見出し画像

【育児備忘録】夜中の授乳には猫が必要だった


 

 息子はほぼミルク派だったので3ヶ月くらいまではだいたい規則的に3時間おきに授乳していた。泣いたら、ミルクを作り、おむつを変え、とりあえず左右の母乳にトライしてから、ミルクを飲ませ、ふたたび寝かしつけるというルーティーンを続けていた。
 
この3時間間隔というのは、おむつを変え終わった途端うんちが出たり、寝てくれないうちにまたお腹が空いてしまったり、授乳と授乳がつながる事態になったりする。どこかの隙間でお風呂とご飯と家事もこなさなければならない。ただミルクは腹持ちがいいので、完母の方に比べたらちょっと楽なのだそうだ。

 

 とにかく、ちょっとの気の緩みでこの小さな人間を死なせないように、ただただ無感情に規則的に0時、3時、7時、10時、13時、17時、20時をこなした。今なら一晩くらい変わってほしいくらいだが、当時はとにかく眠くて寝たいのに少し気がかりなことがあると、つかの間の休憩時間もギンギン苛ついていた。

 

 とりわけツライのは3時(または4時)の回だった。
 
 泣き声で目を覚まし、抱っこしながらではなにもできないので、ベビーベットで泣かせたまま、急いで冷え切った台所に向かいお湯を沸かす。夜中の授乳に手間取らないように哺乳瓶はすべて洗い、ミルクも予め計量してミルクシェイカーに入れてあればいいがあまりの眠さに洗い忘れてしまったりすると悲惨だ。3時間前の自分を恨む。


泣き声に焦り、何杯目のミルクだったかすぐにわからなくなる。

 

 ただ、私には協力な助っ人がいた。
夜中の何時だろうと、私がお湯を沸かし始めるとわらわら集合してくれる猫たちがいた。

 
 最初の何回目かでなぜ私がお湯を沸かしているのか、いいかげん察しているはずなのに、それでも毎晩夜中の授乳では起き出してきてくれた。

ミルク缶の隣に個包装のおやつのカリカリをおいてみたものの、お湯を沸かしながら、ベビーベッドで泣き叫ぶ赤ん坊を残したまま、消毒した哺乳瓶の水気を切り、杯数を間違えずにミルクの粉を計量しながら、猫におやつをあげられる余裕が出るまでにはずいぶん時間がかかった。

あんなに大事な猫たちなのに1匹ずつおでこを少しこするくらいしかできない自分にふがいなさを感じる。

 そんな私を観察し終わると、1匹は先程まで寝ていた場所に戻り、もう1匹は赤ん坊を寝かしつけるまで、枕の隣に敷いた毛布の上で待っていてくれた。2回に1回は待ちきれずに寝入っていた。

 

 この世界にはもう誰も存在していないんじゃないかとすら思える真夜中の静寂さと心細さ。
夜がくるのが怖いと思ったのは初めてだった。
あの頃、3時半に家の前を通り過ぎる新聞配達の音と、授乳を見守る猫の存在にどれほど救われただろう。

 5時を過ぎて少しずつ明るくなっていく陽の光をどれほど待ちわびたことだろう。


 あれから2年。息子は2歳になってもまだ夜中に何度か起きることがある。新聞配達のバイクはいまも3時半に家の前を通り過ぎている。

 
 まだ1日が始まる前の薄暗い寝室で、寝かしつけた息子を体から引き離し、反対側に寝返ると、温かいふわふわの毛玉が私の枕の横でスタンバイしながらスースーと穏やかな寝息を立てている。

猫たちがまたいつか母を独占できる日を待ちわびている。

この記事が参加している募集

#猫のいるしあわせ

21,554件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?