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新規事業開発にデザインスクールの経験が役に立つところと補うべきところ

0から1を生み出すデザイナーに求められる役割は多様になってきています。私が知っている限りでも、事業の創造という文脈において、次のような新しいデザインの役割が存在します。

・ビジョンデザイナー(ビジョン策定)
・ストラテジックデザイナー(戦略策定)
・デザインリサーチャー(ユーザー調査と機会発見)
・コンセプトデザイナー(事業コンセプトの立案)
・ビジネスデザイナー(ビジネスモデルの構築と検証)
・サービスデザイナー(サービス設計)
・クリエイティブテクノロジスト(テクノロジーxプロトタイピング)
・コミュニケーションデザイナー(魅力的なコミュニケーション)

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デザイン人材のイメージ(出典:高度ザイン人材育成ガイドライン

これだけ幅広い守備範囲があれば、デザイナーだけで新規事業が成功するように聞こえます。その新事業の創出との親和性が、近年、起業家志望や0から1に特化した働き方をしたい人にとって、デザインスクールが人気の選択肢になりつつある理由だと感じています。

実際、私もデザインスクールに留学をしてから、新規事業にとりくむなかで学びや経験が役に立っていると感じています。

一方で、振り返ってみると、MBAで培われるような事業開発能力をもった仲間や、事業開発領域で10年以上の現場経験がある方々に支えてもらうことで事業が進んでおり、デザインスクールでの経験が0→1の事業開発に足りないところも実感しています。

このnoteでは、デザインスクールでの経験が新規事業開発で強みとなるところと、逆に補っていく必要があるところについて、私の考えをまとめようと思います。

✌️:強み(役に立っていると感じるところ)
💪:弱み(補うべきところ)

✌️1「新しい機会を発見する」

事業開発には様々なアプローチがあり、自社の強みとする技術を起点とするものや、台頭しつつある市場を起点とするもの、社会課題を機会として出発するものなど、様々です。

デザインは生活者の潜在的なニーズを起点とするアプローチを強みとしており、起点としないまでも、技術から始まった新規事業をユーザーのニーズに合うものに開発するなど、人間んお欲求やニーズを機会に落とし込んでいくところに強みがあると言われていますし、実際にそう感じています。

✌️2「共感を生むビジョンとコンセプトを策定する」

新規事業で大切な仲間を巻き込むビジョンや、プロダクトやサービスを使ってもらう人との共感を生むコンセプトを策定することは、新規事業開発での企画段階で事業の成否を分けるほど重要です。

プロダクト開発やビジネスモデルよりもさらに抽象的なアウトプットであるビジョンやコンセプトをビジュアルや、ストーリー、端的な言葉を用いて、策定するのはデザインが得意とする領域だと思います。

✌️3「カオスを受け入れマネジメントする」

新規事業には「不確実性」がつきものです。

その不確実性には2つの意味があると考えています。
1つは、プロダクト(サービス)に関するもの、もう1つは、組織(人間)に関するものです。

まず、プロダクト(サービス)をデザインしていくプロセスにおいて、ゼロから企画していく場合、自由度が非常に高く、リサーチから機会を定義し、プロトタイプを制作し、ユーザーの反応を見ながら、磨き込んでいきます。

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Fuzzy front end of the design process (Sanders, Stappers 2008) 

図で示すように、どんなプロダクト(サービス)に収束していくかは振れ幅が非常に大きく、方向性がガラッと変わるようなピボット(方向転換)を繰り返したり、新たな事業機会が発見するまで、方向性すら決まらないこともあります。

デザインは、その不確実な開発プロセスにおいて、ビジョン、リサーチ、データの意味付け、機会定義、発想といった流れを経ることで、成功する確度の高いプロダクト(サービス)をデザインしていきます。

もう1つは、新規事業を開発していく組織には、様々な人材が必要です。
幼少期にみるアニメにも様々な色のキャラクターが登場しますが、成功する新記事業にも、リーダータイプから、裏方で法務や知財をみる人、ユーザーとのコミュニケーションが得意な人など、色々な視点が融合することが重要と言われています。

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実際に事業を開発推進していくなかで、初めは1人で考えていた企画も徐々に仲間が増えてきて、複数の専門分野が共通するビジョンやコンセプトの元に前に進んでいくようになりました。

多様性というと、聞こえはいいのですが、実際に事業開発でいろいろな視点があると衝突が起こりますし、お互いの考えを共有するコミュニケーションが一筋縄ではいきません。

それでも事業を推進するには、お互いに考え方の違いを理解(共感)して、説得するという考え方だけでなく、気持ちよくコラボレーションする柔らかなマネジメントスタイルも重要になります。

私が留学したアアルト大学IDBMでは、このクリエイティブ(カオス)・マネジメントの専門を重視していました。テクノロジー・アート・ビジネスの専門を持つ学生が1つのプロジェクトを行いながら、画一なフレームワークも学ばない中で(あえて衝突を避けられない状況で)事業をデザインしていきます。

このような「不確実性」を受容し前に進んでいく経験や学びは新規事業開発を進めるためにプラスに働いているように感じています。

💪1「投資家がロジカルに納得する」

企業の上層部や多くの投資家は、MBAで培うような数字と論理性によって、意思決定を行うことが一般的です。

たとえ、イノベーションによって社会課題を解決するようなビジョンやコンセプト、生活者調査の定性的な情報から得られた機会にもとづいて、アイデアを発想したとしても、将来的な市場規模の算出であったり、そのアイデアの裏にあるロジックを説得力をもって説明することは欠かせません。

事業会社であれば個々の事業をポートフォリオ管理するために事業価値の算出を行っている会社も多いでしょうし、投資案件であれば、ターゲットする市場性を算出して、刈り取りことができる戦略を求められると思います。

クリエイティブに導かれた課題やソリューションについてもロジカルと数字というビジネス言語で表現していくことは、デザインスクールによっては、優先度が高くないものの、補うべきところだと感じています(近年、デザインスクールでもMBAに近い内容を教えるプログラムも多く、特に、米国のデザインスクールでは、この辺りも重視されるのではないでしょうか)。

💪2「自社のアセットから事業に必然性をもたす」

事業会社の内部から新規事業を創出する際には、起点となるのは技術やブランドなどの自社のアセットであることが多いです。

前職で新規事業を企画した時には、MBA的なフレームワークで自社の強みや市場環境の機会を分析するところから始めていました。

一方、デザインのアプローチによる新規事業創出では、創り手(個人または組織)のビジョンを起点にしたり、生活者の潜在的なニーズを出発点とする方法論を強みとするため、必ずしも、企業がこれまでやってきた延長戦上の事業とはなるとは限りません。

イノベーティブな事業には否定が9割とも言われますが、実際、意思決定者は自社の強みから取り組むべき必然性は?との考えも根強いと思いますし、これまでにない取り組みを支援する理解者がいたり、💪1のようなロジカルな説得力が必要だと感じています。

💪3「詳細に練った事業プランを策定する」

企画段階で少数のメンバーで実行していくうえでは問題にはなりませんが、事業フェーズが進み、実際に市場に導入するプロダクト(サービス)の開発やその導入に至ると、チームメンバーが必然的に増えていきます。

MVPの制作や広告宣伝のクリエイティブなど、一部を発注して事業を開発したり、投資判断を行う意思決定者と頻繁にコミュニケーションがとれず、事業計画書の作成が必要な場合など、多くのステークホルダーが関わるほど、支援を得られる事業計画が必要になります。

事業フェーズが進めば、経理の仕組みや法務の確認事項、知財の確保などの広義のデザインでもカバーできない領域が増えてきて、これらを網羅する計画と実行の重要度が増していきます。

このような事業開発に必要な詳細計画やバックオフィスについては、やはりデザインスクールの経験が活きる部分ではないと思うので、メンバーと協力をして、進める必要があると思います。

このような理由もあってか、私の知り合いのデザインスクール出身者の人は、デザインファームやコンサルなどの第3者の立場として、新規事業開発の上流部分に特化して支援する働き方を好む人が多いと感じています。

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ビジョン策定からコンセプト立案、開発、実行、マネジメントに至るまで、一気通貫で取り組むと、フェーズ毎に、本当に多種多様な役割や能力が求められます。

冒頭で書いたように、デザインの果たすべき役割が広がっているように、新しい事業を開発していくには総合格闘技のような幅の広さが必要であると思います。一方、全ての役割は担うことができないですし、デザインがカバーできない領域も事業開発のフェーズが進むと多くなるため、他の強みを持つ仲間とのコラボレーションやチーミングを大切にしていくことが重要だと、感じています。

2021年もますますご縁に感謝にしながら、社会課題を解決するような事業を開発していけたらと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

PHOTO at Espoo Museum of Modern Art, Espoo, Finland

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