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【13】優しい嘘

【13】優しい嘘
会場に馴染めない子はいる。そんな子たちを輪に無理やり入れようとしてよいのだろうかと、考えが頭をよぎる。その場を和ませようと道化のわたしは、子どもにいろんなアプローチする。それがなんとかしてその場を収めようとしている演者のエゴになってしまわないだろうかと考える。その子と、その親とそして、現場をとりまく人たち。誰に対しての顔を優先すべきか、演じることと、場をとりもつことの間でいつも葛藤している。誰の気持ちも犠牲にしたくないけれど、全部を選べない。それも一瞬の判断で決めているのだから、きっと見えていないことが起こっているかもしれない。もっと大事な何かを見落としてるかもしれない。とか、考えるとキリがないし、無力感すら感じる。でも見えていること、感じることに反応するしかない。舞台には始まりがあって終わりがある。与えられた時間は45分。とても短い関係だ。どうか、せめて、その場に居合わせたみんなにとってよい時間になるように、あとから思い出したときに、その物語が美しい時間であるように、優しい嘘は必要だ。目の前にいる人の幸せを願って優しい嘘をつく。それは悪いことではないと思うことにする。

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