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恩田陸『歩道橋シネマ』(新潮社)

恩田陸の7年ぶりのノンジャンル短編集。短篇、というか、ジャンル的にショート・ショートに属する作品も結構混じっている。オチ的には緩めでわたしのようなぼーっとした読者にすらこれでしょ、とわかってしまうものもあったが、全く味の違う小説を次々と読んで、ビュッフェ形式の食事をしているような楽しさも。

表紙は絵かと思ったら大山顕が撮ったジャンクションの写真。ちょっと不思議な、異世界への扉となっているいい装丁だった。

とりどりの作品の中で、作者自身あるいは作者を投影した一人称人格が出てくる作品が色々あり、この7年の間に作者が体験してきたこと(2度目の本屋大賞や直木賞といった激動)が控えめに投影されているのも、あとがきでの作品解説から伺える。冒頭「線路脇の家」を読んで、宮部みゆきの某作品(ネタバレになってしまうので作品名は伏せる)を思い出す。「春の祭典」は説明として、バレエに関する長編小説を書いている、その習作、とされていて、ピアノコンクールをあのように描いた恩田陸が、バレエはどのように描いていくのか、期待がいやます。一方、長年の付き合いで、「麦の海に浮かぶ檻」(勿論『麦の海に沈む果実』のスピンオフ)を同窓会的気分で読み、「球根」「あまりりす」のようなホラー的作品をぞくぞくと読む。「はつゆめ」は掴みが強かったので、オチをすごく楽しみに読み進んでいたらあっけなく終わってしまい、これを早く長編に展開してほしいと強く願った。「楽譜を売る男」は読み終わってみたらミステリーだったが、情景が目に浮かぶようで面白く、もう一つ「降っても晴れても」とあわせ、作者のミステリのセンスが心地よかった。巻末に置かれた表題作は、一人称主人公の叫びのようなものがあまりに切なく、しんみりと本を閉じることに。

ただ、一作一作が短めであっけなく、スピンオフ的な作品が幾つか混じっていることもあり、恩田陸初心者には勧めにくい作品となっている。というか、彼女の本質は長編作家で、長編を書く過程で零れ落ちたものを拾い上げて構成される短篇集を、これまで恩田陸を読んだことのない人には勧めにくいな、とも思う。彼女の様々な顔を愉しみたい方には是非勧めたい。

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