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日記。本を作っています。物理的に。

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    毎週月曜更新エッセイ…日記? カツセさんの連載「カツセマサヒコと月曜の退屈」を(勝手に)引き継いで始まった連載です。

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    「よなかくんと月曜の理屈」ピックアップ記事。

最近の記事

クラクションは霧の中で 8話(最終話)

七話はこちら (睦月三十六歳 朔三十一歳 零二十六歳)  危ないから僕が運転していくよ、という零になんのために私が免許をとったのよ、と言い返し、おそるおそる公道に出た。もちろん公道で走るのは初めてではなかったが、周りにたくさんの車が走る中で何度もクラクションを鳴らされながら、こんなに恐ろしいこと、一度きりにしよう、と心に決めた。クラクションを鳴らされること計五回、なんとか家の裏庭に車をつけた時には私も零もクタクタだった。 「本当にこんなのでうまくいくのかなぁ。」 「

    • クラクションは霧の中で 7話

      六話はこちら (睦月三十五歳 朔三十歳 零二十五歳)  彼女はいつだって一番前の真ん中の席で、ピンと姿勢を正して教習所の学科講義を受けていた。そんな風に真面目に講習を受けているような人間は彼女の他にいなかったのでなんとなく興味がわいて、ある日の講義で彼女の斜め後ろ、つまり二列目の席に座ってみた。  その日は安全の確認と合図、という単元の日でモスグリーンのワンピースを着た彼女は「霧の中や見晴らしの悪いカーブでは自分の存在を対向車に知らせるために警笛を鳴らす。」という記述

      • クラクションは霧の中で 6話

        五話はこちら (睦月)  十一月の最終日の夜、僕はシュトーレンを焼いていた。本来ならばラム酒でドライフルーツを漬け込んだものをパン生地に練り込むのだが、零がラム酒の匂いを嫌がるので赤ワインで煮込むことにした。夜のキッチンに広がるワインとフルーツの甘い香りに包まれながら、僕は自分の心がとても正しいポジションにあるのが分かった。  ドライフルーツの赤ワイン煮(そんなものがあるのか定かでないが)が出来上がる頃、中種の発酵がちょうど終わった。ベースとなる生地にその中種を加えて

        • クラクションは霧の中で 5話

          四話はこちら (睦月三十五歳 朔三十歳 零二十五歳)  最近、嫌な夢をよく見る。その内容は全く覚えていないのだけれど、起きた時の気分は最低で、不愉快で、ただひどく嫌な夢を見た、ということだけ覚えている。  その感触だけがあって具体的な記憶がないというのが気持ち悪く、目を覚ました時にすぐにメモをとろうと試みたことがある。目が覚めた瞬間の夢の記憶はまだ鮮明だった。私は忘却の波に追いつかれないよう必死で、ひたすら手元のノートにペンを走らせた。「何よりも大切なのは、」そこまで書い

        クラクションは霧の中で 8話(最終話)

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        記事

          クラクションは霧の中で 4話

          三話はこちら (睦月三十歳 朔二十五歳 零十九歳)  小学校に行かなくなったあの日から、僕は人の嘘がすぐに分かるようになった。僕のよくないところはその嘘を全部ぶちまけてしまわないと気が済まないってところで、本当にこの性質には我ながら困らされたものだった。  気まぐれに学校に通っていた朔ちゃんと違って全くもって学校を拒否した僕の社会性を案じてか、母さんはいろんなコミュニティを控え目に提案してくれたけれどそのどれもが二回と続かなかった。今度こそ黙っていよう、ちゃんとやろう

          クラクションは霧の中で 4話

          クラクションは霧の中で 3話

          二話はこちら (睦月二十六歳 朔二十一歳 零十六歳)  深夜一時、乳白色のお風呂の中でバルセロナを飛び立つ前の飛行機からメッセージを受信した。それ自体がもう嘘みたいな出来事なのだけれど、それ以上に彼の綴ったラブストーリーの奇想天外さといったら事実は小説より奇なりを体現していて、その誠実で静謐な文面を何度も何度も繰り返し読んだ。私たちの奔放な叔父は世界のどこに行っても変わらず奔放で、自由と恋の人らしかった。 「僕、叔父さんについて行こうと思うんだ。」  零が唐突にそう

          クラクションは霧の中で 3話

          ほぼ日と取り調べ

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          クラクションは霧の中で 2話

          一話はこちら (睦月二十五歳 朔ニ十歳 零十五歳)  あの時どうして僕に話しかけたの、といつか尋ねたことがある。たしか目黒のこじゃれたバーに並んで座っていた時のことだ。彼女は幼い見た目に似合わない優雅な仕草でレッドアイのグラスを置きながらクスクスと笑い、そして答えた。こんなにも月のきれいな夜なのだから、という理由で何か大胆なことをしてみたかったの、と。 「月見バーガーを食べたことはある?」  池袋のパスポートセンターでパスポートが出来上がるのを待っていると、ふいに頭上から

          クラクションは霧の中で 2話

          クラクションは霧の中で 1話

          (睦月十六歳 朔十一歳 零六歳)  兄の名前は睦月といい、弟の名前は零、私の名前は朔という。睦月、朔、零、という名前は別に三人合わせて一月一日零時の年の始め、と意図してつけられたわけではなく、単に兄は一月に生まれたから、私は一日に生まれたから、弟は零時ちょうどに足の先まですぽんと抜けたから、という至極安直な理由でそれぞれ名付けられた。  私たち三人はちょうど五つずつ歳が離れていたので私が五歳で零が生まれた時、五年後には妹が生まれてくるものだと(つまり子供というのは五年毎

          クラクションは霧の中で 1話

          7月11日(木)

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          人生のテーマ

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          なんもできない日

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          なんかだめな日

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          もしもの余白

           三年前に会社を辞めた。新卒で(自分でいうのもなんだが)、激戦をくぐりぬけて出版社に入ったものの一年しかもたなかった。それからずっと余生のつもりで生きている。  会社を辞めて最初の一年は本当に何もしなかった。正確には、一応身分としては学生で、大学に科目履修生として戻って数学をやったり本を読んだり、小説を書いたり絵を描いたりしたが「働く」ということは一切しなかった。夏に漫画を描いて、やや投げやりに漫画のネーム賞に出したら翌年の二月に出版社から電話があった。担当がついたが、当時

          もしもの余白

          あいまいな生き物のほね3

           その日は朝から暑くて、日焼け止めを塗ったそばから汗をかくので果たして駅に着くまで顔面の皮膚上に残っていたのかあやしい。  ジェンダークリニック三回目の診察。待合室でハンチバックを読み始めたが最初のハプニングバーの描写ですぐに疲れて読むのをやめた。他に読むものもなかったので小一時間ほどただぼんやりと待った。  今回の自分史は小学校低学年まで。服装のことや遊びのことを中心に聞かれた。兄のおさがりを着るのが好きだったことや、たまに兄たちのサッカーに混ぜてもらっていたがボールが

          あいまいな生き物のほね3

          銭湯日記

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