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一からドイツ語をドイツ語で学ぶ?

スイスのドイツ語圏にある街で、ドイツ語の語学学校に通い始めました。

現在私が受講中のドイツ語A1(初級)コースには、出身もほぼバラバラの計12名が参加しています。

【クラスメイトの出身国】
・アフガニスタン
・ウクライナ
・北マケドニア
・スロベニア
・ソマリア
・中国
・フィリピン
・ブラジル
・レバノン
・日本(自分)

ドイツ語で雑談ができるほどの言語スキルがまだないため、休憩時間に誰かと会話をするとなると、英語を使うことがほとんどです。

とはいえ、なかには英語を話せない人も2割ほどいるので、英語がクラス内での共通語というわけでもありません。

改めて考えると、全員にとっての共通言語が存在しない上、ドイツ語を学ぶのは初めてという人が大半を占める状況の中、そもそも授業が成り立っていること自体が不思議に思えます。

海外の語学学校に行く場合、「ドイツ語をドイツ語で学ぶ」ように、学習言語のみを使った授業で勉強するケースが一般的でしょう。

一方で、ドイツ語が話せないから語学学校に来ているのに、はじめから全てドイツ語で説明をされるのではついていける気がしないと思う人もいるはずです。

それでも語学学校の先生は、受講生たちの事前知識の有無にかかわらず、クラスを上手くリードして授業を進めていきます。

私が受講しているクラスの先生は、指導歴20年以上のベテラン講師とのこと。

異なる母語を持つ人たちが集まる授業がなぜ成り立っているのか、先生が行っている具体的な働きかけとはどんなものなのかを考えてみました。


1.具体例から文法規則に気付かせる

ある言語を初級レベルから学ぶ場合、学習者は語彙に関する知識もほぼゼロの状態からスタートすることになります。

そのため、文法項目についても先生がルールそのものを直接的に説明することはあまりありません。

そもそも、初級ではまだ受講生側に口頭の説明だけですべてを理解するだけの力がないので、「それ以外の方法でわかってもらうしかない」事情もあるでしょう。

下記は、ドイツ語のある文法項目を導入する際の授業の流れの一例です。

①先生が教室内の机やイスを指差しながらドイツ語で単語を言っていく。
→机はTisch、イスはStuhl…など、それぞれの物の言い方がわかる。

②挙げた単語を3色のペンを使ってホワイトボードに書く。
→これらの単語は3種類に分けられることがわかる。

③3種類のカテゴリーの上にmaskulin, feminin, neutralと書き、それぞれ単語の前にder, die, dasと付け足す。
→3つのカテゴリーには名前があり、タイプに応じて単語の前に特定の冠詞のようなものを付けるらしいということがわかる。

いわゆる「教えるのが上手い先生」は、この帰納的な話の組み立て方や具体例の選び方が絶妙なのではないかと思います。

加えて、学習者がすでに何を知っていて、何を知らないのかを常に意識し、習った範囲の語彙を活用しながらシンプルな構造の文で話すことを徹底している先生もいるでしょう。

このようなインプットがあれば、初級レベルであったとしても、受講生は「ドイツ語が聞き取れて、かつ意味がわかる」感覚をどんどん味わえます。

2.一つ学ぶたびに実践に移す

新しい単語や文法をインプットした後は、一人ずつ指名されて先生と実際に会話をしたり、習った内容を使って受講生同士で質問し合ったりする機会が多くあります。

会話のトレーニングは、基礎的な単語と文法を一通り覚えてから…などということはなく、何か一つを覚えるたびにすぐに実践に移すイメージです。

"Ich bin ◯◯.(私は◯◯です。)"
"Wie heißt du? (あなたの名前は?)"

という二文だけではそれほど会話らしくならないと思いきや、授業の初回で会ったばかりのクラスメイトたちを相手にすると、早く名前を覚えたい気持ちも手伝って、教室内が生き生きとしたコミュニケーションの場に変わります。

「何語を話しますか?」「きょうだいはいますか?」という単純な質問でさえ、色々な国から集まったクラスメイトに聞いてみれば、「3つも言語を話せるの?」「きょうだいが8人!?」などと盛り上がるものです。

どんな小さなトピックでも、実際に自分のことに置き換えて話してみる。あるいは質問をして相手を知る。

今受けている授業の中では、実際にドイツ語を使ってアクションを起こす機会が数多く散りばめられています。


語学学校に行き始める前、一から勉強を始めて「ドイツ語を話せます」と言えるまで、一体どれだけ時間がかかるのだろうと、気が遠くなるような思いがしていました。

しかし今は、まだ「レベル1」にすら満たない実力だとしても、自分は一人の学習者であると同時に、すでにコミュニケーションの一歩を踏み出したドイツ語ユーザーなのだという自覚が少しずつ芽生えています。

上記の内容は、私が通っているコースでの授業の進め方の一例ですが、特に海外の語学学校で一から言語を学ぶ際には、どこかしら共通する点があるのではないでしょうか。

学習の対象言語のみで授業を進めるやり方は、異なる母語を持つ人たちが集まるクラスで全員を分け隔てなく巻き込める方法であり、どんな環境においてもこのやり方が常にベストという訳ではないと思います。

クラスが進むにつれて、学習言語だけを使って理解するには難しい複雑な内容が出てきたり、帰納的な説明を元に要点をつかむまでのスピードや理解度に受講生間で差が生じたりと、ネガティブな面も浮き彫りになってくるかもしれません。

今はまず、クラスメイトたちと一緒に学ぶからこそ得られるコミュニケーションの醍醐味を味わいつつ、理解が甘い部分を自習で補いながら、着実にドイツ語を磨いていきたいと思います。


(編集部・Moe)

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