静岡新聞「サクラエビ異変」の話を読みながら

『地方紙が見せた調査報道の矜持、記者が語る静岡新聞「サクラエビ異変」の裏側』

を読みながらの感想です。

「何のことだろう?」と気になるタイトルで静岡新聞が始めた「サクラエビ異変」が4年半の連載を閉じた。駿河湾へ注ぐ富士川流域に暮らす人々を巻き込み、行動に駆り立て、記者はさらに調査を深めて、また一歩進む。「課題解決型報道」としてジャーナリズムの世界でも注目された。その連載を担当した坂本昌信記者(現在、静岡新聞清水支局長)に話を聞いた。

一つ目は国策民営会社のダムに関する話

ダムの設置許可を与えた国に、ダム撤去や水利権の取り消しを質問主意書で求めた国会議員もいますが、政府は『現時点では考えていない』と解決を先延ばししています。国策民営の後始末が本来なら必要です。浸水被害を受けた集落は過疎地で、人がいなくなるのを待っているとしか思えません」

日本は誰も当事者になろうとしないのですよね。
福島の原発処理も含めて悪い意味で「時間が解決してくれる」のを待っているとしか思えません。

日本はエニアグラムのタイプ6の国で、タイプ6は通常、依存的であり、そのため内発的に動いたり当事者になることが苦手です。
タイプ6は未知や混沌も苦手とするので、あえて火中の栗を拾うようなことはしないわけです。

二つ目は産業廃棄物に関する話

現場でスタンバイしていると、トラックが汚泥を川に捨て始めました。『いま、やっている!』と携帯で電話、静岡市内の駐機場で待っていた同僚がヘリを飛ばして撮りました。

(略)

釣り師からは、富士川からアユがいなくなった原因ではないかとの情報も寄せられました。不法投棄の時期とサクラエビとアユの不漁が始まった時期は一致していたんです。中下流ではブヨブヨして弾力のある凝集剤入りと思われる汚泥が堆積していることも現場取材でわかりました。

山梨県には汚泥は下流へ流出しているはずだと1年ぐらい言い続けましたが、ブヨブヨの汚泥は堆積したまま。それどころか『静岡新聞が実験をやって凝集剤成分が出たら動きます』と言い放つ始末でした。

そこで、東京海洋大学のある研究室が4つの方法で凝集剤の分析実験を試み、私たちはその分析で明らかになったことを報じていきました。

すると、山梨県が業者に報告を求め、2009年から2019年の10年で、凝集剤入り汚泥の85.5%、計3万640m3が川に流出したという話になった。アクリルアミド系の凝集剤10.8トン、魚毒性の高いダドマック系5.2トンとアミン系が2.6トンも含まれていることが明らかになりました。

しかし、それでも山梨県は、この汚染物質を流し続けた業者に対しては行政指導のみで刑事告発をしませんでした。業者のトップは過去に山梨県の治水課長を務めた人で、忖度が働いたのではないかと思わざるを得ませんでした。

日本は「弱い者には強く、強い者には弱い」ですから。

未知や混沌を避けるのは、上から下まで同じです。
山梨県が汚染物質を流し続けた業者に対して行政指導のみで刑事告発をしなかったのも、未知や混沌を避け、当事者になるのから逃げたという見方もできます。

最近
『「通信の秘密の保護」に制限検討 サイバー攻撃への対処、政府が強化』

というニュースがあって、
「国内では政府による市民の監視にもつながりかねない」
というのがありましたけど、
「弱い者には強い」の強化だけに進むと見ています(あとはアメリカに言われるまま動くとか)。

※ 『宇宙からの緑のレーザーに、たぶん日本政府は対応できない 』

今回の話のようなとき、場合によってはどちらが対応しやすいか比べて、
静岡新聞のほうの動向を探り、圧力をかけるほうに動いたりするわけです。
法による正義や、かくあるべき正しさよりは、自分の身の安心・安全を守る方向にこういったものも使われるでしょう。

それは、
なぜか「ほぼ黒塗り」で開示 葛西臨海水族園建て替え計画 落札額431億円 小池百合子知事が語った理由』

のようになっていくわけです。

人でも集団でも楽な方に楽な方に向かっていくものです。

次は不正取水の話。

 だから、識者の助けを借りて、疑惑を記事で書いた。すると大当たり。2022年10月、国交省は、日軽金が過去35年間に約1億9000万m3の不正取水を行なっていたと発表しました。

 不正取水の量からすれば信濃川並み。信濃川同様、水利権が停止されてもおかしくない。しかし、更新の最中だった水利権の許可期間を20年から5年程度に短縮して、監視していくなど、甘い処分になった。

結局、大きな悪には対応できないのが今の日本となるようです。

『広末と不倫騒動の鳥羽周作氏 NHK「きょうの料理」が鳥羽さんレシピ全削除 公式HPから多数料理消える/デイリースポーツ』
という記事にたいする はてな のコメントに

「ジャニーズなど強い勢力におもねるが弱いやつには遠慮しないNHK」
「ジャニーズよりも強い制裁受けてるの笑う」
「ジャニーズの方をこのくらいの勢いでお願いしたい。タレントに罪はないが事務所を放置するのはダメだとおもう」
とあって、
この強弱を決めるのは、『自分達への影響度』となるようです。

それは我々だってそういうところはあります。↓

『抜けや漏れを指摘すると自分の仕事が増えるため、気づかなかったことにして有耶無耶にする過程が既視感しかない』

影響度が大きくなると、めんどくさいものを避けて有耶無耶にしたくなるのは、皆同じです。

次は桜えび漁についての問題。

1960年代の最盛期には年間7000トン超、2000年には2000トン超だった漁獲が、2018年以降、100〜300トンに落ち込みました。資源管理の優等生だと思っていたプール制が、獲り過ぎを招いているのではないかという問題意識です。プール制を提唱したとされる大森信東京海洋大名誉教授(連載中に逝去)は、漁業者自身が『プール制』を見直すべきだが、船主の利益を守るカルテルになっているのではないかと苦言を呈しました。

サクラエビ漁は静岡県の許可漁業ですから、資源量をもとに漁獲を決めるべきは県です。上限が決まれば自ずとプール制の見直しが必要になる。ところが、県は動かない。科学的根拠に基づいた漁業へ踏み込むと、私有財産に口出しするのかと反発を受けるのではないかと危惧している。

実際、サクラエビ異変で問いかけた『減船』という言葉には、『船は私有財産だ。誰の権限で減船なんて』と県を含めて漁業関係者にハレーションが起きました。

日本では、自分の安心・安全・安定を守る方向に行きがちです。また自分が安心・安全・安定であれば、かなり余裕がないと他に興味を持とうしません。


そのような中で希望も書かれていました。

――川の濁水問題も合わせ、行政がやろうとしない漁獲規制について、10人の学者が集まって「サクラエビ資源再生のための科学的政策提言」を発表しました。これはどのように実現したのでしょうか?

「連載が始まった初期に大森先生が、静岡大学特任教授の鈴木款(よしみ)先生たちを紹介してくれました。鈴木先生が『サクラエビ再生のための専門家による研究会』の立ち上げを考えてくれたんです。鈴木先生は官庁出身で、行政との闘い方をご存じだったのだと思います。

 研究会は、2018年から20年の春秋漁の漁獲量をベースに、2021年2月、漁業者に対して、今後、漁獲が回復したとしても最大200トンにすべきだと提言しました。また、行政に対しては、TAC設定のための調査体制や関係者からなる協議会の設置を提言しました。

 実は、県が同じようなタイミングで<『森は海の恋人』水の循環研究会>を作っていました。TACによる資源管理からは目を逸らすような結論を出すのではないか。そこで、私たちは同時並行で研究会を準備して報じました。新聞社が権威ある大学教授たちを集めて研究会を立ち上げたんです。行政がやる『審議会政治』へのアンチテーゼとしてやったのですが、ジャーナリズムの賞では、『アカデミズムとジャーナリズムの融合』だと評価していただきました」

――一般の読者にはあまり知られていませんが、早稲田ジャーナリズム大賞の2020年度「文化貢献部門奨励賞」をはじめとして「サクラエビ異変」は毎年のように賞を受賞し、調査報道を超えた「課題解決型報道」だと評価されるようになりました。取材現場である大河川富士川は、静岡と山梨にまたがり、静岡新聞としては難しさもあったと思います。最後に伝えたいことは?

「地方紙は『県紙』という言われ方をすることもあリますが、我々は民間企業であり、行政の縄張りは関係がない。互いに乗り入れしながらやるべきだと思います。川の流れも社会問題も県境はお構いなし。

 私は静岡新聞の前に毎日新聞の福島支局にいましたが、佐藤栄佐久知事(当時)が、収賄容疑で逮捕された時に、マスコミが中央集権的だから国がおかしくなるという話をしていた。マスメディアは中央集権を批判し地方分権を叫ぶが、当のマスコミが東京一極集中を扇動している、との趣旨だったと思います。

 新聞社は行政区画に振り回されることなく、記者は地べたの感覚と問題意識のもとに県境を越えればいい。そうでないと、県境にある問題はポテンヒットみたいなことになる。

 地方では、各県庁に記者が張り付いていますが、『川は誰のものか』と流域単位でものを見ていれば、富士川の話も戦後80年、放っておかれることはなかったのではないか。

 サクラエビ取材班の取材は『調査報道』を超えて活動家みたいだ、記者のやる仕事じゃない、という批判もあリました。

 しかし、問題をスクープして客観報道するだけじゃなくて、『人々が行動する手がかりを提供する役割』を果たす『課題解決型報道』が根付いている国もあると聞きます。新聞社の在り方として『あり』ではないか。住民の中に分け入っていくことも、一つのジャーナリズムのありようだと思っています」

先に
「佐藤栄佐久知事(当時)が、収賄容疑で逮捕」
がよく分からなかったので、
「佐藤栄佐久」で検索して見つかったものを貼っておきます。
『収賄額0円の収賄罪…“抹殺”された福島県元知事が“現在”を語る』


それで元の話に戻りますが、
エニアグラムのタイプにはそれぞれレベルがあるとリソ&ハドソンは言っています。

そして健全なタイプ6の記述にはこうあります。

健全なタイプ6は、自分のまわりで何か不適切なことが起きていることを感じ取ったり、自分が関与している組織の中で他者が力を悪用していることを察知したりすれば、怖れずに疑問を提起する。

静岡新聞の動きは、これに準じたものだと感じました。

タイプ6な日本の中で、
健全なタイプ6な動きをする人達がいることに希望を感じられました。

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