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月ノ美兎『新年なのでいまから時空を歪めます』の衝撃

注意

この記事には月ノ美兎氏(以降敬称略)が2020/1/2に配信した『新年なのでいまから時空を歪めます』(以降「本配信」と称する)のネタバレが多分に含まれています。動画本編を視聴してから本記事を読むことを強く推奨します。本編は40分弱くらいなので配信としては比較的短いほうです。ネタバレ防止のため、本記事の書き出しはしばらく改行を挟んだあとにあります。





あらすじ

月ノ美兎は「歳をとりたい」と話し、サザエさん時空で永遠に歳をとらない自身の肉体に対する思いを視聴者に吐露する。そして「サザエさん時空に唯一対抗する手段」としてドラえもんのタイムマシンを挙げ、「未来に行って大人になった自分を連れてきて配信を行う」と宣言して意気揚々とタイムマシンに乗り込むが…

各場面への感想

はじめは例によって茶番だと思っていた。しばらくしてから事の重大さに気づいた。これは月ノ美兎によって入念に計画されたある種の芸術作品である。

まず出色なのが演出である。タイムマシンに乗り込み、警報が鳴り響いて画面が暗転するまで、配信画面には視聴者のコメントが映されていた。暗転が解けるとそこは空き地で、古めかしい(およそ6年前には似つかわしくない)パソコンがなぜか洗濯機の上にあった。すでに視聴者のコメントは配信画面にない。すると光線のようなものがそのパソコンに命中し、カメラはそのパソコンに寄っていく。パソコンの画面には視聴者のコメントだけが映っている。ここで月ノ美兎リスナーにはおなじみのBGM、『雲は流れて』が流れて配信画面が切り替わり、箱のようなところから塀や地面を見ている、そんな風景が映し出される。配信画面に視聴者のコメントは無い。しばらくして視聴者は「ああ、我々は今あのパソコンのディスプレイの中から空き地を覗いているのだ」と理解する。

何が凄まじいかって月ノ美兎はこの演出を生配信でかましているのだ。約2年弱の配信経験によって培われた確かな技術、そして彼女自身の類まれなる感性によって、視聴者は配信への没入感を強める。

そうして視聴者の没入感を高めたところで、配信画面には6年前の月ノ美兎と思われる幼い少女(以降「女児ノ美兎」と称する)が登場する。女児ノ美兎はパソコンに映し出されるコメントに興味を持ち、視聴者との対話を始める。しばらく対話を行うと再び画面が乱れ始め、視聴者は各々「未来で会おう」などのコメントを残したあと、再び現代に戻される。

ここで交わされた受け答えの内容からも、彼女が事前にしっかり準備してきたことが伺えた。まず前提として、月ノ美兎には「高校2年生。性格はツンデレだが根は真面目な学級委員。」という公式設定が一応あるが、配信では尋常でない頻度でボロを出し、本気で設定を遵守する意識は見られない。少しでも彼女を知る者の間ではすでに形骸化した設定として扱われている。
しかしながら本配信での彼女、特に女児ノ美兎においてはまるで別人であった。2013年の秋頃という設定を意識し、視聴者が投げる「当時流行ったアニメ」、「当時の流行語」などのコメントに対し、的確なレスポンスを返していた。おそらくはある程度コメントを想定し、2013年当時の流行コンテンツについて事前リサーチを行っていたものと思われる。視聴者の没入感を損なわないため、いかに彼女が気を使っていたかが伺える。
加えて『月ノ美兎』という大器の片鱗を覗かせることも忘れなかった。過去に配信で話した幼少時のぶっ飛んだエピソードを意識した言動、コメントで投げられる「未来」に対しての「未来」を知った上で話す「未来予想」などなど、視聴者を飽きさせるということがなかった。この辺りは流石に月ノ美兎といったところか。

さて、現代に戻された視聴者は月ノ美兎の言動から、過去に飛んだのは視聴者だけであること、視聴者が過去に飛んでいる間の時間について月ノ美兎は知覚していないこと、そして「女児ノ美兎との対話が現在の月ノ美兎に影響を与えていること」を理解する。その後彼女は本日の配信を終了する旨を告げ、本配信は終了する(正確には最後の最後にもうひと悶着あるのだが)。

本配信全体を通しての感想

本配信全体を通しての感想を語る上で3つのキーワードが浮かび上がってくる。
1.没入感
2.生配信
3.バーチャル
このうちどれが欠けてもこの配信は成立しなかったと言っていいだろう。
それぞれ説明していく。

1.没入感
「各場面への感想」の項で散々語ったが、本配信で月ノ美兎が最も大事にしていたであろうもの、それが「配信への没入感」だ。月ノ美兎は凝った演出、事前のリサーチ、完璧な「6年前の月ノ美兎」のロールプレイなどによってそれを実現した。これによって本配信は「単なる茶番」の域を完全に超越し、「視聴者参加型エンターテイメント」へ昇華した。

2.生配信
初期のVtuberのメインコンテンツは動画投稿であることがほとんどだった。しかし現在、Vtuberのメインストリームは生配信に移りつつある。
これは「キャラクター・アバターと視聴者の間で双方向コミュニケーションが可能である」というVtuberの強みを活かした結果だと考えられる。例えば、ねこます氏(バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん)はインタビュー中で、Vtuberの利点のひとつとして以下のように述べている。

「アニメのキャラクターは自分に向かって話しかけてはくれないけれど、バーチャルYouTuberは話してくれるんですね。」

そこで重要になってくるのがいわゆる「生主」と「Vtuber」との差別化である。過去に月ノ美兎本人も配信で「にじさんじはよく生主と言われるが反論の余地がない」という旨のことを述べている。それについては以下の第3項で述べる。
本配信では「生配信」であることが第1項で述べた「没入感」を強めることに大きく貢献している。視聴者はコメントによって女児ノ美兎とリアルタイムで対話を行い、結果として現在の月ノ美兎に影響を与えている。配信が終わったあと、ぼくは「何かとんでもないものを見せられた」という気分になった。

3.バーチャル
月ノ美兎は本配信で「生主とVtuberの差別化」という問題について1つの解を提示した。驚くべきことに、月ノ美兎は過去配信で何度も「生配信」であることと「バーチャル」であることを活かしきり、様々な企画を実行してきた(それらについての説明は他記事に譲る)。そして本配信はそのうちのひとつであると言っていいだろう。
月ノ美兎がバーチャルの存在でなかったらタイムマシンで過去に行くという設定を自然に視聴者が受け入れることができただろうか?6年前の立ち絵はどう感じただろうか?凝った演出は視聴者の心に届いただろうか?彼女が過去に発言した言葉を借りるならばぼくの心中はこうだ。

これがバーチャルYouTuberなんだよなぁ…

総括

本配信はサムネイルや動画概要文、予告ツイートなどにより、「大人になった月ノ美兎の新モデルが公開される」というミスリードがされた上で行われた。結果として行われたのは「月ノ美兎幼児モデルの公開」であったわけだが、この配信を単なる「幼児モデルのお披露目」に留めないところに月ノ美兎が月ノ美兎である所以があると言っていいだろう。そして驚くべきことに、月ノ美兎は40分弱でこの芸術作品をまとめ上げた。絶妙な長さだ。視聴者の心を鷲掴みにして放さないまま、さっさと配信を終えてしまった。
2020年の一発目からこんな配信を見せられてしまっては、今年も月ノ美兎に期待しないわけにはいかない。

おわりに

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