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ロマンスが始まらない2

どうも山ぱんだくんです。後輩に「山ぱんさん、就活するならとりあえず前髪切った方がいいですよ」って言われたんですけど、ど正論すぎてビビるわ、マジで。

さてさて、山ぱんだくんと月曜の理屈
第四十三回は「ロマンスが始まらない2」
先に言っておきますが今日のはフィクションではございません。

第四十三回 ロマンスが始まらない2

先週、手術をした。下顎水平埋伏智歯抜歯手術…というとかっこいいが、要はアクロバティックな生え方をした右下親不知を抜いただけの話だ。親不知を抜かなければ…と思いながら何年も放置し、ようやく痛みに耐えかねて抜いた一本目から半年、なぜここまで時間がかかってしまったのか。イマージェンシーにしか上がらない私の重い腰のことはさておき、とりあえず半年も紹介状を保管してくれた歯医者さんには頭が上がらないのである。

手術を担当してくれたのは若いイケメン先生。イケメン、というのだが実はたぶん世間一般的にはそこまでイケメンではない、ということを注釈として入れておく。
というのもそこには私の脳内補正が大分入ってしまっているから。どうも、ある程度顔が整っていれば喋り方や仕草がキュートな人がめちゃくちゃイケメンに見えてしまう節がある。これは病気だな。申し訳ない。

まあそんなわけでイケメンに口の中に手を突っ込まれるというなかなか興h…失礼、気分昂るイベントが起きたわけだ。イケメン先生は手際よく私の歯茎に麻酔をぶっさし、肉を切り開き、歯を砕く(横向きに生えた親不知の処置というのがなかなかグロッキーである)。ここまでで10分もかかっていないのではないだろうか。とにかく流れるような早業だったのである。(お、こいつイケメンのくせにやるな…)と思っていたのだが数秒後にはそんな悠長な気分ではいられなくなる。

砕いて細かいパーツを取り除いた後、残った部分を抜くのだが、これが、ぬけないのだ。おいおい、性根腐った人間のくせにこんなところで踏ん張ってどうする。いい加減にしろマジで。エイエイと力が加わる奥歯。口を開けた状態で下かの歯を上に引っ張るものだから顎全体の骨格が皮膚の下で歪むのを感じる。右下を引っ張っているのに左上の歯茎が皮膚を裂いて飛び出てきそうなんですけど。歯の連動から上顎骨と下顎骨が皮膚の下をどのように通り連結しているのかなんて知りたくなかった。大きく口を開いた状態でイケメンに下あごを鷲掴みにされる。たとえイケメンだとて、ロマンスの欠片もない。あるのは阿鼻叫喚、地獄絵図、そんな類いの四字熟語だけだ。左側には補助に入っている年配のハゲ先生がいて、私の後ろから回した腕で頭全体を抱くように右頬をそっと支えながら優しく口の中の血を吸い取ってくれる。シチュエーションだけ見たら断然こっちの方がロマンスが始まりそうだ。無念すぎる。ハゲのじじいとなんて、始まりたくないよう、エンエン。

マジでチェンジをプリーズ。そんなことを謙虚に祈っていたら、ようやく、歯が、抜けた。

「歯、持って帰る?」というイケメンに涙目でうなずき、術後の処置を終える。ハゲ先生が去った後、分厚いバインダーを開きながらイケメン先生は尋ねた。
「僕、つぎ何日の何時って言いましたっけ?」

痛み止めと抗生剤をもらって局部麻酔に全身ふらつきながら帰路についた時、抜いた歯をもらっていないことに気付いた。おいおい、イケメンなのにポンコツかよ。

…悪くないな……

今週も最後まで読んでいただきありがとうございます。相変わらずロマンスは始まらないけど元気で生きてます。いえいえい。先週はパンをホットミルクに浸してふにゃふにゃにした離乳食みたいなものばかり食べていたんですけど、意外と、おいしいんですよ、あれ。もう赤ちゃんに戻りてえな。ばぶう!!

#エッセイ #コラム