見出し画像

柚木麻子『マジカルグランマ』(朝日新聞出版)

今年の夏に出た、柚木麻子『マジカルグランマ』を読んだ。昨年「週刊朝日」に連載されていたらしい。痛快な老女譚、と言ってしまうとなんか違う。グランマと言っても、主人公正子には孫もいないし、世間一般が「おばあちゃん」に対して持つイメージとはかなりかけ離れたキャラ。

若い頃、大部屋に毛が生えた程度の女優をしていた正子は、映画監督と結婚して引退し、息子を育て、義父母の介護をする。住んでいるのは都心の一等地の豪邸だが、夫は敷地内に離れを建ててほぼ別居状態、そして、お金は全然ない。国民年金を支払っていなかったので、年金も給付されない70代女子。あらためて芸能事務所に入り、細々と芸能活動を再開し、スマホのCMキャラに選ばれたことで、津々浦々に「ちえこばあちゃん」というキャラで顔を知られる存在となるが、夫が急死したときのマスコミ対応で失敗し、仕事を干されることに。どうなる正子?

何しろ、目次を見ただけで、物語の展開がどうなっていくのか全然わからない。「正子、おおいに嫌われる」「正子、ものを売る」「正子、またセクハラされる」「正子、お化けになる」「正子、虹の彼方へ」 一旦なんだか落としどころを見つけたな、と思うとそこで状況が急変する。起承転転転転転結、という感じで、どの「転」でも、読んでいるわたしの明後日を行くような行動を正子は取る。夫の映画が好き、と言って、夫の死後、押しかけで家に入り込んできた杏奈、幼馴染の陽子ちゃん、若い頃から正子を引き立ててくれた大女優北条紀子、近所のゴミ屋敷の主野口さん、近所の主婦明美さん、それぞれキャラが立っていて、物語をそれぞれに推進する力となる。

そして、タイトルの「マジカルグランマ」が深い。タイトルの由来を書いちゃうとネタバレになっちゃうので書けない、という位深い。老人の一般的イメージは打ち破るべきもの、というとまたちょっと違うけれど、世間一般が老人というものに抱いている印象に苛立つ正子の姿が愛しい。そして、正子も、正子の周囲の人も、気づかないうちに救われていくところに、この小説のカタルシスがあった。

一作ごとに全く違った話を書き、作風があるんだかないんだかわからず、代表作を作らない、そんな柚木麻子が好きだ。次もまた全く違ったテーマ、全く違った主人公で、わたしを魅了してほしい。

#読書 #柚木麻子 #マジカルグランマ #朝日新聞出版 #老いる #映画女優 #お化け屋敷

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?