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「地方移住」ってどこから?

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

今回のテーマは「#地方移住」です。

地方移住。以前、YouTubeで関連の動画を見た覚えがある。あれはいつごろだったか。履歴を遡ってみたけれど、見つからない。乏しい記憶を頼りに検索してみると、見覚えのある動画を1つだけ見つけた。これだこれだ。

この動画は2021年5月に公開されたもの。少なくともこのころは地方移住に興味をもってあれこれ見ていたようである。

安い家賃。広い家。緑豊かで静かな環境。

都会では得難いものばかりで、魅かれる気持ちは変わらずある。でも今は、ここまで山奥に移り住みたいとは思わない。

私たち一家は、23区外のアパートに住んでいる。都心からは離れているが、上掲の動画ほど山奥でもない、自然に近い郊外の街だ。

ここに住むことを決めたのは、コロナ禍真っただ中のころ。都心に行く用事もなかったし、まだ子どももいなかったので、ほぼ家賃と部屋の広さだけで選んだ。すぐ引っ越す可能性も視野に入れていたから、持ち家は最初から検討しなかった(そんなお金もなかった)。それから数年経ち、子どもが生まれて、この街のちょうどよさに遅ればせながら気がついた。

まず、保育園と病院の存在が大きい。徒歩で行けるし、かかりつけの病院が休みなら別の病院に駆け込むこともできる。保育園や病院を選べるというのがなんとありがたいことか。この安心感は、“ド”がつくほどの田舎ではなかなか得難い。

一方で、都心では望めない人と人の距離感に救われる機会も多い。スーパーのレジ係のおばちゃんと顔見知りになり、行くたびに可愛がってくれる。猛吹雪の日、積雪にベビーカーの足を取られて難儀していると、名も知らない通りすがりの人が助けてくれたこともある。人によって好きずきあるだろうが、子育てをする人間にはとても住みよい場所だと実感する日々だ。地域に歓迎されている感覚は、とても居心地がいい。

ところで、人によってはこの暮らしはすでに地方移住の範疇かもしれない。国土交通省によれば「地方とは、三大都市圏を除く地域をいう」とあるから、都内にある我が家はこの定義から外れるはずだ。でも、用語の定義と実状はまた別である。

調べると、自治体が移住支援の助成金を出していた。この点だけを見ても、「移住される側」と考えていい気がする。

そういえば、都心に勤める妻は会社の飲みの席で「なんでそんなとこ住んでるの?」と聞かれたらしい。都心で働く人の感覚からしても、都心に勤める人が住む場所ではないということだ。確かに、ここに移り住んだころは都心でまた働くとは考えていなかった。

どうやら我が家はすでに地方移住を済ませていたようだ。

地方移住といえば前掲の動画のような暮らしをイメージしていたから、なんだか前提が狂ってしまった。でも案外、こんなケースもあるのではないだろうか。

「いやー、そんなド田舎に住むのはちょっとねぇ……不便でしょ……」なんて思っているあなたも、実はすでに地方移住を済ませている側かもしれない。

執筆:市川円
編集:アカ ヨシロウ


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