“Wind Turbine Syndrome: A Communicated Disease”(「風車病」:情報伝達病) 一部抜粋 仮訳

 チャプマンとクライトンの2017年の学術論文 “Wind Turbine Syndrome: A Communicated Disease”(「風車病」:情報伝達病)には、2009年に各国で社会現象を引き起こした「風車病」(風車症候群)の根本的な問題が詳細に記されている。

 簡単に言うと、ピアポントの「調査」は結論ありきで、政策に影響を与えるために風車が病気の原因だと信じてやまない反対派の声だけを拾った恣意的なものに過ぎず、また、彼女は電話インタビューのみで診察していない一方で、対象の家族の何割かに精神疾患、偏頭痛や耳鳴りなどの病歴があったことも含め、彼女の自費出版本は「査読」どころか、通常のアカデミック機関では倫理違反で処分の対象になったであろう代物だった。

 にもかかわらず、日本でも彼女を「権威」づけて、鬼の首を取ったように振る舞う個人や団体が今も各地にいて、報道もその主張だけを取り上げるので、世間が不安や恐怖に苛まれる状況は変わらない。まずは、以下の仮訳を読んでほしい。

37-43ページ(図表は省略) 仮訳:

ニーナ・ピアポントが「風車病」を発表

米国の小児科医ニーナ・ピアポントによる「風車病:自然実験の報告」と題する自費出版本の宣伝に伴い、インターネットでの言及が2009年から増加(Figure 2.1参照)。その本はピアポントとその本を編集した夫カルヴィン・ルーサー・マーティンが運営する自費出版社K-Selected Booksから出された。(以下を参照)K-Selected Booksでは登録が他に二冊しかなく、二冊とも夫によるものだ。

風車に関して、ピアポントとマーティンは「風車病」出版以前にNY州北部で注目を集めた。2005年8月、ピアポントとマーティンが世論をミスリードしているとの電力会社(the Noble Environmental Power Company)の苦情を地元の新聞が報じていた。二人は低周波ノイズと狂牛病との関連づける声明を出し、集会で演説していた。(すなわち、牛海綿状脳症またはBSE)BSEは肉骨粉からなるタンパク質補充物質を与えられた牛によって起こる。二人はウィンドファームからの「漂流電圧」で牛が死んでいると主張するウィスコンシン州の畜産者の苦情も広め、マーティンは「風車が出来て5、6ヶ月で14頭の牛が癌で死んだ。司法解剖の結果、肝臓が黒かった ...異常に大きな頭で目の無いメス牛が生まれた ...近所では350頭を失った」と記者に答えていた。

フォロワーのあいだで「風車病」における「権威」としてのピアポントの評判は、彼女が「風車病」と述べる:「睡眠障害、頭痛、耳鳴り、耳づまり、めまい、回転性めまい、吐き気、視覚のぼやけ、頻脈、怒りっぽさ、集中力や記憶力の問題、寝起き時の動悸の感覚または震えに関する恐ろしい出来事」を含む彼女の本から来ている。

彼女は風車によって病気になったと確信する、一度は風車の近くに住んだ、5つの異なる国の大人21人、子ども17人、計38人の10家族の健康問題を記述している。これらのうち23人には本人がインタビューしたが、インタビューしなかった他のメンバーは家族から代わりの報告を受けた。世界では今日およそ314,000基の風車と、これら周辺に住んでいる数えられていない何百何千もの人に対し、彼女のサンプル数はちっぽけなものだ。彼女がどのように選んで調査をおこなったのか、初歩的な問題に触れる以前に。

それでは、基本的に能力がある独立した査読者の誰もが挙げるであろう、彼女の調査に伴ういくつかの問題とは何か?第一に、著しい問題は対象者の選定バイアスである。インタビューした家族が、どのように選ばれたのか一言も書かれていない。「自分が見つけられる、最も酷く影響を受けていて最も的確な対象の集団を選んだ」とあるが、これらの人たちはどうやって見つかったのか?彼ら彼女らの健康問題について、すでに風力発電施設を非難していた反対派グループのネットワーク経由で得たのではないか?我々には知らされていない。

しかし、彼女が自身の調査について、とくに健康被害をウィンドファームのせいにしていた人たちに向けて、ウィンドファームに反対するサイトを通じて宣伝していたのは分かっている。これは、彼女の情報提供者たちは探し求めてウィンドファームに反対するオンラインのフォーラムにおそらく活発的に参加していた自己選択者たちであることを意味した。彼ら彼女らは風車によって傷つけられたとすでに信じている人たちで、当然ながら、それらに嫌悪を抱いていただろう。

加えて、彼女による募集の掲示は、始めから分かりきっている結論を踏まえた調査をしていると彼ら彼女らに知らせた:「目的の一つが、公共政策に影響を与え、世界中で、適切で医学的に責任ある風車の設置を確保するため」と。彼女の調査は、ウィンドファーム近隣に住んでいるだけで経験した症状をきっとそうだと思う人たちの声以外、一度も報告することは無かった。

ばかげているが、掲示には彼女の調査が「一年後に一流の臨床雑誌で発表される」と書かれていた。彼女の調査からは、どの論文も一流の雑誌に掲載されたことは無い。我々が言える限り、どの雑誌にも。

なぜ、彼女は「的確で自己選択する対象者」を選んで、無造作抽出のウィンドファーム近隣住民ではなかったのか?もっと根本的に、なぜ、彼女は対象群(風車の近くに住んでいても風車が原因とされる病気や症状を報告しない人たちや、同様の症状を経験していながら少しも風車の近くに住んでいなかった他の人たち)を調べることを少しでも試みようとしなかったのか?

驚くことに、彼女は情報提供者全員に電話でインタビューをし、一人も診察していない。4家族だけが何人かの医療記録を出した。しかし、これらは彼女の本では明確に参照されていない。家族のメンバーが他のメンバーの代わりの報告を出したが、彼女はどの家族のメンバーをインタビューしたのか、ウィンドファームに反対していた高い動機の情報提供者による報告の精度の疑問を考慮することも説明しない。事実、彼女は一人の情報提供者が風車の否定的効果を疑問視する下心があると疑い、拒否したと軽々しく記している(「他の家族の中で、一人の配偶者は明らかに家に居ることに専念していて、もう一人が言ったことを見くびったのは、分析から除外」。)同じことを口ずさむ者だけが含まれるというのが明らかに。

彼女は風車近隣に住む情報提供者たちと彼ら彼女らの家族の健康について、何ページもの情報を出している。

また、彼女は風車到来以前のこれらの家族の中での健康問題の広がりのまとめも出している。これらは興味深い。1/3の大人が現在か過去に精神疾患があり、1/4が従来から偏頭痛及びまたは難聴があった。6人が従来から耳鳴りが、18人に乗り物酔いがあった。一人は詳細不明の精神疾患に加え、アルツハイマー病さえもあった。

これらすべてが示唆するのは、疾病調査のデザインの最も初歩的な理解すら欠如していること。彼女の「調査」は、被験者の科学報告書になると称されている。彼女の本のどこにも、査読や倫理委員会で認められたとの言及が無い。認可されたアカデミック機関で、どの研究者も彼女がしたことをそのように認定無しですれば、懲戒か、おそらく失職するだろう。まともな研究雑誌では、どれも。そのような倫理認定無しの調査の発表を考慮することは無い。

まとめると、彼女の全「調査」は、風車が健康問題を引き起こすという見方にのめり込んだ一人の調査者に提供された報告に基づいている。彼女は不明のプロセスで選ばれた、憤慨していた情報提供者たちにインタビューし、家族の中で他のメンバーの症状の報告を「見くびった」少なくとも一人の対象者を除外した。彼女の情報提供者たちは風車が彼ら彼女らを傷つけていると強く確信していて、同じ見方の調査者に話した。

彼女の本には、彼女の調査が査読を受けたと書かれている。我々は、彼女が自ら選んだ人たちに原稿を送り、そしてオックスフォード大学ロバート・メイ男爵の(「印象深い、興味深い、そして、重要」)4文字「レビュー」を含め、彼ら彼女らの反応のいくつかを本に載せていたのを発見した。この問題後のメイの公での沈黙は、のちに考え直したことを示唆している。予想どおり、引用の査読者全員が彼女の調査は重要だと言っている。(自費出版本は否定的なレビューを載せない傾向がある)。しかし、査読プロセスとして、これは率直にばかばかしい。出版社が本について選んだ賞賛の抜粋を裏表紙の推薦文に加えるのに、査読は邪魔である。もしも独立した査読が、単に著者たちが彼ら彼女らの査読者を選んで最高の賛辞を載せる事であったなら!

原典:

Wind Turbine Syndrome: A Communicated Disease
https://ses.library.usyd.edu.au/handle/2123/17600

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