疑似科学の「風車病」騒動に終わりが来ない理由 続き

 先の記事では、三重の松阪で二つの風力発電事業計画に反対する住民らの運動の問題を取り上げたが、もう少し掘り下げてみる。

 「松阪蓮ウィンドファーム」をめぐっては、日本の緑の党の東海支部が昨年秋に「三重県は大型風力の餌食か?!」という警告記事を配信している。その内容は「櫛田川上流の蓮ダム湖を囲む台高山脈の尾根部に、60基もの風車を立て並べる計画です。大規模風力発電施設は、紛れもない自然”破壊”エネルギーです。動植物の死滅、周辺住民の健康被害、土砂災害、などなど計り知れない影響を産むでしょう。風車群からの騒音・振動・低周波による動植物や周辺住民に健康被害、豪雨で誘発される土砂災害など、影響は計り知れません。計画が始まったらもう取り返しがつかないのです」と続くもので、有無を言わさず、不安や恐怖、苛立ちや憎悪を煽る、いわゆる“scaremongering”でしかない。

 とくに印象づけたのは、Google Earthを用いて対象の地域の山々に60基の巨大な風車を並べたシミュレーションの画像や動画。この画像自体は地元の反対運動母体である「まつさか香肌挟環境評価委員会」が署名活動等のチラシに用いたものと同一に見えるが、事業者のリニューアブル・ジャパンは先日、新聞広告で今はまだ計画段階なので具体的なことは何も確定していないと否定している。

 緑の党の東海支部は同記事で、県内で進行中の他の事業者による現在の「平木阿波ウィンドファーム」事業計画に対しても「まだ終わったわけではなく、山頂付近の15基は無くなり、市内からの可視領域は大幅な低減となったものの、残る9基は採算面の是正から機種、出力の大型化が決定されており、山頂からの美しい景観が損なわれるのは勿論、一基当たりの造成面積、残土の量も大規模になることで、自然災害を誘発するような様々な不安要素は依然として残ったまま」などと綴っているが、「自然災害を誘発するような様々な不安要素」の具体的な根拠となるものは「大規模」だからという漠然とした理由以外、何も無い。

 さらに、「今の目先のお金儲けのために、取り返しつかないことをしてはなりません。CO2削減だと言って、森林を破壊するなんて本末転倒です。気候変動対策にはなりません。おまけに、投資企業は県外、それも外資がほとんどで、地元にはお金も落ちずメリットはありません。また、将来老朽化した風車群が捨て置かれる可能性も考えられ、地元には大きな負の遺産として残るだけです」と決めつけ、反科学のみならず、排外主義も隠さない。

 というのも、日本では衰退の国内林業の立て直しに風力など再エネが一役買って、地元の経済が回って持続可能な社会の実現に向かっている自治体の成功例が各地にある。代表的なのは、高知県の梼原町の風力発電による収益を間伐の補助金に当てている仕組み。必要なら、事業者と協議して同様の基金を設立すればいい。山林の保全はCO2吸収に直結していて、人工林の適度な伐採や再造林が無ければ、生物多様性も維持出来ず、定期的に手を入れなければ、土砂崩れなどの災害を招く恐れもある。

 林野庁の資料には「森林資源は人工林を中心に蓄積が毎年約6千万m³増加し、現在は約54億m³。人工林面積の半分以上が一般的な主伐期である50年生を超えており、木材としての利用期を迎えている」「一方、人工林の成長量は4~5齢級前後をピークに減少。我が国の人工林全体のCO₂吸収量も高齢級化等に伴い減少傾向で推移」とある。

 「将来老朽化した風車群が捨て置かれる可能性」もまた反対運動の決まり文句だが、事業者に撤去費用の事前見積もりや積立の義務があるので、低いというか不可能に近い話。この10年程のあいだに制度が厳格化された。ただ、日本は再エネの導入が大幅に遅れているので、資金や技術の面で外資の参入が必要不可欠な場面は多々ある。だから、その上で地元に利益を還元する仕組みを市民自ら主体となって築いていかなければならない。

 世の中の変化に合わせて古い知識をアップデートしよう。急には無理であっても、する意識だけは常に持っておこう。いつまでも他人事のように、NIMBYではいられない。

10/23/2022 加筆修正済

参考:

三重県は大型風力の餌食か?!
http://greens-tokai.jp/original/voice/%E4%B8%89%E9%87%8D%E7%9C%8C%E3%81%AF%E5%A4%A7%E5%9E%8B%E9%A2%A8%E5%8A%9B%E3%81%AE%E9%A4%8C%E9%A3%9F%E3%81%8B%EF%BC%9F%EF%BC%81/

「風力発電計画 ー 反対の請願可決 & 事業者のチラシ」
http://sanrinsya.way-nifty.com/tayori/2022/10/post-246aba.html

風力発電による売電益の活用
http://www.town.yusuhara.kochi.jp/town/environment/torikumi/furyoku.html

森林と脱炭素をめぐる情勢について
https://www.rinya.maff.go.jp/j/rinsei/singikai/attach/pdf/220309-7.pdf

事業計画策定ガイドライン (風力発電)
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/fit_2017/legal/guideline_wind.pdf

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