【ショートショート】目標
僕は今、父を居間で殺してしまった。口論が暴力に発展し、僕が父を殴った衝撃で父は倒れ、木製のテーブルに後頭部を強打しそのまま動かなくなった。殺すつもりなんか全くなかった。
そもそも何で口論になったかと言うと、僕の結婚相手に父は反対していて僕は「父さんが反対しても結婚する!」と言ったのが始まりだ。
僕に母はいない。
当時、母が僕と散歩をしていて、幼少の僕は無邪気に歩道から車道に飛び出してしまった。そこへ大型トラックが走って来て、母は僕をかばい母はひかれ、僕は助かった。あの時僕が飛び出さなければ母は死なずに済んだはず。でも、そんなことを言っても後の祭り。僕は母をも犠牲にしてしまった。もう一度だけでいいから母に会いたい。会って謝りたい。
25歳の僕は24歳の彼女がいる。僕の名前は、大河原道彦。職業はスーパーマーケットの店員。体型は大きく、坊主頭。黒縁の眼鏡をかけている。煙草は吸うし、お酒も飲む。
彼女は久実という。職業は近くのコンビニでパートをしている。僕と同様、喫煙・飲酒はする。華奢な体で茶髪のロングヘア―。
父はまだ横たわっている。本当に死んだのだろうか? とりあえず、救急車を呼んだ。救急隊員にどうして倒れたか訊かれた。僕は嘘をついた。
「この部屋に来てみたら、倒れていたんです。それで、声をかけても反応しないし、慌てて119番通報したんです」
彼らは、わかりました、と言い残しタンカで地元の病院まで運んでもらった。もともとそこの病院に父はかかっていたし。
救急車には誰か1人一緒に乗って欲しいと言われたので、
「僕が行きます」
と言って乗り込んだ。
救急隊は、
「既に脈拍や血圧が0ですね。医師にももちろん診てもらいますが、お亡くなりになっています」
と言った。
「そうですか……」
残念さを装いながら、(僕が殺したんだ)と思った。後悔の念が沸々と湧いて来た。感情的になり過ぎてやり過ぎてしまった。僕が殺したことはきっとすぐにバレるだろう。いや、出頭しよう。その方が罪も軽くなるはずだ。
その前に久実に話しておこう。僕はLINEを送った。内容は
<久実、僕やってはいけないことをしてしまったよ。父さんを殺めてしまった。だから、結婚は先送りか白紙に戻そう。僕の勝手な行動で久実にまで迷惑をかけてしまい申し訳ない。これから出頭しようと思う>
久実は今日休みだろうか?
数分後彼女から電話がかかってきた。
『LINE見たよ! どういうこと?』
「父さんに久実との結婚を反対されたんだ……。口喧嘩になって、それが高じて父さんを殴ったら倒れてしまって……後ろにあったテーブルに後頭部をぶつけてしまい死んでしまった……。すまん……久実。君との結婚を前提に付き合っていたのに……。全ては僕の責任だ」
2人の間に嫌な間が空いた。暫くして、久実が洟をすする音がした。泣いているのだろう。それも僕の責任だ。
「道彦……。これから警察に行くんでしょ。その前に……会ってよ」
久実はすっかり声が暗くなっている。
「今から行くから」
彼女は何も言わず電話を切った。
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