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劇団夜鐘と錦鯉 『扁桃と虚天球―なけなしの革命児の帰依に寄す―』クロスレビュー

 演劇クロスレビュー、今回は劇団森に所属している中荄啾仁による劇団の旗揚げ公演を取り上げる。本来は4月に旗揚げする予定だったがコロナによって延期を余儀なくさせられた。そしてようやく実現した旗揚げ公演。評者はどういう判断をしたのか。
 ルールは評者が10点満点で評価して感想を書く。それだけ。
 今回の評者はヤバイ芝居と公社流体力学の2人です。どうぞ。

劇団夜鐘と錦鯉『扁桃と虚天球―なけなしの革命児の帰依に寄す―』
2020年12月24日~27日
会場 /ひつじ座 
演出・脚本 /中荄啾仁
出演 /いしいのぶあき、工祥仁、佐藤由夏、周苦楽、白雪すみ、髙城由、髙橋陸生
 あらすじ
 ラブホテル兼スナックの『天球』という店。そこにはとある一家が暮らしている。バーテンダーである父親は盲目、娘は亡くなった母の星を望遠鏡で探している。現在の母親は娘と微妙な関係で、兄はどこか愚かである。そんな天球に、母親を探しに扁桃腺の腫れた男がやってくる。

ヤバイ芝居(観劇者)

 演劇クロスレビューのコンセプトは「まだ誰にも知られていない劇団と出会って(作品を)世間に知らしめる」だと思っている。でも「誰にも知られていない」って今の時代は困難極まる訳で劇団夜鐘と錦鯉にしても公社流体力学よく見つけんなと思うも何となく劇研関係なのかと匂う前段階。ひつじ座は月蝕歌劇団と虚構の劇団(の試演会?)で来たことがある。ざっくりどっちなんだろ?と入場したら地方の小さな劇場で行われる社会人・学生劇団の雰囲気。始まる。
 開始1分で「子宮」「胎児」というパワーワード。月蝕の方だ。自然と顔がほころぶ。唐十郎の最初期の戯曲を思い出す。ついでに中也や寺山や清水まで思い出す。思い出しただけだ。いわゆる『アングラ』演劇だった。その意味で戯曲は堂に入っている。台詞の詩的質も高い。アングラ全盛の頃に地方の小さな劇場で行われていたであろう社会人・学生劇団の見様見真似(でしかやれない)のアングラ演劇とは一線を画す完成度が現代性だ。
 しかし、戯曲だけだとアングラ演劇にならない(なる気があるかは知らない)。「パリっとした役者体に言葉は寄り添うべき」(©︎唐十郎)なら現時点で寄り添うのはどっちなんだろう?と考える。(演出を含めた)稚拙な部分は旗揚げなんだし見逃したい気もするが、例えば『胸に望遠鏡を当てて「何が見えますか?」と問う』という(アングラらしい)場面で望遠鏡を当てた瞬間に「何が見えますか?」って早過ぎるよ!とツッコんで観るのは俺が悪いにしても細部のリアリティは大事だと思う。それでも(これ見よがしで笑った)白布(劇中では干してあるシーツ)が落ちた時の屋台崩し効果は満点で観客をハッとさせるラストは美学を見せてくれた。旗揚げだ。未来しかない劇団に半端な点数はいらない。次も観る。
1点。

公社流体力学(美少女至上主義者)
 ホテル兼スナックである店を舞台にした家族の物語であり愛憎劇とも見れる。そう書くと分かりやすそうだがいざ見てみると複雑怪奇な物語が展開される。星、ビー玉、お母さん、人形。木霊する言葉が一体何を意味しているのか考えながら劇世界に挑む。
 不思議な世界の中で感じるのはアングラへの愛。虚構性の強い物語は寺山、唐などの往年の巨人たちへ書かれたラブレターなのだと理解する。
 舞台となる天球の寂れたような美術やビー玉、望遠鏡の小道具も不思議な世界を構築する為力が入っている。
 この作品で特に愛を感じるのは終盤。怒濤の勢いで巻き起こる展開が何より楽しい。この異様な熱量こそアングラだ。全速力で物語は結末へ向かうが、観客に理解してもらおうという態度はなくドンドン観客をおいてけぼりにしている。全く意味が分からないどんな展開が起こっているのかちんぷんかんぷんだ。素晴らしい!作者の脳の中で展開される世界を原液で飲まされるのは演劇でしか味わえない。終わったあとの取り残された感覚、一体何を見ていたのか。考えて、感じて強い高揚感が残る。
 終盤は訳が分からなくて最高だが序盤中盤はどうなのかというと、ただひたすら訳が分からないだけである。何故か。
 ラムネ瓶の中のビー玉を子供として扱ったり、人形が本当に生きていたり。こういう幻想的な風景を観客に理解してもらうためスローテンポにしているのだが、それが体温の低さを招いた。そして熱量を犠牲にした割にはよく分からない。じっくり分からせるにしてはとっつき易い部分が薄かったように思えた。世界に閉じこもっている。だからこそ問答無用で世界をぶつける終盤が面白い。
 という訳で、欠点はあるけど美点もあるのでこの点数。 
6点

 という訳で20点満点中7点という結果。
 頭ではなく心で見る作品はどんなジャンルにおいても0か100かになりやすい。そういう意味で世界を貫き通したんだから点数低いのは名誉と考えるか、いや普通に残念だよ!と思うか。
 2人とも共通しているのはラストを評価しているということ。これが旗揚げ一発目、美点を更に磨き上げて低得点を出した我々を是非見返してほしい。
 (因みに、どうやって見つけたのかというヤバイ芝居氏の疑問への返答はこりっちで旗揚げ公演を検索したら一番上に出て来たと、答えさせていただきます)
公社

執筆者の紹介

公社流体力学
 2015年旗揚げの演劇ユニットであり主宰の名前でもある。美少女至上主義を旗印に美少女の強さを知らしめる活動をしている。やってることが演劇かどうかは知らんが10代目せんがわ劇場演劇コンクールグランプリ。5月に公演予定。

ヤバイ芝居
 観劇者。様々な劇団を観劇しておりtwitterにて多数の感想を書いている。九龍ジョー編集による雑誌『Didion』に寄稿しており演劇コラムニストとしての活動も行っている。

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