思弁逃避行 15.免罪符で包んで

  この世には昔、「免罪符」というものがあった。
 この免罪符とは16世紀にカトリック教が発行していたもので、簡単に言えば「あなたの罪を許すよ券」である。
 例えば、つまみ食いをしちゃったよ〜という時。でも、免罪符があれば大丈夫!人を傷つける嘘をついちゃったよ〜という時。でも、免罪符があれば大丈夫!上司の奥さんをグーで殴っちゃったよ〜という時。でも、免罪符があれば大丈夫!とんでもない代物だ。許されるなよ。ルターもブチ切れ。宗教改革が勃発するのも訳ない。

 そんなこんなでお騒がせな免罪符だが、実は現代にも免罪符は存在する。クレープの皮である。
 クレープは恐ろしいものだ。皆は友人が掌に生クリームをたっぷり乗せ、それを数粒の果物と共に頬張っていたらどうだろうか。私なら必死で止めるか、そいつの連絡先を端末から削除する。しかしどうだろう。それがクレープの皮というものに包まれた瞬間、その奇怪な食事は正常なものになってしまうのだ。こんなに恐ろしいものはあるだろうか。
 クレープという名の現代の免罪符。それは包んでしまえばどんな罪な食事も許されてしまうのだ。

 このクレープというものに含まれるカロリーは一つでおおよそ560カロリーくらいだという。このカロリーを消費するには3時間半のウォーキング、もしくは2時間のジョギングが必要だ。つまりあの薄い皮の中には2時間のジョギングが包まれている。しかし我々はそれに気づくことができない。なぜならクレープがそれを包み、その罪を許してしまっているからだ。
 クレープに、許せない罪はない。

 ほとんどショートケーキみたいなものを歩きながら食べたいよ〜という時。でも、クレープに包めば大丈夫!さっき甘いもの食べたけど、でっかいソーセージが食べたいよ〜という時。でもクレープに包めば大丈夫!生クリームにバナナと苺、それにチョコソースとチョコアイスを乗せた、よくわからないものを一度に食べたいよ〜という時!でも、クレープに包めば大丈夫!つまみ食いをしちゃったよ〜という時!でもクレープに包めば大丈夫!人を傷つける嘘をついちゃったよ〜という時。でも、クレープで包めば大丈夫!上司の奥さんをグーで殴っちゃったよ〜という時。でも、クレープで包めば大丈夫!

 このままではダメです。私はここで、現代のルターを待つ。食の宗教改革は近い。

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