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<エンデバー起業家インタビュー:宮坂貴大氏> 独自の道を切り拓く起業家たちの物語


ビジネスアイデアの発見と実現

Endeavor前田:
起業に至るまでの過程で、どのようにアイデアを見つけられたのですか?

宮坂:
世の中には何か具体的なアイデアがあってその実現にために起業する人と、「起業したい」と先に思ってからアイデアを考える人がいると思うのですが、僕は「起業したい!」という気持が先でした。
スノーボードに熱中して山にこもっていた時期に、当時の彼女(今の奥さん)の妊娠が発覚して、急遽、就職をすることになったんです。
当時は、もう数年スノーボードをしようと思っていたので、何をして稼ごうかと考えたときに、最初は大学院に通っていたこともあり、アカデミアに残り大学の先生になろうかと思ったんです。
しかしそんな中で、パタゴニアのイヴォン・シュイナードや、スティーブジョブスの本を読んで、自分も事業がやりたい!と思いました。
「世の中を眺めて、難しい論文を書くよりも自分で世の中を変える方に回った方がいい」と思ったんです。この資本主義の世の中で、一番インパクトが残せるじゃないですか。

ボストンコンサルティンググループに入社することになるのですが、既に入社の時から将来起業をしたいという気持ちを持っていたので、最終面接の時点で「将来的には起業がしたいです」と面接官に伝えたくらいです。そして入社3年後に、BONXに繋がるアイデアを見つけて起業に至りました。

事業アイデアに関しては以前から色々な創業者のストーリーを聞いたり、読んだりしてインスピレーションを探していました。
GoProのファウンダーはサーファーでありながらハードウェアを作り始めて、その後ビッグビジネスを成功させましたよね。それに対して、純粋に憧れて、かっこいいって思ったという理由が一つあります。そしてスノーボーダーである自分も同じようなことができないなと考えました。二つ目は、「自分もできそうだ」と感じたんです。自信があったから前に進んだと思うんですよね。
ただGoProと同じアイデアをやるわけではないので、自分のビジネスアイデアを思いつかないかなと考えながら長野県の白馬に行ったんです。そこで偶然にもGoProの社員と出会う機会があり、さらには雪山で友達とはぐれるという経験をして、その経験からインスピレーションを得たのですが、根底に「自分はできる」という気持があったので、神様がアイデアを用意してくれたじゃないかと思います(笑)。かなり運命的な出来事だったので、そこから先は全く迷わず進みました。

自己信念の追求

Endeavor前田:
起業されてから現在に至るまでの1番の困難や挑戦はなんでしょうか?

宮坂:
基本的に辛いことは、忘れていくタイプなんですよね。
むしろ、「困難があったからこそ成長できた」と勝手に、大変な出来事も良い思い出に捏造していくので(笑)

とはいえ勿論、いろいろと困難はありました。
例えば、海外オフィスを閉鎖しなければならなくなり、人員削減を経験したこともありました。加えて、クラウドファンディングを行った際には、資金調達はうまく行ったけど、プロダクトの質が低くて全部作り直しになり、資金が尽きかけたとか。
ただ、それは普通に経営者としてやらなきゃいけないことなんです。

それよりも本当に辛いのは会社の方向性や自分の存在意義に自信を持てなくなるときだと思いますね。
スノーボードを中心とするB2Cから始まったBONXですが、2019年前後でB2Bにピボットをしました。それと時を同じくして、社内では新たなリーダーを中心にカルチャーがガラリと変わりました。
僕自身色々あって自信をなくしていたときでもあったので、それでうまくいくならと新しいスタイルを尊重しました。
この時代の自分はリーダーとしてめちゃくちゃダサかったと思いますね。
 
しかしそれではチームも事業もうまくいかないことが明らかになり、再度自分がドライバーズシートに座って作り直すことにしました。
やはり上の機嫌を伺ってビクビクしてるチームよりも、のびのびとみんなが一生懸命楽しんでるチームの方がパフォーマンスが出るんですよね。特に僕らのようなイノベーションを生業としているような会社は。
創業以来のBONXのスローガンである「世界は僕らの遊び場だ」という言葉に、実はすべてが詰まっていたように思います。
 
結局前と同じような方向性に帰って来たわけですが、一度苦しい思いをした分、レベルはそれなりに上がったような気はしています。
色々な学びはありましたが、中でも「チームがすべて」ということが腹の底から分かったことが重要だったと思います。

新体制構築後の挑戦
BONXの目指す素晴らしいプロダクトとグローバル展開

Endeavor前田:
今年の5月に新体制構築、そして資金調達もされましたが、今後更に挑戦されたいことについて教えていただけますか?

宮坂:
シンプルに言えば、素晴らしいプロダクトを作り、それによって世界を驚かせたいと考えています。最終形としては、BONXを「全てのスノーボーダーが日常的に使っている当たり前の存在」にしたいんです。
もちろんスノーボーダーだけがBONXのユーザーだと考えているわけでは全くありませんが、それほど優れたプロダクトを作りたいという思いがありますね。

新しくCTOとして迎えたダニエルを中心に、素晴らしい開発チームが形成されましたので、より質の高いプロダクトを作ることができると確信しています。良いプロダクトを作れるかどうかは、チームの力次第です。チームそのものがプロダクトだと思っています。

さらに、NTTグループとの連携も非常に大きな成果ですね。
BONXも音声処理アルゴリズムやVoIPを独自開発していますが、それでもカバーしきれない部分があります。ところがNTTグループにあるNTT研究所の技術を活用すれば、音を特定の空間だけに閉じ込めたり、騒音の中でも音声のみをクリアに捉えることができるんです。

例えば、エンジン整備を行っている方々は、難聴を避けるためにイヤーマフを着けなければならないような騒音の中で作業を行っています。
そのような現場でも、NTTの技術があれば音声のみを綺麗に拾うことができるんです。さらにNTTと組むことで通信環境も提供できますし、全国をカバーすることができます。
このように大企業と組むことによって、BONXはあらゆる現場をサポートできるように進化しています。
ハードウェアとソフトウェアを統合してどんな現場でも使用できる機能性やユーザビリティを実現していることもかなりユニークで、調査した限りではBONXのようなアプローチを取っている企業は、ほとんど存在しません。
今後の取り組みに関しては、ユーザーに素晴らしいプロダクトを届けて喜んでいただきたいという思いが一番です。あらゆる現場の新しいインフラ的な存在になっていきたいですね。

もう一つは、BONXをグローバルに展開することです。
創業当初からその気持ちは変わっていませんが、より強力なチームになったことで、グローバル展開の実現可能性が高まったと感じています。

エンデバー国際選考(ISP)参加から得た洞察

第85回エンデバーISPのパーティで談笑するBONX CEO宮坂氏

Endeavor前田:
グローバル展開を意識してこられた宮坂さんは2019年にサンフランシスコで開催されたエンデバーのISP(International Selection Panel)でエンデバー起業家に選出されましたが、その時の経験についてお話しいただけますか?

宮坂:
最初は、パネリストの方々からBONXのビジネスについて、「一つにフォーカスをした方が良い」と言われました。当時、ハードウェアとソフトウェア、BtoCとBtoB、全てに取り組んでいましたが、「全てをやるのは無理だから、どれに絞るか考えた方が良い」という意見が出ました。
しかし、ディスカッションを進めるうちに、「たとえ、私たち(パネリスト)がアドバイスした通りにソフトウェアBtoBに絞って成功したとしても、それはあなた(宮坂さん)にとっての成功とは限らない。だから、結局は自分がやりたいことをやるしかない。私たちは応援するから、TAKA “HERO”になれ」と言ってもらえたんです。(僕の名前はタカヒロなので、その言葉はジョークでした。笑)
彼らは、「日本のような閉鎖的なビジネス環境で成功したら、日本にとっても良いインパクトになるだろう。だから、ヒーローになれ!」と言ってくれました。その言葉は本当に力になりました。
ISPのインタビュー自体は非常にロジカルでしたが、ここまでハイレベルな方々が集まっても、最終的には「やりたいことをやる」ということが一番重要なのだと感じました。

Endeavor前田:
ISPに参加することに対して抵抗はなかったですか?

宮坂:
ISPへの参加にはハードルが高かったですね。Q&Aにもしっかり対応しなければならないので、準備にも時間をかけました。しかしEndeavor Japanをチームをあげてサポートしてくれましたし、セレクションの過程で多くのプラスの要素を得ることができました。もちろん、インタビュー自体は非常に論理的でシビアですが、ISPを通じてパネリストとの距離が近くなったように感じました。結局のところ、人間同士であり、彼らは最終的に応援してくれる存在で、そういう方々が集まる温かい場所だと感じました。

Endeavor前田:
ISPへの参加を検討している起業家に対して、どのようなメッセージやアドバイスを送りたいと思われますか?

宮坂:
ISPは何度でも参加したいぐらいです。大変なこともありますが、とても有意義な経験です。
特に僕の場合は、サンフランシスコで開催されたISPに参加したため、AppleやSalesforceのエグゼクティブクラスの方々が真剣にBONXのビジネスについて考え、アドバイスをくれたり、自分自身の考え方が変わる部分もありました。グローバルな視点で自分の考えを深める意味で、ぜひISPに参加してほしいと思います。

次世代の起業家へのメッセージ

Endeavor前田:
最後に、次世代の起業家へのメッセージをお願いします。

宮坂:
これは自分が本当に大事だと思っていることなんですが、「毎日ご機嫌に生きること以上に価値があることはあまりない」と言うことです。もちろん起業だけがゴールでないと思いますし、起業して上場したとしても、それで何かが終わるわけではないですよね。
結局は「起業」というのは一瞬なので、そこから経営をすることになるんですけど、起業して経営して仲間と一緒に取り組む日々を楽しめるかが重要だと思うんですよね。
もしも今楽しくないのであれば、それはシンプルにもったいない。1回しかないんでね、人生は。
実はモチベーションはすごくシンプルにそこなんですよ。

今回、組織体制の見直しをする際に、岡本太郎さんの「自分の中に毒を持て」という本を読んだんです。
「積み重ねるってよく言うけど、積み重ねるとか、くそくらいだから、積み減らせ、何もない方が、楽だし楽しい。失敗した方がいいぐらいでやった方が、いいんだよ」といったことが書かれているんですが、確かにそうだなと思いましたね。
起業すると、責任とかいろんなものを積み重ねてきてしまうけど、起業する前は何もなかったんですよね。いろんなものを積み重ねてるけど、実際にダメだったら0に戻るだけなので、失敗にかけるぐらいのイメージで挑戦した方がいいなと思ったんです。
もちろん成功はしたいですけど、原点を忘れるとまた苦しくなってしまうので、原点を忘れない事はすごく大事だと思います。

Endeavor前田:
誠実で努力家な宮坂さんだからこそ「毎日をご機嫌に生きてこそ、本当の成功だ」と言う言葉に重みがあるのだと感じました。本日は有難うございました。

取材時は、渋谷の中心部にあるBONXのオフィスにお邪魔しました。
なんと自ら入り口で私たち取材班を迎えてくださった宮坂さん。終始、笑顔で取材に応じてくださいました。宮坂さんの思いがこもったBONXが世界中で新しいインフラとなる日が楽しみです!


<プロフィール>
宮坂貴大 (Takahiro Miyasaka)
BONX創業者。東京大学教養学部卒業・東京大学大学院総合文化研究科修了。新卒でボストンコンサルティンググループに入社しテクノロジー領域等のプロジェクトに従事。その後自らのスノーボードにおける体験を基にBONXを起業し代表就任。ニュージーランド オタゴ大学留学中には国際ツーリズム学会での論文発表を経験し、卒業論文は最優秀論文章を受賞。世界最大の起業家支援ネットワーク「Endeavor」からはEndeavor Entrepreneurに選ばれる(日本から7社目)。スノーボード・スケートボード・サーフィン・バスケットボールを愛する3児の父。
Blog: BEHIND THE NOISE
Twitter: @taka_miyasaka

・BONXのサービスはこちら
https://bonx.co/ja/whats-bonx/


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