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原田ひ香『三人屋』(毎日読書メモ(387))

原田ひ香『三人屋』(実業之日本社、現在は実業之日本社文庫)を読んだ。読み始めて、あれ、この設定知っているぞ、と思ったが、大筋の物語自体は初めて読んだ。何かアンソロジーとかに入っていたかと思ったがそうでもなさそうだし、続編『サンドの女』(実業之日本社文庫)を先に読んじゃった、という訳でもない。謎は解けないまま読了。

東京郊外の街のラプンツェル商店街にある飲食店「ル・ジュール」、亡くなった父の遺した、喫茶店だった店を、朝は三女の朝日がモーニングを出す店として、昼は次女のまひるが手打ちうどんを出す店として、夜は長女の夜月がスナックとして経営している。過去の経緯があって、姉妹はそんなに仲がよくはない。というか夜月とまひるは殆ど口もきかない状態だが、その辺の事情は本を読み進めるとなんとなくわかっていく。
原田ひ香の小説だけあって、食べものの描写が実に魅力的。この街に住んで、朝昼晩と通いたくなる。そして、そんなにも食べものが魅力的なのに、物語自体は「美味しいもの食べてりゃみなハッピーでしょ」って展開になっていないところが面白い、というか悩ましい。

音楽大学でフルートを学んでいた父は、何故プロの音楽家にならずに喫茶店の店主になったのか。そして、1回だけプロオケで「運命」のレコーディングに参加し、4楽章のピッコロの部分を何回も店で娘たちに聞かせていたという。そのレコードが見つからないか、と3人ともいつもラジオ等で「運命」が流れるとびくっとする、というのが一つの伏線。

そして、店の常連でもある大輔(謎のフェロモンが出ていて、どこに行っても女たちが寄ってきてしまう、のは、彼にとってちょっと幸せですごく不幸せなことなのかもしれない)と三姉妹との関係、こそがこの物語の主題。なのに、読めば読むほど、謎は深まり、大輔と言う存在がなかった方が三姉妹は幸せに暮らせたんじゃね?、とすら思えてくる。三人屋、と呼ばれる、店の物語なのに、もしや、主人公は大輔?

音楽部分の設定がやや非現実的でちょっと醒めちゃう部分があるのと、登場人物が意外と多くて整理がしにくいのと、経済原理的な部分でちょっと甘くない?、と思える要素が多い印象があったが、その分、人間の心のひだの深さ、二面性、愛憎半ばする感情といった部分が読者の胸に突き刺さる小説だとも言えるかな。

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