ショートストーリー 背中のかゆいおひめさま
背中のかゆいお姫さま
ある王国におひめさまがいました。小さな頃から背中がかゆくなると、お付きの者から、お兄様である王子さま、おともだち、お妃であるお母さまと、みんなみんなお姫さまの背中のかゆいところをちゃんと、カキカキしてくれる人たちに囲まれていました。
わたし背中がかゆいわ。
はいはい、ワタクシがいたしましょう。
ええ、今度はわたくしが。
入れ替わり立ち替わり、おひめさまは何も言わずとも背中をかいてもらい満足していました。
特にお母さまに頼むと、まあなんと気持ちの良いこと。やっぱりお母さま大好きだわ…とお姫さまはいつも大満足でした。
たまに、背中をかくのがとっても下手な下女に出会うと、たちまちすごい形相で怒りだし、すぐに辞めさせてしまうのでした。
いいこと? 人の気持ちに寄り添えば、すぐに出来ることよ? 寄り添えない方にはお仕事はお願い出来ないから帰っていただくわ。
そしてだれもいなくなった
ところがお姫さまが16歳になる頃。
大好きなお母さまは亡くなり、大人になるにつれ、おひめさまの背中をちょうどよくかける人がどんどんいなくなり、そして最後のひとりまで、一回ついぞ間違えて痛くさせてしまい、辞めさせられてしまいました。
お姫さまは嘆きました。どうしてこんな簡単なことがわからないのかしら?わたしの背中をちょうど良くかける人はもう誰もいない。
いいわ。隣の国に行って上手な人を探してみせる。
心地よさを求めて
お姫さまは旅にでました。どこかにきっと上手に背中をかいてくれる人がいるはず。
ところが、どの国に行ってもお姫さまの背中を上手にかく人はいません。
諦めかけたとき、ある村に辿り着きました。
そこでお姫さまが
「だれか私の背中を上手にかく者はいないか?」
とたずねると
ひとりの小さな男の子が出てきて言いました。
「じぶんの背中はじぶんが一番上手にかくことが出来るよ」
お姫さまは、言いました。
「そんなこと出来っこない!自分で自分の背中をかくなんて寂しい人がすることよ」
男の子は言いました。
「自分の背中のかゆいところは自分しかわかんないんだ。一番かゆい場所もどのくらい強くかくかも自分が一番知ってるんだよ。
だけどわかっていてもどうしても届かないところだけ、だれかにそっとお願いするんだよ」
お姫さまは、小さな男の子の言うことだからと気に留めないことにしましたが、
その村の年寄りも大人も、みんなそうすると言うのです。
なんですって⁈
背中に手を伸ばした先に
お姫さまは、そっと自分の背中に手を伸ばしてみました。やってみると誰も友達がいないようでとてもみじめな気持ちでした。
それに自分で少しやってみてもスッキリできると到底思えなかったのです。でも本当は一番かゆい場所を知ることも、自分で傷つけてしまいそうなことも、とっても怖かったのです。
おそるおそる掻いてみました。ここは近いけど、一番ではないわ。そんな風に最初はよくわからなかったけれど、さらによくピンポイントを探すと、ああそうだ、ここだったのねという安心感。スッキリ感。だれにかかれるよりも気持ちがよかったのでした。
もちろんね。
お姫さまが自分で自分のかゆい場所がわかり、どのくらいの強さでかけばよいのかよ〜く理解すると、
周りの人は、すぐにわかって代わりにかいてくれました。きづくとみんなお姫さまの背中を上手にかくことが出来るようになっていました。
だけど、もうお姫さまは、自分の背中は自分でかくことにしました。
だって一番てっとり早いしね。
お姫さまは自分のことが大好きになっていました。周りの人にも優しくなって、お姫さまのことを大好きと言ってくれる人が増えました。
おしまい。
あとがき
このお話は私のストーリーです。自分が嫌な気分を味わった時、一番最初に向き合うべきは自分。
まずは自分に深掘りして向き合った後じゃあないと誰もわかってくれないものだなあという学びがありました。
自分の背中をかくという誰でも簡単にできることを、最初から他人任せにしてるボケとして描きました。
本来、自分の嫌だった感情に向き合うってこんな風に向き合えないのが滑稽なほど簡単なんだろうなとも思いました。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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