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起業によって何を解決し、どんな世界にしたいのか

果たしてエンタメを仕事をすることは幸せなのか。

と、よく考える。

愛知県の片田舎に生まれた僕は、幼少期にアメリカの音楽に夢中になった。HIP HOPだ。生まれて初めて買ったCDはブックオフで300円だった50centの”Get Rich or Dir Tryin'”である。マセガキ!

母親にお古のパソコンを貰ってからはYouTubeを見漁り、アルバイトするようになると小遣いでラッパーのCDを買いまくり、音楽がしたくて東京の大学を受験してなんとか合格し、上京を果たしてからはバイト代でターンテーブルとインターフェースを買い、仲間と音楽に明け暮れた。

楽しかった。当時は本当に、バイトか音楽しかしていない。没頭した。それからほんの少しだけ小遣いを稼げるようになり、でも全体で見れば大赤字で、それはそれで楽しかった。国内の色々なところに仲間も増えて、多少良い思いもした。でもある時、事情があって音楽は一切辞めて、当時の仲間とは疎遠になった。

で、就活の時期になれば当たり前のように音楽系の企業に就職し、丸7年を業界に費やした。

23歳から30歳まで。さほど長くはないが、決して短くはない時間だ。

後悔はしていない。好きなことを仕事にする楽しさは十分に味わわせてもらったし、素敵な思い出がたくさんある。出会ってよかったと思えた人たちもたくさんいる。何より、音楽が好きだ。エンタメだからこそ体験できる胸の高鳴りは、他の仕事ではなかなか経験できないだろう。

でも、幸せだったか?と問われると、すぐに頷けない自分もいる。

まず1に、ワークライフバランスは決して良くない(もちろん部門によるけれど)。なにせ週7日24時間、ビュンビュンと連絡が来る。曜日も時間もへったくれもない。社内の人、社外の人。パートナーにお客さん。現場があれば拘束時間はやたらと長いし、早朝稼働に深夜稼働もなんでもござれだ。締め切り直前やトラブル発生時といったらもう!掛け値なしに、マジで24時間フル稼働である。

2に、業界全体として成長産業とは言い切れない。特に国内の音楽業界は斜陽と言っても差し支えないほどで、①日本国内の市場があまりに大きい②言語的/文化的な排他性が高い、という2つの理由から、メインのマーケットが国内に絞られやすいことが根幹の原因となる。同じ大きさのマーケットに、次々新しいプレイヤーが参入するとなれば、個別で見ればシュリンクするしかない。
なお、「日本のIPは強いから日本のエンタメは世界に通用する」という論調はあるが、個人的にはあまり支持していない。凄いのはゲーム・アニメ・マンガのキャラクターIPで、具体的には任天堂・サンリオ・集英社などの一部のIPホルダー企業だけで、音楽・テレビ・映画・スポーツなどの業界は苦しんでいるから切り分けて考えるべきだし、あくまでIPが強いのであって周辺産業やITプロダクトは△である。

3に、2の現状もあり、給与水準はあまり高くない。この点はどの業界でも共通だろう。前提として、エンドユーザーが広い範囲の個人であるエンタメは最先端のDX競争になりやすいという構造を踏まえて、理由としては、下記の4つが挙げられる。
①ヒットの有無によって業績に波が出やすい収益構造のため、基本給よりもインセンティブやボーナスで社員に還元する考えの企業が多いこと
②最終的に希少性が高まるのはプログラミングやマーケティングなどの(特にITの)専門性の高い人材となるため、いわゆる「エンタメ出身」の現場叩き上げ人材の評価が上がりにくいこと
③音楽業界でのライブ制作やアニメ業界でのイラストレーターなどの「下請け」「孫請け」業態は価格競争が起きやすく、社員に還元されにくいこと
④国内で市場を取り合っている最中、外資の強いコンテンツやITプラットフォームが日本の大きなマーケットのシェアを取りに参入してきやすいこと(音楽領域ならSpotifyやTikTokなど)

最後に、ビジネスパーソンとして成長できる環境かと考えると、そうとは言い切れない。この理由は、下記のように挙げられる。実際に中で働いてみて、他社の友人の話なども踏まえた上での、あくまで主観だ。番号が若い方から、上流の原因となっている。
①算盤よりも浪漫が強い業界だからか、業界ごとのレガシーが事業推進にまっすぐ向かっていない
②「企業としての思想」「ビジネスの流儀」が希薄なことが多く、人材育成や起業推進に定評がある企業の名を聞かない
③現場レベルでのマネジメント構造や評価体制が不透明なことが多く、抜擢制度も少ない
④チーム内外の分業が明確でなく、業務の専門性を高めにくい
⑤キャリアのゴールや方向性を想像しにくく、全体感が分からない。そのため、キャリアステップとして的確でない異動や転職が多い

と、少し上から目線で語ってしまった。(スミマセン・・・)

ただ、僕としても、正直に言えばこの業界に対しては愛憎入り混じっているというのが本音だ。

前職で音楽系の大手にいた僕は、仕事のストレスで激痩せして髪には白毛が多く混じり、両親にはひどく心配された。昼夜もなく働いて、プライベートもあまりうまくいかなくて、挙げ句の果てにはコロナによる業績悪化も一因として、28歳時点で年収は300万円だった。23歳で入社した時と一緒!(この点については他にも色々と言いたいことがあるが、ここでは割愛)。

思い返すと、当時の会社に憧れて入ったは良いものの、結構悪辣な環境だったと思う。ロクな教育もしてもらえず、当然仕事も全くうまくいかなくて(もちろんその多くは自分の未熟さが原因である)、当時はその先のキャリアをどう描けばいいのかが全く分からなかった。仕事ぶりは尊敬できるが人として嫌いだった上司が「お前には将来のビジョンはないのか!俺がお前くらいの時の頃はな・・・(略)」なんて1on1で能書きを垂れてきたのをよく覚えている。

すると、ある段階で自分の成長を実感した瞬間、「あ、この会社はもういいや」と思った。それはもう明確に、村上春樹が神宮球場でバッターがヒットを打った音を聞いた時に「小説を書こう」とふと思ったのと同じように、はっきりと思ったのだ。ひとしきりを覚えてようやく愛着も出てきた仕事で、先輩や後輩にも恵まれ(もちろん全員ではない)、やっと部門を超えてキラキラと仕事ができる楽しさを知った瞬間、全てが醒めてしまった。まるで彼氏に愛想を尽かした彼女のように、なんだか急に、それまで愛おしいと思っていた会社に対して、心が全く動かなくなってしまったのだ。

その後、速攻で転職活動をして速攻で内定が出て、現在勤めている会社に来たのだが、社風は180度異なり、しったもんだありつつも人生の幸福度は上がった。というか、爆上がりである。今となっては当時の同僚に「うわ、あんな青白い顔した社畜だったのに、見違えるほど顔色が良くなったね」と茶化される。白髪もだいぶ減った!
※ちなみに、今の職場ではまた別の悩みがある。第一話参照・・・

話を本筋に戻すと。

エンタメが好きでエンタメ業界で働くことは、あまり幸福ではない、と僕は思う。

先述の通り、エンタメで働く喜びは無二だ。でも、それがネガティブな気持ちを上回ることは、正直に言えば、ないとさえ思う。

その理由を一言で表すと、この業界には情報に限らない「非対称性」が多すぎる、ということだ。

思えば、昔からそうだった。

アメリカの音楽が好きだった僕は、貪るように海外アーティストのCDを買い、MVを見漁り、ミックステープをチェックした。曲は最高。かっけえ!しかし、言ってる意味が分からない。知りたい、けど英語だから歌詞が分からない。調べても和訳が出てこない。Geniusみたいな歌詞サイトはあるが、全部英語。補足も英語。なんとか自分で訳してみるも・・・スラングや口語が多いし、ニュアンスが分からない。僕、英語の偏差値65ぐらいあるんだけどな・・・
10年以上前の当時はともかく、今でもそんな現状だ。世の中には自動翻訳という技術があり、ビデオ会議の自動議事録があり、生成AIまである時代に、たかが英語の歌詞が分からないなんて!近年は韓国のアイドルが人気で僕も大好きだけれど、なんて言ってるか分からない!英語ならまだしも、韓国語なんてお手上げハムニダ!

これは、言語の非対称性。

他にも、僕は田舎の生まれだったから、周りに海外の音楽が好きなやつなんてほとんどいなかった。僕がSnoop Doggの新作を聴いていると、周りはEXILEを聴いている(僕も好きだけどさ・・・)。つまり、田舎じゃちょっと浮いていた。ファッションでいわゆるB系(死語)の服を着ていると、彼女に「そういうのなんかヤダ」って言われて慌ててユニクロでチノパンと無地Tを買った。これが名古屋や東京の首都圏ならそんなやついっぱいいるし、ダンサーみたいに見目が派手な人間だって多いから、違和感はない。一方の僕はB系の服を着たヤンキーの先輩に絡まれ、「お前調子に乗ってるな」ってバチバチにしばかれた!なぜそうなる!

それはまあ冗談として、今でも郊外都市に住む人間は、好きなアイドルの遠征に行くのにも一苦労だ。インターネットがあるから情報は時差がないとしても、北海道や鹿児島の端っこに住む人間が東京ドームにSixTONESのライブを見に行くのって、結構大変。僕は海外のアーティストが好きだったが、Wiz KhalifaやTravis Scottは日本でライブなんてしないからYouTubeに齧り付くしかなかったし、万が一来日した時も東京しかあり得ないから、いけない。一回くらい、コーチェラやララパルーザみたいなフェスに行ってみたい。生でNBAも見てみたいし、チャンピオンズリーグも見てみたい。でも、それは簡単じゃない。

これは、地域の非対称性。

他にも、就職。僕はある大手企業に、グループ全体の新卒採用ではなく、グループ企業のインターンからの中途入社みたいな形で就職した。社長面接に合格したは良いものの、入社と同時に起きたグループ全体の組織変更によって、事前に提示されていない辛い条件での入社となり、待遇は良いとは言えなかった。当然、非正規雇用だ。同じ形式で一年前に入社していた先輩には「可哀想な世代だよね」と同情された。その人たちや、同年代の新卒採用の人たちは同じ業務内容なのに待遇が全く違う。そんなこと聞いてなかったよ!
でも憧れの会社だったから仕事を頑張って、5年後にやっと条件が良くなって、めっちゃ嬉しかった。でも、僕と同じ形で2年後に入社した後輩も、全く同じ時期に、僕と全く同じ条件で昇格。僕の方が貢献してるんだけどな・・・。で、そのことを当時の上長(先述の嫌いだった人)に告げられた1on1では、その人から「よかったな!夢が叶って!俺がお前くらいの時の頃はな・・・(略)」と能書き。その時ははっきり、ナメんじゃねえ、って思った。

これは情報の非対称性(エンタメに限った話じゃないけれど)。でも、好きだという情緒的な理由で選ばれがちなこの業界でこの仕打ちは、ちょっと酷いんじゃないかと思う。そしてこのことは、エンタメ業界の他の領域/企業でも起こっている。

・言語(国の違い)
・地域(距離や文化的背景の違い)
・情報(企業と求職者の違い)

挙げきれないが、他にもたくさんの「非対称性」がある。

大好きな世界なのに、なんか公平じゃない・・・
それが、僕がこの世界で働くことがあまり幸福ではないと考える理由だ。

そしてそれは、ビジネスを起こす理由になる。起業の本質は、どこかにある負を解決し、対価を頂くことだからだ。

僕が起業して解決したいのは、「エンターテイメント業界の非対称性を解消すること」。

では、具体的に何をするの?については、また次回で。


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