お客様は教材である。

美容室に行ったら、髪の分け目を変えられた。それも、分け目の位置を変えられた程度ではなく、分け目の向きごと変えられたのである。

最初に着いた時から、美容師に対して、「この人、怪しいな?」と思っていた。いつもよりちょっと短くしてもらいたくて写真を見せたのだが、カルテを見て「いつもと同じですね」と言った。前髪の位置などの、細かい事も尋ねず、そのまま取り掛かられたので、こちらは不安でいっぱいだった。

そして、分け目を変えられた。すぐだったので、訂正する事もできず。最終的には、大きく可笑しい感じになった訳ではないのだが、いつもと真逆の分け目に、ああ、と肩を落とした。どちらに向けて短くなっているのか、いつもの美容師なら、或いは他の美容師なら、見て分かってくれるのに。指名出来ないのは、安さ故か。カットのみ2890円なのが悪いのか。

でも、文句は言わなかった。いつも私を担当してくれている美容師が、その美容師にこっそり注意しているらしい声が聞こえたからだ。私から言う必要はない、と思い、会計をして、そそくさと店を出た。

私は客だ。でも、客は教材である。あの美容師の、今後の学びに活きるなら、それで良い。大きく恥をかかされた訳でもない。誰だって最初は、経験を積まなければ上手くはならない。サービス業は、お客様に敬意を払いながらも、お金を貰ってお客様を実験台にしているのである。そして客は、それを良しとし、これからの伸びを信頼して、託す。客商売とは、信頼性のやり取りに他ならない。どちらが偉そうにしても良いとか、そんなことはない。

そう思い、私は今日も、お客様を実験台にさせていただいている。世の中みんな、「お互い様」。

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