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ソロサウナ・モノローグ | 20220125 | #フラグメント やがて日記、そして詩。21

昨日、「ソロサウナ tune」に行ってきた。

神楽坂駅を降りて、一本脇の道に入って、5分ほどで到着するところにある。予約でいっぱいで、僕がとれたのは月曜日の早朝、といっても9時20分から10時20分の60分間。2日前に予約確認のメールが送られてきて、チェックインの流れの動画が載っていて、見てはきたものの、やはりはじめての場所は少し緊張する。

ホテルやカフェが一体となっている真っ白い建物におそるおそる入っていく。一階はカフェスペースになっている。そのテーブルの一角がソロサウナtuneの受付になっていて、スタッフが二名ほど控えていた。よくわからずにうろうろしていると「サウナのご利用ですか」とお兄さんが声をかけてくれて、「そうです」と答えると名前を確認して、すぐに案内をしてくれた。

入るまえにサウナハットを貸してくれるというので少しテンションがあがった。ずっとサウナハットを使ってみたいという気持ちがありながら、なんだか恥ずかしいのでいつもタオルを巻いてなんとかしていたので、これでサウナーデビューも近い!と思いながらわくわくして案内された部屋に入った。

部屋数は4部屋だったか。そんなに多くなかった。スペースも広いとは言えないが、一人でサウナを楽しむなら十分なスペース。あるのは化粧台、ととのいスペースに椅子が一つ、シャワー、サウナ。化粧台にはBluetoothのスピーカーと化粧水、椅子にはバスタオル、シャワースペースにはソープ類一式、サウナにはロウリュ用の桶と柄杓。ロウリュは白樺のオイルが入っているとのことだった。

はじめての場所なので、とにかく、物色。しかし、そんなことをしているとどんどんと時間は過ぎていく。よく考えれば60分というのは、着替えやらなんやらも含むので、そうゆっくりとはしていられない。真冬の厚着、コロナのマスクを恨んだ。マスクをはずして、適当な場所に置く、というひと手間がわずらわしい。もう!と叫びながらなにもかもを無頓着に脱ぎ捨てて、シャワーを浴びた。

ソープ類はすべてマークス&ウェブ。なんだかアットホームな気分を味わいながら身体を洗う。冷えた身体を一刻もはやくサウナに閉じ込めたい。泡をシャワーで流して、バスタオルでぬぐい、念願のサウナハットを手にしていざ、サウナ。

80℃。

心地いい温度だ。一人が寝転べるくらいのスペース。まさかサウナを独り占めできる日がくるなんて。最近は、どこもサウナは混んでいて、汗まみれの男たちがベチャベチャ、ヌチャヌチャ、ウァ……みたいに群がっているし、なんだかヌシみたいな人たちがいると、新米の僕みたいのは気おくれしてしまう。僕なんかが一番上の段に座るなんて…とか気にしながら座っているのもなんだか気疲れする。が、しかし、ここでは、そんな気遣いは無用だ。ここには、僕だけしかいないのだ。寝転んでも、あぐらをかいても、体育座りをしても、どんなに足をのばしていても、誰も文句は言わない。

なんてすばらしいんだろう。しばらくして、身体から汗がしみでてきた。僕は代謝がいいので、とんでもない量の水玉が全身を覆っている。やがて、それらの水玉が身を結び、滝のように身体を流れていく。これが、老廃物だというのか。嘘だ。こんなさらさらと流れる水が、老廃物なわけがない。人の皮膚の内側に、こんな量の水が眠っていたとは。まさに、地下に眠る温泉が噴き出しているようではないか。そうだ、これは温泉なんだ。そして、温泉は、地球の、汗なのだ。そこには、さまざまな温泉成分が含まれており、そうだ、もはや、汗は、身体にいいのだ。誰かの汗は、誰かの身体に、いいのだ。

熱い。

しかし、もっと熱くなりたい。そうだ、ロウリュが、あるじゃないか。ここでは、ロウリュが、やり放題なのではないか。なぜしばらく気づかなかったのか。僕は柄杓を手に取って、白樺の香りのする水をすくった。そして、ストーブの石に、かけていく。

水の、一瞬に蒸発する音、そして、立ち昇る蒸気、香る白樺の並木道、吹きあがる、熱波。きた。ああ、もうひとかけ。さらに、たつ、熱風。ちょっと待て、サウナハット、あんまり意味を感じないじゃないか。あんなに楽しみにしていたのに、そのあまりに乏しい存在感はなんだ。いや、いまが、熱すぎるのか。

かつてない熱さだった。もうひとかけしたら、僕の皮膚は焼けただれてしまうのではないかと思ったくらいだった。でも、この段階が一段も二段もあがる熱さが、心地よかった。そして、僕の身体の用意ができた。僕はサウナ室を出て、サウナハットを杭にかけて、シャワー室に入った。

これが、サウナの本番といってもよい、と「サ道」には書いてあった。つまり水風呂なのだが、ここにあるのは冷水のシャワーだ。頭上に見たこともない大きさのシャワーヘッドが鎮座している。そして、目の前のノズルをまわす。

「冷ぇ!」

よく、サウナ雑誌に書いてある入り方だと、水は足元から慣らしていこうなんて書いてあるが、こんな頭上にあっては、慣らすも何もない。降り注ぐ冷水の思うがまま、僕は身体を差し出した。なんだか、ロウリュの水をかけられた焼石のような気分であった。僕の身体にあたった水は、たちどころに蒸発していく。そんなイメージがあったが、そんなのも束の間、冷たい水を身体がめちゃくちゃ嫌がっていた。

シャワーをとめて、バスタオルで身体を拭い、ようやく椅子に腰かけた。心臓がばくばく言っている。はあ、なんでこんなに身体をびっくりさせなきゃならないんだ。手すりに手をのっけて、深く息を吐いて、目を閉じる。

心臓が、身体全体を脈動させている。もはや、身体全体が心臓になったようだった。これは、なんだか覚えがある感覚だと思ったが、なんだかは思い出せなかった。というか、もはやそんなことはどうでもよかった。頭を椅子にもたれかけていると、脈動が、頭上へと逃げていく。スーッと、血液が、いや、なんだ、これは、魂なのだろうか、そういうものが、スーッと、頭上に、消えていく感じがする。ああ、なんだろう、これは、なんだろう、ふぅー・・・……。

トトノッタ、、、ノダロウカ。

僕はふたたび立ち上がった。

もう30分がたっていた。そのあと、がんばって3セットこなしたが、いちばん最初がいちばん気持ちよかった。最初の30分以後は時間を気にしてしまって、思うように集中できなかった。60分だと、ゆーっくり2セットやるくらいがちょうどいいのかもしれないと思った。

ドタバタと片付けて、ダイソンのドライヤーで髪を乾かして、マークス&ウェブの化粧水を塗って、汗のにじむ身体に厚着をしなおして、チェックアウトした。

すると、お兄さんが次回の予約はどうされますか。と言われたので、来月の予約もしてきた。どうやらここでなら1カ月先までの予約ができるようだった。一回だと感覚がつかめないので、もう一回来てみようと思った。

10:20。ランチにも微妙な時間なので、そこのカフェでモーニングを食べることにした。サウナ飯、というのはもはやなんでもおいしく感じるものだ。玉子料理とサラダとパンといういかにもなモーニングメニューを注文した。玉子料理はスクランブルエッグにした。

しばらく休んでいると料理が届いた。ナイフとフォークでワンプレートにところせましと盛られた品々に、なんだか英国味を感じながら、もりもりと食べた。なんておいしいんだ。

目のまえにブラウンチェックのスーツを着たイケメンのお兄さんが仕事をしている。神楽坂って感じがするなあと思いながら食べるベーコンの安定感はなんだ。さて、これからどうしようか、とモレスキンのリポーターをとりだして、予定をたててみたりする。

ひとまず、神楽坂をぶらっと歩いてみるか。

僕は来月のサウナ飯のあてを探しにでかけた。

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