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計画・戦略・政策など答えのない問題

計画、戦略、政策、社会問題など、これが正解!という解がない問題は私たちの日常生活や仕事の中にたくさんあります。

デザインを学び始めてから、このような捉えどころのない問題を"Wicked" Problem (厄介な問題)ということを知りました。デザインが得意とするクリエイティビティによる解決が必要とされている領域です。

最近、フィンランド人のシニアのデザイナーから、"Wicked"という言葉は1973年発行の"Dilemmas in a general theory of planning" Webber Policy Sciences"という論文が最初であることを聞きました。

日本語では1973年の原著を参考にしているものは見つからなかったこともあり、Twitterで書ききれなかったので簡単にまとめます。

(話は飛びますが)プロと呼ばれる人達は、自ら原典をたどり、その概念の本質を理解することを大切にしている気がしています。川上にある情報は清いということでしょうか。ということで、"wicked"な問題を扱っている方はこの記事は飛ばして、原著を読んでみることをオススメします。

0. Wicked Problemのイメージ

これは本文中に記述はありませんが、私のWicked Prolemをイメージは、色んな要素が糸を引っ張るように絡み合っている状態を想像しています。何かを変えれば他に影響し合う。正解・不正解がないなどの特徴の想像がつきやすいかと思います。

(Baila Goldenthal, Cat’s Cradle/String Theory, 2008.)

1. Wicked Problemには決まった公式がない

"To find the problem is thus the same thing as finding the solution; the problem can't be defined until the solution has been found."

「問題を見つけること」と「答えを見つけること」は同義だ。つまり、解決策が分かるまで、問題は完全には定義することはできない。

哲学のような文言ですが、例えばキャリアの問題を考えます。

キャリアの問題とは、収入が低いことを意味するのか?スキルがないことを意味するのか?はたまた、好きでもないことを仕事にすることでしょうか?

この問題を定義してしまえば、次にとるべき具体的な解決策はほとんど分かったも同然ということを意味しています。

要は「コンテキスト(文脈)」を知るまで、問題を理解することはできないということであり、この文脈を理解するというのが解決する上での重要なステップとなります。

2. Wicked Problemには終わりがない

チェスの問題や数学の問題を解くときには、回答者は「いつ」仕事を終えることができるか分かります。

一方で、計画、戦略、創造的な活動には「いつ」充分な理解が得られたかの基準がなく、終わりがありません。

Wicked Problemには、期限の設定が重要であることを示唆していると思います。

3. 正解・不正解がなく良い・悪いがあるだけ

冒頭で書いたように、マルバツではなく、より良いか悪いかのような尺度だけがあります。

逆に言えば、自分なりに、正解・不正解のない、良い・悪いの価値尺度を自分の中に持っておくことが大切だと思います。芸術作品も自分なりに好き、嫌いを理由を言葉で説明できるようにすることが創造性の向上に繋がると聞いたことがあります。

4. 即座で究極的な解がない

ある解決策を取ったときに、その影響は「波」のように時間をかけて波及します。思ってもいなかったような副次的な効果をもたらすかもしれません。

例えば、貧困の問題。経済を活性化すれば解決する!と判断し、積極的な設備投資を行ったが、お金を得た国民が薬やお酒に手を出し、新たな問題を生む。ということもあるかもしれません。

副次的な効果をシミュレーションしておくことが大切であること、最終的な結果は意図しない形で現れる可能性があるため、モニタリングすることが大切である、と解釈しました。

5. トライ・アンド・エラーから学べない

数学やチェスでは、何度も解決策を試しても、次の問題には何ら影響はありません。

Wicked Problemでは、一度解決策を実行してしまえば、既に影響を及ぼし始めており、撤回することはできません。政策をイメージすれば分かりやすいでしょうか。政府が「ベーシックインカム」の施策の実験をすると、たとえ実験だとしても、国民に新しい意識が生まれるなど、影響は消せません。

何か行動を取るときはやはりその効果をシミュレーションすることが大切だと思います。また、「蒔いた種を刈り取る」という言葉がありますが、良いタネを蒔き続けることが大切と解釈しました。

6. 解決策は数字で判断できない

社会政策のような世界を考えた際、どの戦略でいくかはある1つの尺度から比較判断することは難しいと思われます。例えば、ストリート犯罪を減らすにはどうしたらいいか。警察を多く配置すればいいのか、重い罪を課せばいいのか、それらの解決策がどれだけの影響があるのか単一の数字で表すことは難しいでしょう。

ここで大切なのは、それを試してみようという判断をすることだと記述しています。悩んでも仕方のないことは、最善と思われる「決断」をすることが大切ということだと理解しました。

7. 全ての問題はユニークである。

見かけ上同じような問題に思えても、過去に存在した問題と今の問題は異なるということ。サンフランシスコの地下鉄の建設と、別の都市で計画された地下鉄は同じように思えて、全く新しいユニークな問題と捉えるべきです。

別の例を参照することはできても、今直面している問題に対しては同じアプローチでは上手くいかず、問題に応じたアプローチを取る必要があるということだと理解しました。

8. 全てのWicked Problemは他の問題の兆候である

1つの問題を抽象化、あるいは具体化して考えると新しい問題の兆候を示していることに気がつきます。ストリート犯罪という問題であれば、抽象化してみてみると、道徳の腐敗や貧困、富の分散などを示唆しています。

9. 問題の原因は無限の方法で説明がついてしまう

ストリート犯罪の原因は、警察が少ないから、教育が悪いなど、膨大な量の説明ができてします。たいていの人は、最もらしく聞こえる説明を選択している。大切なのは、Wicked Problemの説明はその人の世界観である、という認識である。

10. 計画者(Wicked Problemに取り組む人)は間違う権利がない

真実を見つけるのではなく、より良い世界を実現するための次の一手を取っていくという心構えが大切である。

参照:

Horst W. J. Rittel, Melvin M (1973). "Dilemmas in a general theory of planning" Webber Policy Sciences, Vol. 4, No. 2.

写真:Photo by Alex Iby on Unsplash

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