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理想の習慣を身につける秘訣【B.J.フォッグ教授の行動デザインモデル】

やめようと分かっていてもやめられない習慣はないでしょうかー2度寝をする、ついついスマートフォンを触る、晩酌がやめられないなど。一度習慣になったことを変えることは容易ではありません。

ましてや、スマートフォンで24時間誰とでも繋がれたり、好きなときに映画を見ることができる現代において、やめたい習慣を捨て、理想の習慣を身につけることは、最高の生活を送るためには不可欠なスキルだと思います。

B.J.Fogg教授というスタンフォード大学の行動デザインラボの設立者は「人の行動メカニズム」研究についての第1人者です。この記事では、彼が提唱する行動モデルを参照しながら、どのように工夫をすれば、嫌な習慣を捨て、理想の習慣を身につけることができるかについて、ヒントをまとめます。

この記事を書こうと思ったきっかけは、私がフィンランドにいるとき、B.J.Fogg教授と同じラボの先生から行動デザインの講義を受ける機会があったことです。その時の内容を基にしています。

ノーベル平和賞受賞のマザーテレサの言葉はあまりにも有名です。

思考に気をつけなさい。それはいつか言葉になるから。
言葉に気をつけなさい。それはいつか行動になるから。
行動に気をつけなさい。それはいつか習慣になるから。
習慣に気をつけなさい。それはいつか性格になるから。
性格に気をつけなさい。それはいつか運命になるから。

もし、私たちの習慣を理想的なものに変えることができれば、性格や人生まで、変えることができるほど、切実なことだと言えます。私も、今回の内容を生活に活かせているか振り返りながら、書きたいと思います。

今回取り上げる行動モデルは、UXデザイナーなど、人の行動に影響与える職種の方は、既に知っていて、活用している人もいるかと思います。初めての方は、良い方向のデザインに活用していただき、参考になれば嬉しいです。

行動モデルの「3つの要素」

行動が生まれるときは、次の3つの要素が必ずあると言われています。

MOTIVATIONー行動をしたいというモチベーション

ABILITYー行動することが可能である能力

TIGGERー行動しようと思うトリガー(きっかけ)

この3つのうち、1つでも欠けると行動は発生しないと言われています。

スマートフォンをついつい触ってしまうのは、アプリを使いたいというモチベーションがあるだけでなく、誰でもすぐに開くことができるその容易さ、音やバイブで通知してくれるトリガーの3つが揃いやすいからと考えられます。逆に、朝にランニングをしようと思うと、ランニングしたいというモチベーションは薄く、普段運動していないのでハードルが高く、朝起きて、ランニングしようというきっかけがあまりないため、実行に移しにくいと考えられます。

この3つの要素を1つのグラフにまとめたものがこちらです。

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Fogg Behavioral Model (2007)

Foggの行動モデルと呼ばれ、緑色のアクションラインより右上であれば、行動が発生する状態、左下であれば行動しない状態と考えられます。

とてもモチベーションが高い状態であれば、困難なことでも行動しますし、逆に、モチベーションが低い状態でも、充分に簡単なことであれば、行動に移すことができます。

悪い習慣をやめて、良い習慣を身につけるには、この3つの要素をうまく活用して、仕組みとして整えることが大切です。むしろ、この3つの要素をコントロールする以外には、習慣を変えることはできないとも考えられます。

より具体的に、どのようにすれば理想を習慣に変えていけるのかステップバイステップでまとめていきます。

ほんの小さな習慣から始めよう

3つの要素のうち、コントロールしやすいのは"ABILITY"(能力や容易さ)の部分になります。難しいことから始めるよりも、ごく簡単なことから始めることで、習慣を変えやすくなります。

"The more precise you can be about the behavior,
the more likely you are to succeed." B.J. Fogg.
「自分の行動について、より精度高く意識することができれば、
あなたは成功者になる確率が上がるだろう。」


Fogg教授は、より細かく習慣に対して意識的になるほど、理想の習慣を手に入れやすいといっています。

例えば、毎日1時間筋トレをしようと思っても、なかなか続けることは困難ですが、テレビを見ている30分のうち5分だけ筋トレをしようとすると、始めやすいと考えられます。

昨年末に出版されたFogg教授の著書のタイトル"Tiny Habits: The Small Changes That Change Everything"とあるように、ちょっとした習慣の工夫を積み重ねることで、大きな変化をもたらしていくと考えられます。私も片足スクワットを毎日10回やるようにしています。

習慣づけの3つのステップ

この原則を踏まえた上で、次のシンプルな3つのステップによって、習慣を変えていくことができる言われています。

STEP 1 : 習慣を選ぼう
習慣づけの第1歩は、自分が身につけたい習慣を選ぶことです。Tiny Habitsの原則通り、できるだけ無茶な習慣ではなく、小さな習慣を決めてください。私の場合、今より30分早く起きられるようになりたいと思っています。

30分早く起きるには何か30分削る必要があります。例えば、晩御飯以降、SNSを見る30分を無くそうと思いました。

STEP 2:  トリガーを発見し、良い習慣をルーティーンに組み込む
Foggの行動モデルに立ち返ると、まず、トリガー(行動を起こすきっかけ)があります。このトリガーを発見し、やめたい習慣から良い習慣に切り替えるよう活用します。

例えば、スマートフォーンが目に入るというトリガーから、Twitterを見るという行動に繋がっていることを発見したとします。もし、Twitterを見るのをやめたいのであれば、スマートフォンを自分の近くに置かないという選択肢があります。ただ、「Tiny Habits」で紹介されているのは、このトリガーがあった場合に、むしろ、自分が身につけたい習慣を組み込むことがおすすめされています。

例えば、英語を身につけたい人であれば、

スマートフォンが視界に入る(トリガー)→Twitterを見る(行動)
スマートフォンが視界に入る(トリガー)→英語ニュースを見る(行動)

というように、もし〜をしたら、〜という新しい習慣をするといった具合で新しい習慣を日常のルーティーンワークに組み込んでいきます。私の場合、夜のTwitterを見ようとしたら、すぐにお風呂に入るという行動に変えるようルーティーン(日常の習慣)に組みこもうと思います。

STEP 3:  ただちにご褒美をあげる
最後のこのステップは重要です。トリガーを発見し、良い習慣を実行することができたら、すぐにご褒美を自分自身にあげることが大切です。

Twitterを見るのではなく、英語ニュースを見ることができたら、好きな飲み物を飲んだり、自分のことをすごいと言ってみたりします。このとき小さくてもいいので、必ず報酬を与えることを省いてはいけません。

私の場合、SNSを見る代わりに、お風呂に入ることができたら、アイスクリームを食べることにします(太らない食べ物を食べるという新しい習慣が必要になりそうですが)。

悪い習慣も同様です。悪い習慣をやめることができたら、ただちに何か楽しいこと、嬉しいことを自分にしてあげてください。

先ほどのFogg行動モデルでいうと、モチベーションカーブ(行動が起きるか起きないかの境界線)が徐々に、行動が起きやすい方向に進化していきます。その新しい習慣をとろうというモチベーションが上がっていく回路が脳に出来上がっていきます。

そして、毎日少しずつ続けていると、Abilityも高まります。英語ニュースを読み始めた人が時間が経過すると、英語力がついてきて、次第に英語ニュースを読むことが楽になっていきます。そうすると、いいループに入っていきより一層、英語ニュースを読むという行動が起こりやすくなります。

モチベーションの波を理解する

3つのステップを理解したとしても、私たちのモチベーションには波があります。行動したいと思える時間帯や曜日などによっても変わりますし、個人差も大きいです。

これをMotivation Wavesと呼びます。

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Motivation Waves (B.J. Fogg)

理想の習慣を手に入れるには、自分なりのモチベーションの波を理解することが重要です。例えば、朝起きてすぐに、筋トレをするのは全然モチベーションが上がらないが、夕方のデスクワークで疲れてきた時間帯で筋トレするのはモチベーションが高くなる。

こういった自分のモチベーションカーブを理解して、モチベーションの波が高くなったポイントで行動に移すことが重要です。特に、Hard Things(困難なこと)を習慣化しようと思っているときは、波のトップにあるポイントを逃さず、行動する必要があります。月曜日になんとなくやる気が出ない人は週の後半で、大きな筋トレを入れてみるとか、タイミングを工夫することができます。

このような行動の仕方を変えるちょっとした工夫については、行動経済学のナッジ(nudge=「肘でそっと突くこと」が原義)理論とも通じるところがあります。

デザインの指針として活用する際の注意点

ここまで読んでくださった方は気づいたかもしれませんが、InstagramやFacebookのようなアプリのデザインもこの公式に基づいて行われています。

10年前にはなかったInstagramを見るという習慣は、このテクノロジーが、わたしたちをその気にさせ(人と繋がりたいなどのモチベーション)、そうすることができ(Abilityがなくても容易にできる)、またそうするように促されている(通知などによるトリガー)。つまり、私たちの行動はいいようにデザインされてしまっている可能性もあるということです。

実は、Fogg教授の最初の著書"Persuasive Technology: Using Computers to Change What We Think and Do(人を動かすテクノロジー:コンピュータで我々の考え方や行動を変える)のなかで、既に今回ご紹介したモデルやより詳細な理論が展開されました。

この知見は、スタンフォード大学(シリコンバレーに位置する)周辺にある名だたるスタートアップ(フェイスブック、Uber、インスタグラム)などの成長を牽引したリーダーたちに影響を与えていると書かれています。

このように人の行動を意図する営利的な目的に利用することも可能であることから、その倫理観が問題視されています。私がフィンランドで会ったスタンフォード大学の先生は、この問題に対して、むしろ、Foggの行動モデルを社会に良いことのために活用するためにPace Innovation Labという研究所を作りました。悪用されてきて理論を今度は、社会のためになることに活用しようと考えているようです。

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行動モデルの理論を参照しながら、いかに私たちが悪い習慣を捨てて、良い習慣を身につけていくのかについて書きました。トリガー・モチベーション・アビリティーを理解して、自分たちの日常生活のなかに上手に理想の習慣を小さく取り入れていくことが、大きな変化を生むことが何となく理解できたのではないでしょうか。

デザインの観点からは賛否両論あるかと思いますが、良い習慣を身につけるため、ユーザーや社会にとって良い結果をもたらすように活用していけるといいなと考えています。ご参考になれば幸いです。

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