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グリー藤本氏 × enechain CTO須藤による CTO Talk を開催しました!

enechain はこの度シリーズBで総額60億円の調達を発表し、開発組織は現在60名規模に拡大しています。シード期と比べて、テクノロジー組織が担う役割や、CTO/EMのとるべき振る舞いも大きく変わってきました。

今回、CTOとしての実体験をもとにした対談を通じて、開発組織・CTOとしての在り方をともに考える機会になればという想いを込めて、CTO Talkと題したイベントを開催しました。
ゲストとしてご登壇いただいたのは、グリー取締役CTOの藤本氏です。 enechain CTOの須藤は、新卒でグリーに入社し、グリーでのEM経験を経て弊社CTOになっています。須藤にとって、藤本氏はCTOとしての師匠とも言える存在です。

本noteは、2024年5月14日に開催されたグリー藤本氏とのCTO Talkの要約記事です。当日参加が叶わなかった皆さんにも、ぜひ本対談をご覧いただけると嬉しく思います。


2001年に上智大学文学部を卒業後、株式会社アストラザスタジオを経て、03年に有限会社テューンビズに入社。PHPなどのオープンソースプロジェクトに参画し、オープンソースソフトウエアシステムのコンサルティングなどを担当。2005年6月、グリー株式会社 取締役に就任。
グリーのWebゲーム部門にてバックエンド開発及びマネジメントを担当。メタバース事業の新規立ち上げに関わり、エンジニアマネジャーとしてリリースからチーム組成まで牽引。 その後ボストンコンサルティンググループのデジタル部門であるBCG Digital Venturesで事業立ち上げを複数回経験し、マーケティングベンチャー企業のCTOに就任。開発、デザイン、事業、組織の観点から全社のグロース戦略に携わる。 2021年10月にenechainに入社し、2022年7月にCTOに就任。2024年1月より執行役員。 早稲田大学大学院 基幹理工学研究科 情報理工学専攻修了 (修士)。

CTOとしての20年間で起きた役割の変化

須藤:僕は enechain にエンジニアとして入社して、CTOになったのは1年半ほど前なのですが、事業フェーズの変化とともに開発組織の在り方・CTOの振る舞いも変わっているなと感じて、今回のテーマを選ぶに至りました。藤本さんは何年くらいCTOをされているんですか?

藤本さん:2005年からなので20年近くだね。長ければいいってものでもないけれど (笑) 入社したタイミングはまだオフィスもなくて、肩書は「技術顧問」だったような気がする。

須藤:ある程度組織が大きくなったタイミングで入られたんですか?

藤本さん:当時はエンジニアも居なくて、お手伝いという感じだった。半年くらい経って取締役として入社して、その間にエンジニアが2人、あとインターンが入っていたね。最初にあったシステムを直して、バージョン管理もして…という詮の無い話です正直 (笑) そう考えると技術的には成熟したよね。

須藤:僕がグリーに居たのは10年前とかですけど、いまだにその頃の組織図を参考にしていたりしますよ。

藤本さん:10年前というと開発と事業で組織は分かれている時だったっけ?

須藤:僕が内定者時代にグリーでバイトをしていたのがグリーの設立から10年経った頃だったと思うのですが、ちょうど過渡期でしたね。バイトの時は開発本部にエンジニアの皆さんが居て、入社する頃にはプロダクトチームの中にエンジニアがいるという状況でした。
話は戻るのですが、グリーのCTOになった当初、採用も藤本さんが担っていたんですか?

藤本さん:僕がCTOになったとき、海外の大きいスタートアップのCTOが登壇するイベントがあって、「CTOの仕事とは何か?」って聞いたら「採用だ」と答えていたけれど、「やっぱりそうだよね」と。面接にも相当時間は割いていたね。

須藤:CTOの役割として「開発する」「採用する」などフェーズに応じた変化があると思いますが、藤本さんを振り返るといかがですか?

藤本さん:僕目線で言えば、最初に「1エンジニア」があり、重なるけれど「1チームの長」という段階があり、次第にレイヤーができるよね。自分の下にチームができてマネジャーができてという風に。その後は、「1本部の長」として開発本部にいるエンジニアが僕へのレポートになって、事業にコミットするべきチームは事業部へのレポートに移行して、開発本部はさらに共通の基盤としての役割が強まっていく。分かりやすいところでいうとインフラとか。次に来るのは色んなパターンがあるけれど、グリーは各事業が子会社単位になっていったので、自分の下なのか横なのかにもう一人CTOみたいな人が生まれて…というようなフェーズの流れかな。

須藤:どれくらいまで開発されていましたか?

藤本さん:プロダクションのコードを書く意味だと12,13年目くらいまでかな。そこから減っていったね。採用をし始めると、面接もしてデプロイもして…って複数ある重要な仕事が片手間になりかねないし、物理的に難しくなってくる。

須藤:僕も結構採用に時間を割いていますが、1日8件面談するとかあるので、なにもできないなという感じですよね (笑)

藤本さん:物理的な拘束時間も増えるしね。いいの、こんな生々しい話で? (笑) けどいまでもコードは書いてるよ。

日々の発言や振る舞いの積み重ね。じわじわと伝播させるカルチャー

須藤:少し話は逸れるんですが、最近組織図を見直しているんですけれど、今でこそチームトポロジーとか有名な本が出ていたり科学が進みつつあると思うんですが、当時の藤本さんはどうやって組織の在り方を判断されていたんですか?

藤本さん:あまり組織図をどうこうっていうよりも、会社が向かいたい方向、事業がより前進するためにどういう風に働くのがいいんだっけ?を考えていたくらいかな。その実現のために手段として色んなセオリーがあって、定式化されたものが増えてきたのは良いことだよね。たとえばレイヤー増やすなら当然組織図も変わりうるし、そうすることのトレードオフもあるだろうし、さっき言った事業ごとにレポートライン分けようという話になれば最適な組織も変わるよねと。これあるあるだと思うけれど、どうしても職能組織にいるとプロダクトコミットが下がるよねみたいな。他にも生々しい話を挙げるなら、プロダクトが上手くいって売上が上がった場合のインセンティブをどう設計するか、みたいな話もそうだよね。
結局、組織図っていうよりも、その組織図によって人がどう動いていくかを想像・推定しながら、「こういう形がいいかね?」と試行錯誤して、人にも依存しながら考えていくんだよね。

須藤:enechain で言えば報酬設計やミッション / ビジョン / バリューもちょうどいま見直していたりするんですが、カルチャーという文脈で藤本さんがされていたことってありますか?

藤本さん:CTOを20年やっていると言いつつ、ずっと未熟も未熟なんで偉そうなことは言えないけれど、20年前ってエンジニアリングマネジメント的な話って業界的にも未成熟だったから自分でやりながら学習したっていう感じだね。
1つ挙げるなら、リーダシップの基本と思うけれど、「スタンスに一貫性を持たせる」こと。なにが大事でなには大事じゃないか、これはやっていいがあれはやっちゃいけないということをハッキリさせる。エンジニア組織内もそうだし、会社が大きくなる中でプロダクトのチーム以外の人たちに対しても、「こいつはこういうやつだ」という共通認識を持ってもらうことには取り組んだかな。
たとえばenechain もそうだと思うけれど、技術は大事ながら技術を売っている会社じゃない。だから僕の考えとして、「凄い技術一つで勝負するというより、ゴールはプロダクトでありサービスでありユーザーであり、それを優先順位の上に置いて考える」というスタンスを持って、そういう風な人だと思ってもらうという感じ。日々の発言や振る舞いの積み重ねで伝わっていくものだと思うし、それが共通理解としてカルチャーになっていくんだと思う

須藤:ミッションやバリューといったこととは違った、CTOとしての振る舞いとそれが与えるカルチャーへの影響の話ですね。

藤本さん:そう、組織が一定大きくなると、直接影響を及ぼすことがどこかのタイミングが難しくなるよね。
その中で大事なポイントは2つあって、1つは分かりやすくルールや制約。物事の流れをある程度規定するものだよね。インセンティブ設計でも、組織の何らかのルールでもそう。でもこれって10個言っても、100人200人単位を相手にすれば覚えてくれない人も出てくる。
もう1つは、さっきのリーダーシップの話と同様に、日々の判断やアクションを通してじわじわと伝播するような動き。間接的に広く影響を与え続けていく。この両面が大事なのかなと思う。

「大事だけどしんどいこと」を後回しにしない

須藤:思い出話に花が咲いちゃいましたが、ここから上手くいかなかった話も聞きたいなと思います。事業や組織のフェーズ・規模が変わる中で、これ失敗したなと思うことってありますか?

藤本さん:世間のCTOの皆さんがどうか分からないですが、僕は上手くいったと思うことは一つもないですよ。常にもっとうまくやれたなって全般的に思っています。

須藤:もう一回タイムスリップできるならどうされますか?

藤本さん:大変だったからもう一回やろうって思うと、なかなかしんどいかな (笑) ただ実際そういうしんどいことばかりだよね。「もっとうまくできた」と言ってしまうと、以前や今いるチームの人たちに「うまくいかなかった組織で俺たちを働かせてるんかい!」ってなると思うけれど、そんなネガティブな話ではなくて、振り返ると一つひとつの判断やアクションに対して、更にうまくできることばっかりということね。
ダントツNo.1の分かりやすい失敗で言うと、最初チームを作ったときにミスった話。いまだに反省してる。20人いないくらいのチームで、「こういう風にチームを分けます」って話をしたら「お前とはやってらんねー」ってことでみんな会議室から出て行ってしまった。

須藤:それは凄いですね。なにが起因でそうなったんですか?

藤本さん:一つのというよりは複数ある原因の積み重ねだよね。個別の事象は当然あるけれど、それ一つでノックアウトにはならない。すごい広い意味で言うと、チームマネジメント力の足りなさが積み重なって、ある閾値を組織的に超えたということかな。皆さんには迷惑をかけました。
その頃はマネジメント1年目とかで、会社も大変、コードもガリガリ書かないといけないって状況で、切羽詰まっていたのもあると思う。

須藤:想像できないですね。藤本さんのことを悪く言う意見って正直聞いたことがなかったです。

藤本さん:人間やっぱり忙しくなると、あるいは言い訳できることがあると、「大事だけどしんどいこと」を後回しにするんだよね。不満がある人と話をするとか、色んなタスクを一旦忘れてその人とちゃんと向き合うとかね。重要っぽい仕事は他にもたくさんあって、「俺ちゃんと仕事しているし」って思うと、周りの人にも甘えが出て、本当に重要なことが先延ばしになって、あとで痛い目見るんだよ。

須藤:パツパツな状況でうまくワークしていない状況下で、たとえば予定を少し空けるなど、どんなことを変えられましたか?

藤本さん:たとえば誰かがのっぴきならない理由で1週間休むとか、あるいはこの人いなくなったらヤバイみたいなのってどの組織もあるけれど、実はだいたい居なくなっても回るようになっているんだよね。だから心構えとしては、自分であれメンバーであれ、究極目の前のやるべきことをやらなかったとしても、なんとかなるとは思ってる。
あとは心の持ちようとしては、嫌な方から先にやる、心理的負荷や不確実性が高いものから先にやるというのは大事かな。マネジャーって人を相手にすることも多いから、そういう「未来どうなるか分からないもの」ほど先にやった方が、トータル楽にはなると思っているね。だから平たく言えば、優先順位や取り組む順序の問題だと思う。

須藤:なるほど。惰性と言いますか、やらなきゃいけないと思い込んでいる仕事をやり続けて、状況が一変しないみたいなことはたしかにありますよね。そう言いつつ、他に本当にやらないといけないものに蓋をしていたりしますよね。

藤本さん:そう、僕も現在進行形であるんだよね。僕のお気に入りの本に、「やる気なんていうものはない」って書いてありました (笑) モチベーションないからやらないとか、考え方自体がナンセンスなんですね。仕組みで解決するっていうのは、やる気じゃなく頭を使えばできる話なんでね。

自分がCTOであることを前提に考えない。常に自分の居ない世界を考える

須藤:CTOとして大切にしている価値観や継続していることってありますか?

藤本さん:CTOがなんなのかにも依ると思う。スタートアップではリードエンジニアの側面があったり、あるいはチーフアーキテキストみたいな側面も会社によってはある。チーム持つとなればVPoEを兼ねたり、本来的には投資配分を意思決定するような経営者という役割もあると思う。
少なくとも初期においては全領域で重ね合わされている状況だろう中で、フェーズが進むと役割も分化していくじゃないですか。そんな前提で、”CTOとして継続していること” という問いに戻ったときに、正直立場によって答えは変わるから難しいよね。

須藤:まさに今回のイベントのタイトルにもあるように、フェーズによってCTOの役割は変わっていきますよね。その中で、藤本さんであれば20年CTOを続けられている中で、「なにが変わっていないのか?」「なには一貫しているのか?」はやっぱり気になりますね。

藤本さん:ずっと思っているのは、役に立たなくなったらちゃんと辞めようみたいなことかな。今ある立場・ロール・人間関係などトータルに考えたときに、「自分がどうすると良いのか?」はやっぱり考えている。その意味で、自分がそこにいることを前提に考えないというのは大切にしているかな。今あることの延長線上で考えると、その時点で話が狭まっているわけじゃないですか。自分がCTOじゃない世界の方が良いなら、そうすべきだろうし。
だから常に考えるのは、明日死んだらどうなるかなってことかな。組織に長くいると、自分の能力がどの程度のものなのか分からなるんだよね。で、チームのみんなから見て、長くいるだけで無能だって思われていたら嫌じゃん。だからわがままを言って、色んな立場や役割をあえて持たせてもらったりはしているかな。ずっと自分がCTOでよかったのかは、正直分からん (笑) ただ分からんって思っていることは、結構大事かもなと思っているね。

須藤:自分が組織にいない前提で、組織の在り方や自分の役割をフラットに考える、とても学びになります。初めて藤本さんと真面目な話をして緊張しましたが (笑) 今回はCTO Talk をご一緒いただいて、ありがとうございました!


enechain では今回のCTO TalkのようなEM・エンジニア向けのイベントを定期開催しています。コラボいただける方がおりましたら、ぜひ弊社メンバーまでお声がけいただけると幸いです!

また弊社はシリーズBを迎え、さらなる事業成長とその先にあるミッション実現に向けて、仲間を積極募集中です。少しでも興味をお持ちいただいた方は、ぜひカジュアル面談にお申込みいただけると幸いです。

本noteの対談イベントを映像でご覧になりたい方は、enechainの公式Youtubeチャンネルよりご覧ください。

最後に、この場を借りてご登壇いただいた藤本さん、ならびにグリー社に心より感謝申し上げます。ありがとうございました!

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