短編小説 「大嫌い、大好き」

「あんたなんか大嫌い!」

彼女と喧嘩するといつも言われる言葉。本当は俺の事好きなくせに。でも喧嘩の原因を作ってしまうのはいつも俺なのだ。そこは反省している。

「ねぇ、いつも靴下は裏っ返しのまま入れないでって言ってるじゃん!」

「お皿またぬめぬめなんだけど。ちゃんと汚れ落として!」

「今日9時には帰ってくるって言ったじゃん!どうして遅くなるって連絡くれなかったの?」

「お酒臭い!あっち行って!」

「ちゃんとお風呂入ってから寝てよー。」

「今日ご飯連れてってくれるって言ったじゃん…。嘘つき!」

パッと思いつくだけでも全て俺が悪いのだ。そしてすぐ謝っても「謝るくらいならちゃんとして!」と言われるのだ。

何回も同じ事をしてしまう俺も悪いのだが。でも大嫌いと言われても最終的に俺の傍にいるのだ。なんと幸せな事なんだろう。

一緒に住み始めてもう少しで1年が経つ。サプライズはどうしようか。指輪を買おうか。まだ早いだろうか。そんな事を考えていたらまた今日喧嘩してしまった。俺が朝ゴミ出し頼まれてたのを忘れてしまったからだ。

「どうしていつもやってって言った事忘れちゃうの?」

あぁ、俺はダメダメな彼氏だな。

「ごめん。」

そして俺はまた謝る事しかできないのだ。

「一人暮らししてた時の方が全然良かった…。」

彼女から今まで言われた事のない言葉が出てきた。言葉にびっくりしたが、この一言がきっと今の彼女の本音なんだろう。ふと出てくる言葉が本音って事はよくある事だ。

「そっか、そうだよね。ごめんね。」

俺はまた謝る事しかできないのだ。ここで反論してしまえば彼女を傷つけてしまうからだ。

彼女は俺の顔を見る事なく家を飛び出してしまった。俺は追いかける事ができなかった。「大嫌い」という言葉も出てこなかった。

俺はとりあえず仕事帰りでスーツのままだったので上着を脱いでハンガーにかけた。そして恐らく俺のために作ったであろうテーブルの上のカレーを電子レンジで温めた。部屋に電子レンジが動く音だけが響く。

彼女は今日はもうご飯を食べたみたいだ。シンクに食器が置かれていた。俺は電子レンジが止まるまで彼女のお皿を洗った。いつも注意されるので隅々まで力を入れて洗った。

チンという音が鳴り、俺は手を拭いてカレーを取り出した。一口食べるとやはり美味しい。辛いカレーが苦手な俺にいつも合わせて作ってくれる。思えば彼女はいつも俺の事を考えてくれてた。感謝しかない。

カレーを食べ終えてしっかりとお皿を洗ってゆっくりとお風呂に入って、いつも風邪引くから髪の毛ちゃんと乾かしてと言われるのできちんと乾かした。そして洗濯籠にきちんと靴下を正して入れた。そして寝巻きを着て歯磨きをした。昔から面倒くさがりだけどこれからはきちんとできるようにしていかなければ。

時計は22時を刺そうとしていた。俺は部屋を見渡して何かできる事はないかと思い、とりあえず床をクイックルワイパーで拭き始めた。すると家のドアがガチャっと鳴った。

俺はドアの方を見た。彼女が立っている。

「お帰りなさい。」

「……ただいま。」

俺はふと何をしたらいいか一瞬分からなくなり、床をまた拭く事にした。

「……賢ちゃんのバカ。」

彼女は少し鼻声で言った。

あぁ、俺は彼女に愛されてるんだな。


END


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