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【短編小説】私のねがい

 私の名前は、斎藤真美さいとうまみ、二十五歳。血液型はO型。十二月五日産まれ。彼氏はいない。欲しいとは思っている。でも、なかなか出逢いがなくて。両親は離婚している。私は一人暮らし。職業は、認知症老人のグループホームで働いている。資格は何もないので、働きながら勉強して資格取得を目指す。
 私がこの職場に就職しようと思ったきっかけは、もちろんハローワークに載っていたからだが、お年寄りが嫌いではないというのが一番の理由。じゃなかったら、こんな給料の安いところに就職しない。最初の三ヶ月間は試用期間なので時給制。でも、それ以降は正社員として扱われる。賞与はお盆に一回、一ヶ月分の給与と同じ額が支給される。
 私が配属されている棟は九名入所できる。でも、今のところ六名しかいない。ここは、身体介護よりも認知症の度合いが進んだ利用者が多い。だから、徘徊はいかいや夜間せん妄が著しい。例えば利用者の中で、夜中になって寝ていたと思ったら、
「おとうちゃーん、おかあちゃーん!」
 と叫んで周りの人達が起きてしまう、という事態が発生することがある。それも最近増加してきた。
 もう一つの棟も最大九名入所できて、こちらは満室になっている。こちらの方は身体介護が多い。寝たきりとか。なので、職員は腰を痛めたりしている。それでも、労災扱いにはしない。施設長の方針で。だから自腹で病院に
行くしかない。そういうことも職員の不満として陰で言われているらしい。
 施設長は女性で五十代くらいかな、足が悪いのか少し引きづっている。施設長は医者をしている。でも、利用者の体調が悪くても診たりはしない。このグループホーム担当の病院の医者を呼ぶ。

 私がこのグループホームで働くようになってから数名の利用者が亡くなっている。死因は聞いた話によると、持病の悪化と老衰らしい。特に自分が担当している利用者が亡くなるのは辛い。それだけ情があるから。スタッフ一人につき、三名の利用者を担当する。

 今は自宅で資格の勉強をしている。今度の日曜日は実習がある。どんなことをするのだろう。気になる。資格をとる費用は給料から毎月天引きされることになっている。

 両親は健在していて、家は家族経営で農家を営んでいる。主にミニトマトと米を作っている。あとはお母さんが趣味で花を植えているのと、家族で食べる野菜(大根・人参・きゅうり、なすびなど)も作っている。

 家族は私と両親と弟と祖父母の六人暮らし。

 お父さんは四十八歳で、趣味は釣り。海釣りも渓流釣りもする。仕事が終わってから釣りに行く。近所の農家をやっている主人も釣りをするようで、一緒に行っている場合がある。海では時期によって鮭を釣ってくる。川で釣った時は、ヤマメ・ニジマスなどを釣ってくる。鮭はお母さんが三枚におろす。あんな大きな魚をよくさばけるなぁと感心してしまう。

 お母さんは五十歳。お父さんより二歳年上。漬物を作るのが好きみたい。沢庵を作っては、近所の奥さんのところにおすそ分けしている。この前、お母さんが私に、
「彼氏欲しくないの?」
 と訊かれたので、
「欲しくないわけじゃないよ、ただ出逢いがないだけ」
 と答えた。すると、
「あんたより若いけど、友達の息子さんが彼女が欲しいって言ってるみたいよ」
 そう言った。私は、
「え、そうなの? いくつ?」
 訊いてみると、
「十九だって」
 私は年を聞いて驚いた。未成年じゃん。それは……。そうお母さんに伝えると、
「来年、二十歳だから未成年じゃないじゃない」
「まあ、たしかに。でも、年下かー」
 お母さんは私を凝視しながら、
「なーに、若い男、いいじゃない」
 そう言った。

 私は正直、年下は頼り甲斐がなさそうで今まで避けてきた。まあ、その人によるのかもしれないけれど。私の理想の許容範囲の年齢は三十歳くらいまで。年下は論外。中学、高校、大学と同級生または先輩とばかり付き合ってきた。

 処女を喪失したのが高校二年の夏休みの彼の部屋で。初めてだったからなのか、痛かった。それでも私は彼の愛を感じた。私も彼氏のことは大好きだし。だから我慢できた。
 あれから五年の時が流れた。彼は今なにをしているのだろう。一年くらい付き合ったけれど、お互いの気持ちが自然と冷めてしまって別れることにした。なので、悲しくはなかった。彼も同じだっただろう。その彼とは今でも交流がある。名前は小島大助こじまおおすけ、といって信頼はできる。恋愛感情はもうないけれど。大助は真面目過ぎるくらい真面目で、人としても男としても面白みに欠ける。でも、万引きをしたり犯罪に手を染めるようなことはない。断言できる。私の方が不真面目に感じる。もちろん、犯罪に手を染めるようなことはしないけれど。

 弟はりくといって、二十歳で大学生。文学の勉強をしていると以前訊いた時言っていた。彼は本が好きで、大学から帰ってきたら友達とも遊ばず読書ばかりしている。友達と呼べる人はいるのかな? 昔から家に友達を連れて来たことを見たことがない。遊びに行くこともないみたいだし。ある意味、陸は少し変わっているところがある。女の子にも興味がないみたいだし、勉強するのはいいことだけど、なんせ、人と関わろうとしない。なぜだろう? ただ、単に人に興味がないだけなのかな、それならそういう人もいるから問題ないけれど。でも少し心配している。彼女も作らず、結婚もせず、子どももいない、天涯孤独な人生、というふうにならないか。昨日、陸の様子を見に部屋に行って、「何してるの?」と話しかけてみると、「小説書いてる」と言っていた。私には真似できないから凄いと思う。将来、作家になったりして、それはないか。そんな簡単になれたら誰も苦労しない。
「小説できたら見せて?」
「嫌だよ! ぜってー見せねー!」
「なんでよ、いいじゃない」
「恥をさらすようなもんだ」
「そんなことないよ」
 それ以上、陸は話さないで夢中になって小説を書いていた。弟はきっと私より頭がいいと思う。そこは羨ましい。だから私も陸に負けないように頑張っている。

 おじいちゃんは、おばあちゃんと協力して畑を作っている。おじいちゃんは七十六歳でおばあちゃんは七十四歳。まだまだ元気だし、かわいい二人。
 おじいちゃんはよく昔、若かった頃の話を聞かせてくれる。おじいちゃんもたまに海釣りにお父さんと一緒に行く時がある。鮭を釣ってくる時もある。でも、渓流釣りはしない。以前お父さんと一緒に渓流釣りもしていたけれど、転んで大怪我をしてからやらなくなってしまった、というよりお父さんに止められている。釣り好きなのに、おじいちゃんかわいそう。だから、お父さんが渓流釣りに行く時は、釣りに行く、とは言わない。出掛けて来る、と言う。渓流釣りに行く、とお父さんが言うとおじいちゃんも行きたがるから、お父さんなりの配慮だと思う。そういうところは優しい。
 おばあちゃんは甘いものが好きで、頻繁にあんぱんやジュースを飲んだりしている。そのせいか、おばあちゃんは糖尿病。そういう病気があるというのに、気を付けようとしない。私はおばあちゃんに、甘いものが美味しいから食べたいのは私もわかるけど、糖尿病悪化したら困るから控えよう? と言っても、ワシの楽しみをとるのか! と逆上してくるから何を言っても逆効果。それとも言う人によるのかな。頑固なおばあちゃん。

 おばあちゃんのことでお父さんが言っていた話なんだけれど、おばあちゃんにいくら言っても言うことをきかないで糖尿病が悪化しても仕方ないし、仮に死んだとしても、それはおばあちゃんの寿命だ、と言っていた。確かにそうかもしれない。でも、私としてはおじいちゃんもおばあちゃんも一日でも多く長生きしてほしい。だから、ふたりには健康管理には気を付けてほしい。そう思うけれど、現実はなかなか思ったようにはいかない。
 おじいちゃんは煙草は吸うし、晩酌もするし。七十六歳で喫煙しているおじいちゃんは凄いと思うけれど、体にはよくない。できることなら禁煙してほしい。焼酎も毎晩ではなく、休肝日を作ってほしい。

 私の願いはひとつ。みんなに幸せになってほしい。
 もちろん、私も幸せになりたい!

 
 
#私の作品紹介 #短編小説 #一次創作

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