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デザイン思考のこれから。掛け算で伸びる5つの領域。

IDEOのレイオフについてのニュースを受け、「デザイン思考の終焉」を唱える声が出ていたり、逆に「デザイン思考はあまりにも当たり前に使われている」や「新しいデザインファームのあり方」など、様々な記事が出ています。

これらの記事を読んでいくと、決してデザイン思考は終焉ではなく、社会や事業環境の変化に伴って、新たなデザインの役割と進化が求められるという内容がほとんどです。さらに、この10数年の間に次のような社会や事業環境の変化があると読み解けます(記事では深く色んな視点から書かれているのでまだの方は、ぜひお読みください)。

(旧)→(新)

  • デザイン思考を活用したい→組織の文化として浸透させたい

  • 事業のタネをつくる→発想だけでなく、実践こそが重要

  • 消費者的なデザイン思考→仕組みや社会課題解決のデザイン

  • プロダクトや事業開発のデザイン→組織文化やシステムのデザイン

  • デザインファームへの外注→インハウスデザイナーの強化

これらを読みながら、ひとりのデザイナーとしては、または、これからデザイン留学などで今の専門性と掛け合わせてキャリアを高めたい人にとっては「これから、どんなデザイン領域が伸びるのか?」を考えることが重要だと感じています。

そのためには、次の3つの考え方が重要だと思っています。

  • すでに国内で伸び始めている新しいデザインの領域を知ること

  • 欧州や米国などのデザイン先進国で伸びている領域を知ること

  • IDEOようなデザインファームの視点にくわえて、大企業やスタートアップなど多様な視点から、これからのデザインを捉えること

私自身、大企業の新規事業開発、デザインファームの組織や政策デザインの支援、ベンチャースタジオにおけるスタートアップ向け戦略デザインや事業開発支援など、多面的にデザインと関わってきています。

これから掛け算で伸びるデザイン領域について、考えてきたいと思います。正解はないと思いますし、きっとこれら以外にも面白い分野がたくさんとあると思います。一考察として参考になれば幸いです!

① 「スタートアップ」 × デザイン経営

スタートアップといっても、創業初期アイディア段階から、資金調達をしてプロダクトマーケットフィットを狙いにいく、30人を超える組織の拡大など様々なフェーズがあると思います。

それぞれの段階において、

  • プロダクトの顧客とその課題に共感するデザインリサーチ

  • 顧客との最初の接点となるインターフェイスデザイン

  • 企業の顔となるMVVやブランドデザイン

  • 組織文化のデザイン

など、1から企業も事業も創造していくなかで、デザインが果たす役割は、とても大きいと感じています。

近年、スタートアップにCDO(Chief Design Officer)を置くケースが増えてきているように、起業初期から会社の「顔」をデザインすることができ経営にも精通しているデザイナーの役割が増しています。

企業の事例としては、IDEO自体はレイオフしていますが、IDEOから生まれたDesign for Venturesは東京も活動を継続しているようです。

スタートアップ自体でもデザイナー出身者が創業・経営しているケースも、増えてきており、designprenuer(デザイン経営者)の活躍の場が広がっています。

このタイプのデザインで重要なのは、スタートアップの現場感を身を持って体験しているかどうかと、組織文化などのコンセプチュアルなデザインと、実行していくという泥臭さとの掛け合わせだと思います。

② 「組織」 x カルチャーデザイン

大企業の組織におけるデザインの活用は、ここ10年でガラッとフェーズが変わったと思っています。

  • デザイン思考に着目する

  • デザイン思考を一部の新規事業やプロダクト開発に入れる

  • 外部のコンサルなどに伴走してもらって成功体験を作る

  • 社内のデザイナーを強化して、内製化を図っていく

  • そのデザイナー及び同領域に理解があるCHROなどと一緒に社内カルチャーのなかに、デザイン思考を人間中心などの考え方として入れていく

このフェーズまで先進的な大企業の多くは到達しているのではないでしょうか。そのうえで、各社がそれぞれの特徴を出しながら、産業DXを新規事業の軸として取り組むであったり、B to Bの企業でも会社のブランディングや、発信力強化に取り組んで、そこにデザインの力を使っているなど、それぞれあると思います。

企業の事例としては、大手SIerがデザイン会社の買収であったり、ブランドの刷新など、組織文化を含めて活用して行っている印象です。

この領域では、デザイナーが「ブランド」や「組織文化」などの経営の上流について理解を持ちながら、社内、社外のコミュニケーションを含めた細部へのデザインが重要になってくると思っています。

③ 「AI」 x UXデザイン

毎日のように耳にするAIのニュース。
デザイン業界においても他人事ではなく、デザインの方法だけではなく、AIのプロダクト開発、経営に適した新たなデザイン職が登場しています。

わかりやすい事例は、プロンプト・デザイン。
生成AIへどういう指令を出すのか、また、AIからの応答や対話についてどのような雰囲気の言葉遣いをするのか、こうした人間の感性に近い領域を含めデザインすることが求められています。

企業の例としては、AIコンサルやAIを活用した新規事業(プロダクト)を、展開しているエクサウィザーズなどの会社で、UXデザインなどの専門家を、組織化しています。

まだ新しい領域で、これからさらにAIとの関係性、どうAIの力を最大限に、人間に寄り添いながら価値を提供するか、このAI分野とデザインの掛け合わせから目が離せません。

④ 「社会課題」×システムデザイン

次に、デザインの可能性として注目されているのは、システム(複雑に問題が絡んでいる仕組み)のデザインを活用した、社会課題解決です。

単純に、プロダクト⇄人という関係性におけるデザインだけではなく、社会の課題には多様な要素が絡んでいます。その社会課題に絡んでいるステイクホルダーも本当に多様で、サプライチェーン全体を考えたり、政府や消費者の意識変容など、いろいろです。

そうした複雑に要素と要素が絡んだ問題の中において、最もインパクトが出るポイント(レバレッジポイント)を包括的なリサーチを通して特定しながら、ビジネスとしても成り立つ顧客とその提供価値を定義し、ビジネスモデル化をしていく。

企業の事例としては、本当に色々あると思います。
NPOから、社会インパクト型のスタートアップ・新規事業、政策などの領域まで。

IDEOのSocial Design組織

JAPAN+Dのお取り組み

⑤ 「産業」×デジタルデザイン

最後に、いわゆる産業DXのトレンドに乗じて、伸びているデジタルデザインの分野です。

ものづくりの分野におけるデジタルの活用が、生産性の向上を目的に進み、年々その投資額は増えています。

この領域のデザインの特徴としては、B to Bが中心であること、ユーザーが生活者ではなくて、現場のオペレーターであったり、農業の生産者であったり、普段馴染みの薄いユーザーであるケースが多いことです。

企業の例としては、ロンドンに出張した際に、そうしたDX領域におけるUXデザインを多く請け負っているというデザインファームであったり、日本のメーカー、SIerで多くこうしたデザイン領域があると思います。

まだまだ、DXは伸びると言われていますが、デザイナーとしては、創造性を最大限に活用する、というよりも、その対象となる産業及びユーザーに深く入り込み、効率的なUXを生産していくという、また別の分野のデザインとは異なったケイパビリティが必要になっていると思います。

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「これから、掛け算で伸びる5つのデザイン領域」について、海外や国内の先進的な事例を引用しながら、紹介させていただきました。

この5つにとどまらず、未来洞察から会社の戦略を導き出すFuture Designなど、新しく出てきているデザイン領域が多々あると思います。

エンジニアリングの領域も、特にソフトウェアなどの足の速い領域では移り変わりが速いように、デザインの領域も、テクノロジーや社会の流れの速度が上がるにつれて、変化するスピードが速くなっているだろうと思います。

さらに、ここ最近の流れとして、クラシカルデザイン(美しさや細部へのこだわりをもって質の高いもの、ことをつくること)の重要性が見直されていると感じています。

例えば、サービスデザイナーとして、ユーザーリサーチに強みを持っているだけではなくて、実際に、ソフトウェアのUI設計までできる人であったり、実際に最終的なアウトプットまで対応できるデザイナーの重要性が高まっています。

そういう意味で、美意識であったり、共感力であったり、手を動かして作り上げることであったり、本質的な能力が高いデザイナーは、今もこれからも変わることなく、求められ続けるのではないでしょうか。

先人たちの積み重ねに感謝して、意味のあるなにかを積み上げられるようにしていきたいと思っています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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