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綿矢りさ『生のみ生のままで 上・下』(集英社)

久々に綿矢りさを読む。デビュー作『インストール』も、最年少で芥川賞とった『蹴りたい背中』も説得力あったし、『夢を与える』を読みながら主人公の境遇に泣き、『ひらいて』の人間関係に悶え苦しんだ。

久々に手に取った綿矢作品は、装丁の美しさが印象的(名久井直子)。井上佐由紀の写真を静かに配置している。上巻と下巻で見返しやスピンの色を変えてあり、いずれも淡い色使い。テーマは女性同士の恋愛。出会ったとき、それぞれ付き合っている男性のいた、二人の美しい女性が、やむにやまれぬ激情にかられ、二人で生きていく道を選ぼうとする。

読んでいて、そこにはホモセクシュアル、バイセクシュアル、ヘテロセクシュアルの垣根がない。彩夏がまず宿命的なまでに逢衣に惹かれ、その気持ちが逢衣に通じた時、二人は二人で一緒にいること以外の道を見いだせなくなる。最初は同性に強い愛情を抱かれることに違和感を抱く逢衣だが、一旦心がオープンになった後の逢衣には、読者が不思議に思う位、葛藤がない。

二人の前に立ちはだかる障害、引き離された日々、そこからのゆるやかな復旧。長いタイムスパンの中、逢衣の視点を中心に、また、周囲の人たちとの関係も絡めながら、こしかたゆくすえが描かれるのだが、愛情そのものへの葛藤のなさが、この物語から妙に説得力を奪っている感じがした。作品の冒頭で逢衣が付き合っていた颯は、逢衣が10年近くも憧れていて、付き合うことになったこと自体が夢みたい、と思っていた彼氏だったので、逢衣の息の長さを伝えているようなのに、颯といるときの逢衣は本当の自分を出せていなかったようだと、彩夏も看破し、それ以外の人々も、いや、逢衣自身がそのように感じていた。では、彩夏の、雷に打たれたような、逢衣への強い熱情は一体何で、逢衣の中の何がそこまでそれに応えたのか? 物語の後半では逢衣はより能動的になり、顔を見ることも出来なかった長い年月の間にも、その愛情は衰えない。この倦怠感のない強い熱情が、非現実的に見えてくる、それは読んでいる自分の方がすれっからしだからなのか?

色々な愛情の形がある、ということは、言葉ではどれだけでも言える。愛情を傾けたい相手が、自分に対し同じだけ愛情を傾けてくれることの幸福をこの小説はひたすらに描く。お互いに自分の生き方をよりよくすることを考え、その中に愛情という灯がともっている。道は茨のようなのに、半端ない幸福感が物語を覆う。小説ってこういうものなんだっけ?、と疑問を持つのも変な感じだが、この物語に1年後はあるのか、10年後はあるのか、50年後はあるのか、となんだか問いただしたくなる。

美しい物語えだったのに、読書のカタルシスが得られなかったのは相性の問題なのか。

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読書、ヴァイオリン、オーケストラ、ビーズ、マラソン、ウルトラマラソン、観劇、美術館、ガレット・デ・ロワ、顔ハメ、ちょっとだけ乗り鉄。
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