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【ExperienceDay 2021 開催レポート】CX推進者の役割~顧客志向組織に必要な仕組みとは~

※本セッションのアーカイブ視聴はコチラからどうぞ

企業におけるNPSの導入が増え、CXM(Customer Experience Management=顧客体験マネジメント)の概念が浸透するなかで、顧客体験の向上を専門とする担当者やチームの存在が目立っています。とはいえ、具体的にどのような活動をしているのか、イメージしづらいのではないでしょうか。

本セッションでは、コンビニや総合スーパーなど幅広い事業を展開するセブン&アイ・ホールディングスの藤野聡氏(以下、敬称略)、人材に関するあらゆるサービスを提供するアデコの多賀智美氏(以下、敬称略)をお迎えし、CX推進をリードする専門チームが設立された背景に迫ります。また、専門チームの日々の活動をご紹介いただきながら、顧客志向を社内に浸透させていくうえでの課題や今後のビジョンについてもうかがいました。

NPSを導入している各社の取り組みとは?

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志賀:
昨今、「CXM」という言葉が社会に浸透してくるなか、CX課やNPS担当といったようなチームの設立がだんだん増えてきました。本セッションでは、CX課やNPS担当の役割や課題現状などをお伺いしながら、CXに関する専門チームの設立の意義を深掘りし、顧客志向組織をつくるためのヒントを探ります。

藤野:
私は、デジタルマーケティング部で NPS調査結果に基づくCX向上の取り組みを推進しております。

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取り組みのひとつが「セブンマイルプログラム」です。セブン&アイグループでのお買い物をより楽しんでいただくためのサービスプログラムで、対象店舗でお買い物をしたりサイト上でアクションをしたりすることでマイルがたまります。マイルをためると、さまざまな特典と交換することができます。セブンマイルプログラムでは、サービス開始当初の2018年からNPSを取得しています。

多賀:
私は、昨年1月に新設されたカスタマーエクスペリエンス課に所属し、全社のCXをリードする役割を担って活動を推進しております。

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弊社ではさまざまなサービスブランドを展開していますが、主に私は、事務系の人財派遣サービスを提供する「Adeco」、転職支援サービスを提供する「Spring Professional」、エンジニア派遣サービスを提供する「Modis」の3ブランドにフォーカスしています。それぞれのブランドのお客様に対して年1回のR-NPS調査(リレーショナルNPS調査)やT-NPS調査(トランザクショナルNPS調査)を実施するほか、従業員自身のエンゲージメントを高める視点でeNPS調査も実施しています。

顧客の課題が複雑化するなかでCX活動の重要性を認識し、専門部署を設立

志賀:
はじめに、チームの設立背景、そしてCXMの取り組みを推進していくうえでの課題についてお話しできればと思います。まずは多賀さんにお伺いします。カスタマーエクスペリエンス課ができて1年ということで、設立された背景をお伺いしてもよろしいでしょうか。

多賀:
背景のひとつとしては、人材業界のマーケットを見てみると、いま日本が抱えている社会問題として、労働人口の減少や高齢化・少子化のような課題が顕在化していることに加え、昨今のパンデミックによって私たちの働く環境が大きな変化を遂げています。そのなかで、変化に応じたサービスを展開していくべきだという考えがまず根底にあります。

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もちろん今までもそういった活動は行なってきましたが、お客様が抱えている課題や解決しなければならないことがより複雑化し、個々に合わせたサービスを展開するためには、お客様に寄り添いお客様の声を理解して活かしていくCXMの活動がますます重要になっていると考えています。

アデコグループには従業員の行動規範におけるコアバリューがあり、なかでもカスタマーセントリシティ(顧客中心主義)はもっとも重要な位置づけになっています。それをサービス改善の活動につなげる取り組みとしてより強化していこうという背景もあり、専門部署の設立によってしっかりとした仕組みや体制を構築し、全社として推進していくことになりました。

志賀:
もともと行動規範として顧客志向が掲げられていて、経営陣の方々がCXMに関して積極的に取り組みをされているんですね。社内での浸透度はいかがでしょうか?

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多賀:
弊社はグローバルカンパニーですが、グループの本社も含めて全社的にそういった思考で取り組んでいます。1年前にカスタマーエクスペリエンス課が設立されてから、我々もさまざまな施策を行なってきました。そのなかで、CXの改善活動を全社的に行なっていくためには、いろいろな人たちを巻き込む必要性があると感じています。

CXチームだけではなく全社でCXMに関心を持って改善活動を行ない、経営層の方にもジョインしていただき、みんなで一丸となって取り組む必要があると考え、昨年チームの立ち上げと同時に「CXプロジェクト」という全社横断的なプロジェクトを発足させました。

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CXプロジェクトでは、各部門からCXリーダーがアサインされ、経営層の方も加わって、毎月プロジェクト会議を行なっています。NPSのスコアの分析結果、実際に現場で行なわれた改善事例やベストプラクティスを持ち寄って全社で共有し、CXリーダーが各部門に持ち帰ります。昨年から継続してきたなかで、各部門で「NPS」という言葉がよく聞こえるようになりました。ベストプラクティスも積み重なり、徐々に社内に浸透してきていると感じます。

一方で、全社的な改善活動に広げていくためには、まだまだやらなければならないことがあります。NPSに取り組む重要性、NPSの改善がお客様のためになるということ、そういった本質的な部分をマインドセットしていく必要があり、そこが私たちの取り組むべき課題です。

一度はNPSの浸透に失敗。社内の理解を深めることでチームの設立を実現

志賀:
セブン&アイ・ホールディングスさんでは、NPSの調査結果を活用するためにチームができたとのことですが、NPSチームの位置付けについて具体的におうかがいできますでしょうか。

藤野:
セブンマイルプログラムは、いくつかのチームで役割分担をして運用しています。そのなかのひとつにNPSチームがあり、NPSの調査結果にもとづくCX改善活動の全体推進や、各チームのサポートを行なっています。

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NPS チームは、各チームの代表者によって構成され、NPS の調査設計や調査結果の確認、CXの改善策の方向性まで一緒に検討します。そして方向性を各チームに持ち帰り、CXの改善策の具体化や実行までを、チームのNPSリーダーのような立場で推進していきます。

志賀:
各チームの代表者で構成されている点では、アデコさんと似ていますね。なぜこのチームを立ち上げたのでしょうか。

藤野:
実は、2018年に実施したはじめてのNPS調査での失敗が背景にあります。その時は、私が一人で調査設計から調査結果の確認、改善策の検討まで行なったのですが、社内からさまざまな懐疑的な意見が出て、なかなか改善策を実行できなかったんです。最大の失敗要因は、なぜCXやNPSを向上させるべきなのか、共通認識を社内で持てていなかったことでした。

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小売業においては、“売上=お買い物単価×来店客数”という公式があります。売上を上げるためには、あと1点買っていただくにはどうしたらいいか、来店回数を増やしていただくにはどうしたらいいかを考えていきます。一方で、CXの取り組みでは「LTVを上げていくには、より良い CX を提供してNPSを向上させていく」と、考え方ががらりと変わります。

私自身、最初はなかなか理解できなかったので、周りのメンバーが理解できなかったのも当然のことだったと思います。出だしはつまずきましたが、その後、調査結果に基づく施策を実行して成果を上げられたことで、徐々に周りからの理解が深まり、チーム化しようという流れになりました。

志賀:
関係者の方々に理解していただくところが非常に重要だったんですね。

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藤野:
そうですね。進めていくうえで大事なのは、誰にでもわかりやすい施策を最初に実行して、少しでも数字を上げることだと考えています。

NPSの調査結果を活かし、サービスの改善に成功

志賀:
次に、CX課やNPSチームが設立されてからの変化についてうかがいます。チームが立ち上がったからこそ生まれた施策はありましたでしょうか?

藤野:
NPS の調査では、NPSに影響に与える重要なCXを発見できます。我々はこれを、お客様にセブンマイルプログラムを楽しんでいただくための重要なCXだと考えています。

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そのような重要なCXのひとつに、「ほしい特典リスト」があります。これは、お客様がサイトを見て、ほしい特典があった場合にリストに登録する機能です。登録すると、交換できるまでのマイル数が表示され、交換がスタートした時のお知らせが届きます。この機能を活用している方はサービスの推奨度が高いという結果が見えているため、「ほしい特典リスト」に登録した方にはボーナスマイルをプレゼントする施策を行なっています。

この施策は、お客様に特典を見ていただくこととリストに登録することの2つを体験できるように設計しているのが特徴です。これまでは購買金額を上げるためにどうしようかを考えていたところ、より良いCXを提供することでNPSを高めようという方向への考え方の変化が現れた施策の一例です。

CXチームがリードしながら、NPSの“自分ごと化”を目指す

志賀:
多賀さんは、CX課の設立前と設立後でどのような変化を感じましたか?

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多賀:
CX課が立ち上がってはじめに私が取り組んだのは、トランザクショナルNPS調査を導入することでした。導入して良かった点は、小さなベストプラクティスが積み上がっていく仕組みができたことです。

今までは、年1回お客様からサービスの評価をいただいて改善に役立てていましたが、トランザクショナルNPS調査ではお客様からのフィードバックをサービスを提供するごとに日々いただいています。現場のなかで小さな改善活動を繰り返すことによって、CXMに取り組んでいる実感が得られ、自分のしたことがお客様に喜んでもらえると従業員のモチベーションが上がり、さらにCXを高めることができる。このループをつくれたのは良かったと思います。

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従業員のモチベーションを上げることに関しては、全社で表彰をしたり、チーム内でベストプラクティスを共有したり、そういったことを全社的に広げていき、NPSの“自分ごと化”につなげたいと思っています。

志賀:
社内で共有されているベストプラクティスには、具体的にどのようなものがありますか?

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多賀:
全社を巻き込んでいく場合、情報発信がとても大事だと思うので、NPSに取り組む意義やお客様の声をできる限りたくさん共有しようと思っています。良いものも悪いものも実際のお客様の声としてしっかり受け取り、それを自分たちのサービスに活かしていく文化をつくりたいと考えて、社内のイントラページを運用しています。

また、ささいな改善事例の積み重ねは皆さんのモチベーションになっているようで、「自分もやってみよう」という取り組みにつながっています。自発的に取り組む環境が、徐々にできあがっていると感じます。

NPSのスコアの改善とともに、社内の雰囲気の変化を実感

志賀:
アデコさんでは、アラート機能を使った取り組みも行なっているとうかがいました。詳しく教えていただけますか?

多賀:
トランザクショナルNPS調査において、お客様にサーベイを送ってご回答いただくと、お客様には自動返信でサンキューメールが届きます。それと同じ内容を、営業担当とその上長にも送っているんです。ですから、お客様から回答があるとすぐに、担当のクライアントが自分が提供したサービスに対してどのような評価をしてくれたのかを見ることができます。結果を上長に見られるというのはある意味ドキドキなのですが、現場としてはお客様の声は無視できないので、何かアクションを起こさなければという気になりますよね。

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ただ、担当営業だけでは解決できない課題に対しては、組織としてしっかり対応する必要があるので、上司が同行してしっかりと課題をヒアリングして解決していくというフレームワークで運用しています。

NPSの結果だけを見ると、昨年のR-NPS調査では対前年比で大きくスコアが改善したのはひとつの成果だと思います。また、主体的にCXの改善に取り組むもうという社内の雰囲気を感じるので、今の活動は継続しつつ、新たな取り組みにもチャレンジしていきたいですね。

セブン&アイ・ホールディングスとアデコが描く今後のビジョン

志賀:
最後に、今後のビジョンについておうかがいできますでしょうか?

藤野:
さまざまなデータを活用して示唆を導き出し、より良いCXを提供してお客様に還元していくことが重要だと考えています。データのひとつとして、定性的な情報を定量化するNPSの調査はとても重要で、いま行なっているセブンマイルプログラムの活動でしっかりとかたちにしていきたいと思っています。今後のビジョンとして、セブンマイルプログラム以外にもグループ各社に横展開できたらと考えています。

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多賀:
NPSをフル活用していかにCXを高めていくか、そしてNPSがマネジメントシステムとして現場で当たり前のように活用される文化が醸成されるといいなと思っています。CX課はそれを強化していくために立ち上がった部署ですが、究極論として我々の課がなくなったとしても、当たり前のようにそれが根付いている状態がある意味でゴールなのかなと。そのためにまだまだやるべきことはたくさんあるので、そこに向けて頑張っていきたいですね。

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特に人材業界はお客様と向き合うタッチポイントが多いので、当たり前のようにお客様の声を聞き、それをすぐに改善に活かすのが当たり前の価値になっていくといいのかなと思っています。そしてそれが企業の成長にもつながると信じていますので、引き続き推進に取り組みたいです。

志賀:
CXMの考え方が本当に社内で根付けば、究極論としては、そういった課やチームが必要なくなるのかもしれません。お二人のお話で共通していたのは、CX課やNPS チームにおいて、社内を巻き込み自分ごと化することの重要性だったように思います。本日はありがとうございました。


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