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毎日読書メモ(174)『海は涸いていた』(白川道)

2002年2月の日記より。白川道『海は涸いていた』(新潮文庫)は1996年に刊行され、1998年に文庫になり、この年に「絆」というタイトルの映画にもなっているようだが、今も、この映画の画像の表紙なんだろうか??

白川道は中瀬ゆかりと事実婚状態にあって、西原理恵子の漫画とかにも登場していたのは知っていたが、横森理香『ぼぎちん』のモデルだったのか! 今Wikipedia読んで知った。そして、亡くなってもう6年半もたつのか...。

以下が、2002年2月の記録。

わたしは、作者についてはなんの基礎知識もなく(カバー裏の作者プロフィールも読まず)まずこの本を読んだのだが、解説に、作者の人となりが書いてあった。これは読まずにまず小説を読んだ方がいいかなー、と思った。
ぐいぐい読んだ。途中でやめたくない、という力のある小説だった。

主人公伊勢孝昭は、自分の過去を封印して生きている。強い精神力を持ち、ストイックに生きていたのに、街角での偶然の出会いから、伊勢を取り巻く人々の人生が少しずつほころびていく...。
作品の中で、少しずつ伊勢の過去の人生が語られていく。その語りは意外にためた感じでなく(ああ、早く知りたいっ、と渇望するより前に種あかしがされる)、また母の死のくだりがちょっと弱いかな、と思ったが、真摯に生きてきたのに周囲の状況が彼に堅実な人生を送らせなかった理不尽さが、淡々と再現される。彼の周囲にいる人間で彼を嫌ったり憎んだりしている人は誰もいない。なのに、同じ拳銃が三たび使われることとなり、すべての登場人物が不幸な方へ向かっていく。

小説の後半の主人公は、拳銃殺人を追う警視庁の佐古警部に移る。
読者が、伊勢の回想の中で少しずつ知っていった伊勢の過去を、佐古は偶然や直感でどんどん手繰り寄せていく。ちょっと都合よすぎないかい?、って気もしたが、佐古の存在意義は、佐古が出来る限り多くの人を守ろうとして選んだ結末(伊勢が作ったシナリオを、佐古はあえて見守る)にある。また、佐古が事件の蚊帳の外にいようとするいいところのぼんぼんを一喝するシーンも素晴らしかった。
伊勢の私生活はすごく抑えた感じでしか描かれておらず、佐古の生活の方が緻密に描かれている(警部の私生活を描いている感じはちょっと宮部みゆきっぽい)。

あまりに異世界の物語なので(ひとことで言ってしまえば、これは児童養護施設出身者とヤクザの物語である)、特に感情移入した登場人物はいないのだが、伊勢や、彼を巡る人々の幸福を祈りながら読まずにいられない小説だった。
ラストは、本当に泣けた。


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