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毎日読書メモ(236)池澤夏樹『また会う日まで』新聞連載完結

以下は2022年1月31日の読書メモだが、新聞連載完結から1年2ヶ月、とうとう池澤夏樹『また会う日まで』の単行本が刊行された(朝日新聞出版)。

2023年3月24日の朝日新聞記事も是非。

(↓2022年1月31日毎日読書メモ)
今朝の朝日新聞で、池澤夏樹の連載小説『また会う日まで』完結。たぶん、単行本になるまでに色々加筆されるような気がするが、今までの経験だと、新聞連載で読み通した小説は、本になってもあまり読んでないので、今の読後感が永遠にわたしにとっての『また会う日まで』の印象であり続けるかも。
わたしは中学生くらいの頃から、ずっと新聞の連載小説を読み続けていて、例えば遠藤周作の『女の一生』とか、椎名誠の『新橋烏森口青春篇』とか、宮本輝『ドナウの旅人』とか、曽野綾子『天井の青』とか、幾つも印象に残る小説を毎日ちびちびと読んできた。
育児と仕事と新聞読みが両立(三立か)しなくなって、連載小説を読み切れなくなったのが、池澤夏樹が『静かな大地』を朝日新聞に連載していた頃だった。2003年くらい? その後、新聞をあまり読まない時代が長く続き、2020年初頭、コロナ禍になってから、また新聞を読む時間がとれるようになった。長い空白。2020年の夏に池澤夏樹が新聞小説の連載を始めて、久々に新聞小説読みに復帰。作者の大伯父秋吉利雄の生涯をほぼ一人称で描いた小説で、地味と言えば地味、でも新聞連載ならではの味わいのある、よい小説だった。
事実に基づき(とはいえ心情的な部分は作者の想像で補完されているのだろうが)、池澤夏樹の父の福永武彦の母の兄にあたる、天文学者にして海軍軍人だった秋吉利雄の生涯を淡々と描く。
幼いころから聖公会の信徒として、キリスト教を信じ、一方で、海軍兵学校でエリート教育を受ける(この、学校教育の部分が大変興味深かった)。キリスト教と海軍軍人として生計を立てることの両立について思い悩む部分もあったが、水路部(海軍省の外局。海図製作・海洋測量・海象気象天体観測を所掌)の所属となり、天体観測や測量の仕事に従事。物語のハイライトは、ミクロネシアのローソップ島で1934年に観測された皆既日食を記録するために、軍艦「春日」で現地に赴いた記録である。この業績によって秋吉利雄の名は広く知られるようになり、天皇陛下とお目にかかった際にも陛下から皆既日食について言及されたと、小説中で書かれている。
ローソップ島の原住民の多くは宣教師によって布教されたキリスト教を信仰しており、軍艦春日が観測を終えて島を去る際に、讃美歌405番「また会う日まで」で送られたというのが、この小説のタイトルの由来になっている。
キリスト教を信じる一家の中で育ち、従妹の千代と結婚する。妹のトヨの縁談を取り持ち、トヨは武彦と文彦を産むが、文彦出産時に死亡、千代も出産時の病気で亡くなり、利雄はその後ヨ子よねと再婚、多くの子宝に恵まれる。この家族史としての局面も丁寧に描かれる(池澤夏樹の生誕の部分も書かれている)。また、海軍兵学校の同期だったM(彼は架空の人物、と連載後のコメントとして新聞に出ていた)と、加来止男(こちらはWikipediaもある実在の軍人)との交流も、重要な筋となっていて、空母「飛龍」の艦長としてミッドウェー海戦で戦死し海に沈んだ加来のことを思って、雨に打たれたのち、肺炎となって死に至る秋吉の最後の姿はとても切ない。

今日の最終回で、秋吉利雄の名前が、海底の山の名前の由来となっていることが紹介されている。2018年に「海底地形名小委員会(SCUFN)」という国際機関が、「秋吉平頂海山」と名付けた海山(海底から1000m以上の高さがあれば、海上に顔を出していなくても海山と呼ばれるとのこと)は北緯20度、東経156度あたりにあるとのこと。

から、「承認された海底地形名称」をクリックして「秋吉平頂海山(Akiyoshi Guyot)」を選ぶと、「我が国独自の天測暦を完成させた者(秋吉利雄)の名前を付与」と書かれている。
小説はこう終わる。

山頂は水面下一五七九メートル(ご近所においでの節はお立ち寄りください)。 秋吉利雄の業績は世界地理に名を残すほどのものだったのです。

2022年1月31日「また会う日まで」連載第531回

一年半、秋吉利雄と一緒に歩いてきて、結構幸せだった。
また会う日まで また会う日まで
かみのまもり 汝が身を離れざれ(讃美歌第405番 かみとともにいまして ゆく道をまもり)

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