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新規事業の実験:デザインと研究の交差点

元々、理系大学院で研究をしていた私が0−1で事業を創出するビジネスデザインという職種で働いて感じている「ビジネスデザインと研究の共通点」である「実験」について書きたいと思います。

実験と聞くと、研究者や学生が行うビジネスとは程遠い言葉に聞こえますが0−1で事業を創出したり、企画を立ててプロジェクトを遂行する際に常につきまとう「不確実性」に立ち向かうために大切な考え方です。

私はもともと、コンクリートの研究をしていました。
縁の下の力持ちともいえる橋や共同溝(電線などを収容する地下構造物)の10年後、30年後をシミュレーションして、その耐久性や使用性を様々な角度から分析するというものです。

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研究時代の論文の挿絵

研究所に就職しようか悩んだ時期もあった私にとって、研究はとても身近でした。職種を変えた当初は、全く異なる分野で活かせるスキルはあまりないと感じていましたが、「実験」の考え方は新しい事業にチャレンジする際に意思決定をサポートするデータを収集するという意味で非常に相性の良いアプローチだと考えるようになりました。

新規事業開発や起業するネタはあるものの壁にぶち当たって悩んでいる方や企画につまっている方には、「実験」というアプローチを取り入れることで次の一歩を考えだして、壁を乗り超えるのに役に立つと考えて、この記事にまとめます。

なぜ、ビジネスデザインに実験なのか

多くの企業の意思決定者や投資家は、世の中にまだない新しい製品やサービスに投資するか決める意思決定のために、客観的データやファクト(事実)を重視しています。

「こんな新しいサービスに誰がお金を払うの?」
「もし失敗したら、数千万円が無駄になるのに投資なんてむり。」
「本当にSNSマーケティングで顧客がつくの?」

など、やってみる前からさまざまな角度で、投資家や社内の意思決定者から「やらないための理由」を指摘されるのが新規事業だと思います。

それら不確実性の壁を突破して、新しい製品やサービスを開発して、事業を進めるためには、大きく投資する前の段階で、なんらかの「評価データ」が求められています。ここでいう評価データとは100%正しいデータではなくても、意思決定に充分な精度のデータを意味します。

新規事業におけるデザインのアプローチが注目を集めていますが、そのデザインのプロセスには、プロトタイプを制作して、ユーザーの反応をみるというステップが必ず含まれています。

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Google Design Sprintのプロセス(fastcompany)

例えば、googleのデザインスプリントと呼ばれる新規事業の立ち上げ手法では、1週間という「短い時間」で、もっとも「リスクの高い」前提条件を、プロトタイプをもちいて検証するという思想がプロセス化されています。

ユーザーの価格受容性、継続率といったビジネスのKPIの検証から、口コミは生まれるのか、顧客は意図するサービスの使い方をするかなど、様々な不確定要素に対して、筋の良い「実験」を行うことが、新規事業を前に進めるためには必要です。

ビジネスにおける実験の例

お金をかけずに大きな事業の検証を行った例として、有名なものをいくつかご紹介します。

例1 ザッポス「そもそも靴はオンラインで売れるのか」

2009年11月、アマゾン・ドットコムは約9億ドルもの大金を投じて、靴・アパレルのネット販売大手ザッポスを買収しました。

ザッポスは、靴の履き心地やデザインを試し履きしてから購入することが一般的な商品を、顧客はオンラインで買うのかという仮説を最初に検証しました(出典:リーンスタートアップ)。

その実験方法は、近所の靴店に頼んで在庫品の写真を撮らせてもらい、写真をウェブに掲載し、それを誰かが買ってくれたらお店の売値で買い、手作業で配送するというものです。

このようにごく小さくシンプルな実験をとおして、靴はオンラインで購入するというニーズが十分に存在するという仮説に回答を得ることができたようです。

例2 Dropbox「どれだけの人がサービスに登録するのだろうか?」

Dropboxは、複数のデバイスやチーム間で共有できるクラウドストレージサービスを作り上げれば、利用する人が大勢いると仮説を立てていました。

その仮説を検証する実験として、Dropboxはシステムを作らず、3分間のプロダクト・デモを制作したそうです。その動画は、Dropboxを実際にどのように利用するのかを説明したもので、ランディングページでそのデモ動画を公開することで、実際に利用する人が居るかはわからないが、どれだけの人が登録する(利用意志がある)かを検証しようとした。

その結果、1日で70,000人ものユーザーが登録したという結果が得られたため、実際にサービスを開発する前から、ニーズがあることを検証することができたそうです。

明日から使える実験のポイント

実験を計画するうえで大切なことをチェックリストとして、まとめます。

1. 検証する価値のあるリスクの最も高い仮説(問い)を立てているか
2. 実験は最も安くて速い方法を企画しているか
3. 得られるデータをもとに、次の意思決定を行うことができるか
4. 結果は身銭を切るアクションによって評価しているか

1つめは、検証する価値のある問いを立てることができているかどうかです。企画しているビジネスや、現在のプロジェクトで、「失敗したときに、最も影響がデカイ仮説」を選びましょう。

頭の中にある前提条件や、不確実な仮説を全て書き出して、そこから、その前提が外れた時に事業やプロジェクトが立ち行かなくなるようなものを選ぶといいと思います。

2つめは、1週間から1ヶ月の短い期間で、できるだけお金をかけずにその重要な問いにたいする一定の答えが出る実験が企画できるかどうかです。

先ほどの例にもあったように、実際にサービスを作る前にできる最小単位の実験を考えましょう。収集するデータの量が充分ではなくても、今すぐに、できるものを選ぶことがモチベーションを維持するためにも大事です。

ニーズがあるかの検証であれば、友人の話をしてみる、Twitterで説明動画を掲載して、フォロワーの反応を見てみるなど、簡単にできるものから始めるといいと思います。そして、徐々に確からしさが増してきた時に、大きめの実験に移ることができます。

3つめは、得られるデータが次のアクションを決めてくれるものである必要があります。結果が出たはいいものの、次の意思決定につながらないこともあると思います。その結果が出た時を想像して、どんな結果が出た時にどうするかといった「判断基準」を予め明確にすることが大事です。

たとえば、100人中50人(50%)はサービスに登録するなど、基準に満たなければ徹底や、ピボットできる判断がつく指標を用意しておきます。

4つめに、検証結果は顧客やユーザーの身銭を切るアクションにもとづいているかどうかです。

例えば、マクドナルドのアンケートで、ベジタリアン・バーガーを食べたいですか?という問いに多くの人が答えるのに、実際には全然売れなかったという話は有名です。アンケートに「はい」という回答をするというアクションは顧客にとって、あまりに些細であるため、本気度を図りかねます

一方、例えば「ベジタリアン・バーガーを食べたい人はメールアドレスをご記入ください。後日情報をお送りします。」とすれば、メールアドレスを知られるという身銭を切るアクションで(これでも小さいですが)判断することができます。あるいは、お試し価格の100円で試作品が食べられます。で、あれば、より実際に近いデータを収集することができます。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

「実験」というアプローチとマインドセットを日々の仕事にとりいれることで、不確実な状況を一歩前に進めることができるかもしれません。

参考になれば幸いです。

Photo:Teurastamo, Helsinki, Finland

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