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(84) コップに半分
かずえさんは、横山町のおじさんの瀬戸物店で働いています。
月初めの日曜日は、棚おろしの日。アルバイトの若い人も2人加わって、朝から店中の食器の数を調べました。
おじさんが、かずえさんに耳打ちしました。
「あの2人のうち、ひとりを正式に雇うつもりなんだが、弱ったよ、いい子たちでね」
かずえさんは記帳しながら、つい2人の方を目で追っていました。ポニーテールの井上さんも、ショートカットの林さんも、きびきびとよく働きます。
割らないように棚から下ろして、すべての食器を数えるのは、なかなかの重労働でした。
お茶の準備をしているとき、かずえさんは玄米茶ではなく、ジュースを飲みたくなりました。大びんのオレンジジュースはずいぶん減っていました。少し飲んでみると、おいしさが体中にしみわたって、疲れがとれるようです。残った少しを、若い2人にも分けてあげることにしました。
休憩室の片隅で、2人はひと息に飲み干したようです。
![IMG_20210926_0009コップに半分](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/65467790/picture_pc_d623e83cf079492545aa0bea1dcfa531.jpg)
湯飲みを並べているかずえさんの耳に、林さんの小声が聞こえてきました。
「コップに半分でも、生き返ったみたい。ありがたいわ」
「でも、たった半分なんて、しまり屋ね、あきれた」
と、井上さんが言いました。
おじさんはどちらの人に決めるのかな。かずえさんは予想を胸に、だまってお茶を注いでいました。
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