思弁逃避行 06.麻婆豆腐実践
【06.麻婆豆腐実践】
中華料理を食べにいくと、100%の確率で口の中を火傷してしまう。
なかでも麻婆豆腐は驚異の保温性を誇る。凶悪なほどの熱さだ。しかも辛さも持ち合わせているため、他の料理に比べより一層ダメージが深い。なぜ我々はそんな麻婆豆腐を食べるのか。美味いからである。
そんな幸福と苦痛が隣り合わせの中華料理、麻婆豆腐だが、本場の人たちは一体どうやって安全に食事をとっているのだろうか。まさか待っているのか。冷めるのを。豆腐をほぐしては待ち、掬い上げては待ち、息を吹きかけては待つ。ここで一つ小話を挟む。そして話にオチがついたあたり、やっとの思いで口に運ぶ。安全である。しかしそれは果たして美味いのか。
やはり料理はあつあつの方が嬉しい。冷めている方が美味しいという料理はあるのだろうか。冷製スープというものもあるが、スープはやはりあつあつに越した事はない。きんきんに冷えたハンバーグなどは想像しただけでも具合がわるくなる。それが中華料理ともなれば尚更である。つまり麻婆豆腐を冷ます方法を知りたいのではない。あつあつのまま美味しく安全にいただく方法を知りたいのだ。
この事を考えるたびに小学生の頃を思い出す。チーズ味のお菓子だ。
チーズ味のお菓子は世に数多く出ているが、おおよそ全てがくさい。チーズくさい、というよりも、チーズ味のお菓子くさい。独自のくささだ。これがなんとも耐え難い。しかもしっかり美味いのだ。たちが悪い。これが不味いのであれば手に取らずに済む。なぜなら不味いしくさいからだ。だというのに美味いため我々は手に取る事をやめられない。くさかろうが美味いものは美味いのだ。
きっとあのくささを耐えるからこそ、あの美味さに辿り着くことが許されるのだ。だがそうなると、麻婆豆腐は火傷を耐えるからこその美味さということになるのだろうか。
幼い頃の歯磨き下手さゆえの虫歯。お菓子を食べることと虫歯はほとんどイコールであり、その二つはセットだった。麻婆豆腐も火傷をすることとセットなのだろうか。いやだよ。なにか対抗策を持っている方がいるのならば迅速に私に教えて欲しい。
さて、ではそろそろレンゲのうえの豆腐がさめた頃だろうか。
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