見出し画像

【ショートショート】一目惚れ

 僕の家に1通の手紙が届いた。宛名は桐生夏生きりゅうなつおと、書いてあった。僕の事だ。一体、誰からだろう? と疑問に思った。なので、裏面を見てみた。大道奈津おおみちなつと、書かれていた。彼女は僕の元カノ。今更、手紙など送って来てどういうつもりだろう? 僕はすぐに開封せずに、自分の部屋のテーブルの上に投げ捨てるように置いた。

 僕は高校2年生の17歳。北海道のとある田舎町に住んでいる。家族は両親がいるが離婚していて、僕は母と暮らしている。ちなみに妹も同居している。名前は美咲、15歳。中学3年生。受験生だというのに全然勉強をする気配がない。大丈夫なのか? 母にも言われているが、学校で勉強してるから大丈夫! と言ってすぐに友達と遊びに出掛けてしまう。もう夏なのに。でも、僕はそんな美咲が大好きだ。シスコンと言われても否定はしない。でも、美咲はどうだろう。彼氏はいないみたいだが、もちろん血のつながった兄妹というのは大前提だけれど、僕のことを嫌っているのだろうか。そういう根拠になるものは何もないが。ただ、そんな気がするだけ。

 さきほどの大道奈津からの手紙を開封してみた。いやな予感がする。内容は、
『こんにちは! 急に手紙を送ってごめんなさい。でも、あなたのことがまだ好きで、それで手紙を書きました。もし、夏生にもまだあたしに気持ちがあるなら、お手紙下さい。でも、気持ちがなかったら無視してください』というもの。正直、ウザい。自分から別れを切り出しておいて、今更何をいってやがる! そう思った。だが、手紙は無視しなかった。なぜか、僕は自分の部屋の引き出しに入れてある、便箋と封筒とボールペンを用意し、短い文章を書き始めた。
『僕は君にフラれた男だ。なぜ、今更こんな手紙を寄越すのだ』
 そう書き、封筒に入れ再びテーブルの上に置いた。急にポストのあるスーパーマーケットまで行くのが億劫になった。あんな女のために手紙を書いたのを後悔している。手紙を書いた労力、切手代も出さないといけない。すべてが無駄に思えてきた。奈津の手紙に書いている通り、なんで無視しなかったのか。自分でもわからない。

 僕はどうやら未だに大道奈津のことを憎んでいるようだ。彼女からの手紙をみてそう思った。僕は奈津のことを本気で好きだった。生涯を捧げたいくらいに。とは言っても僕はまだ17歳。生涯を捧げるには早すぎるかもしれない。そう考えると、笑えてくる。まだ未成年だし。人としてもまだまだ未熟だと思う。でも、彼女は欲しいと思っている。

 大学受験も控えてはいるが。進路をどうするかは親と話してみないとはっきりしない。学校でも三者面談もあるだろうし、これから本格的に進路の話をしなければならない。面倒くさい。

 たまに思うのが、人生なんてどうでもいい、と思うことがある。保健室の先生が言うには、
「若い時はそう思う時があるよね、私もあったよ。思春期だし」
 なるほど! と思った。

ここから先は

840字

¥ 300

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?