って今までやらなかったことは、もしかしたら正義だったのかもしれないってそこで思ったんですよ」
「『この定義を兼ね備えていないとこうだとは言えない』みたいなことって、結構簡単に揺らいじゃうんですよね」

月ノ美兎はその後、「にじさんじについてもそうなのかもしれない」と語っている。2DのVtuberというのは出てきた当初異色で、批判の声も少なくなかった。「3DじゃないVtuberなんてVtuberじゃない!」というものだ。
しかし、月ノ美兎が、にじさんじが認知されるにつれて、認識はどんどん変わっていった。「2Dモデルでいいんだ!」という発見は新規参入のハードルを大幅に下げた。Vtuberは爆発的に増加した。『邪道』は『正義』になった。

彼女は今でも「面白ければ正義」という信念に則って、新しい試みに挑戦し続けている。活動3年目、彼女はメジャーデビューすることが決まっている。その活動がどんなものになるかはわからないが、ただ一つ言えるのは、「彼女なら絶対に面白くしてくれる」ということだ。

月ノ美兎は何者か?

「画面越しに見たとあるライバーは、今まで知り合ったどんな人種ともちがいました。」
―『【3Dお披露目配信】文武両道人望ゲキアツプリンセス【にじさんじ/リゼ・ヘルエスタ】』より

月ノ美兎は、『バーチャルYouTuber』だ。では『バーチャルYouTuber』とは何か?月ノ美兎は過去にラジオ番組でこう発言している。

「その人が『自分はバーチャルYouTuberです!』って言ってしまえば、その人はバーチャルYouTuberです!」

月ノ美兎の一貫した思想が垣間見える。月ノ美兎が『バーチャルYouTuber』に要求するのは『バーチャルを活かした動画』ではない。『凝ったロールプレイ』でもない。ただ一つ、『バーチャルYouTuber』であることの自覚である。

しかし、月ノ美兎自身は、『バーチャル』を活かした活動を今までにたくさんしてきた。最も『バーチャルであること』を活かしてきた配信者の一人といって差し支えないだろう。
例えば『【本物の月ノ美兎に投票しろ!】』。画面に3人いる月ノ美兎のうち、生配信をしている1人は誰なのかTwitterで視聴者に投票させる企画で、バーチャルでなくては絶対に成立しない。後に公式番組に逆輸入された企画であるといえばその完成度は伝わると思う。
例えば『百個怖い話言うまで帰れない放送2019』。百物語と同時に進行するVtuberの『魂』についての物語は、配信が終了してからも続き、視聴者は固唾を呑んでその結末を見守った。
例えば『新年なのでいまから時空を歪めます』。過去に解説したが、凝った演出、バーチャルであること、そして生配信であることの3つが凄まじいシナジーを生み出した配信だった。

さて、月ノ美兎は「バーチャルYouTuberをそうたらしめるのは、その自覚だけである」と定義したにも関わらず、バーチャルYouTuberにしかできない企画を多数生み出してきた。彼女は何を考えているのだろうか?

おそらく、彼女の頭にあるのは「どうやったら面白い配信ができるか」、その一点のみだろう。彼女ができる範囲で面白い配信を生み出そうとした結果、『バーチャルYouTuber』であることを最大限活かすことに繋がったのだと思う。彼女が面白い配信を作り上げるためにどれほどの努力をしているかについては、月ノ美兎のファンなら痛いほど感じていることだろう。

月ノ美兎はどこへ行くのか?

月には兎がちゃんといた
―卯月コウ『アイシー』より

月ノ美兎は、『いつか来る終わり』を常に意識している。

例えば人生。月ノ美兎が『死ぬまでにやりたいことリスト』を作成し、それを少しずつ消化しているのはファンの間では有名な話だが、このリストを作成した経緯について、彼女は「いざ死ぬぞってなったときに少しでも心残りをなくすため」と話していた。
月ノ美兎は「死が怖い」という。これは『いつか来る終わり』への意識が強いことの裏返しだ。

例えばVtuber活動。過去に彼女はこんな話をしていた。

「例えば10年後とかですよ、わたくしがまあもしネットに姿を現さなくなったとしても、『月ノ美兎ってそういえばいたよね』とかそういう話をね、
まあ誰かがするとするじゃないですか。
多分ね、一人くらいはしてくれると思ってるんですよこの感じだと。
10年後とかにね。『そういえば月ノ美兎っていたよねー』とか『あんま知らんけど』みたいな感じでもわたくしはね、そういうネットの歴史のね、ちっちゃな一部になれたことがとっても嬉しいです。」

『Vtuberとしての目標を語っている』という点では、そう珍しい話でもない。この話の特異な点は、『Vtuber活動が終わった後にどうなっていたいか』について語っているところにある。

この他にも、月ノ美兎が『終わり』について語っている場面は枚挙にいとまがない。死生観の話、樋口楓と一緒に引退を考えていた話、そのとき予定していた引退配信の話などなど。月ノ美兎は、『いつか来る終わり』を常に意識している。彼女はそのときまでに何を見せてくれるのだろうか?

個人的には、そのときまで彼女を追い続けていたいと思っている。彼女が見せてくれる景色を味わうため、彼女についてもっと理解するため、そして、『いつか来るそのとき』に、絶対に後悔しないために。そう、

いつか、月が満ちるまで。

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