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【映画】プライベート・ライアン|20数年ぶりにあらためて観た感想は、あの時と全く別物だった。

正当化しなければ、やってられないのが「戦争」なのか。

ノルマンディ海岸に命からがら上陸した主人公ミラー大尉に、ある命令が届く。
4人の息子のうち3人が戦死してしまった母親のもとへ、末の息子ジェームズ・ライアンだけは生きて還してやれという内容だ。

 敵がうじゃうじゃいるやばい状況の中、どこにいるかもわからないライアンを探して命がけで適地をくぐり抜けなければならない8人の兵士たち。

全員、モヤっている。当たり前だ。

 「俺たちにだって母親はいるのになんでコイツは特別なんだ。」

ひとりまたひとりと、ライアンにたどり着く前に仲間が撃たれていく。
苦痛で泣き叫ぶ仲間に、せめて最期は楽に逝かせてやろうと
痛み止めのモルヒネをバツンバツン打ちまくる。

 仲間を撃ったが投降してきたドイツ兵を逃がした時、ついに小競り合いが起こる。
そこでトム・ハンクス演じるミラー大尉が

「この任務を無事にやり遂げることで、故郷の妻に胸を張って会える。」と、その場を収める。

 公開当時、20代だった私は、
「さすがミラー大尉、上司はこうでなくちゃ。」と、拍手を送った。

 しかし、今では、ミラー大尉のこの言葉は本気で怖い。
そんな風に正当化しなければ、やってられないということなのかもしれない。
この戦争が、ここにいること自体が間違っているとわかっているはずなのに、言えない。引き返せない。

映画冒頭の、「ノルマンディ上陸作戦」は、地獄絵図だ。
実際この作戦に参加した元兵士が、この映像の忠実さをこう表現していた。

「この映像に足りないのは、臭いだけだ。」

なぜここまで、残虐になれたのだろうか。
命がけで殺しあう大義名分は一体何なのだろう。
そこにどんな正義があったのだろう。
歴史をあまり熱心に勉強していない私は、「この狂気の源は何なの!?」と背筋が寒くてたまらなかった。

 ミラー大尉は、勇敢で立派な人だ。
部下をひとり失うたびに、その10倍の人を救っていると自分に言い聞かせる。
いい人だから、「無謀」を「正義」に変換して最後まで粘り強く戦ってしまう。

私は勇敢で立派な人ではないから、あの場にいたら多分、
砲弾の音が鳴りやむまで、浜辺で死体のふりをする。
ワンカップでもひっかけて臨んでいるだろうが、
例え酒の力を借りて気が大きくなっていたとしても、
弾が飛んでくる方に向かって突撃していくのは、絶対に無理だ。
まともな神経では、いられない。 

その戦いに意味を持たせなければ、やってられないのかもしれない。
けれど、「先人が命がけで戦ったからこそ今の自分たちがある」というようなきれいごとには、私にはどうしてもなじまない。

先人が半狂乱で死んでいった代わりに私が存在するというのなら、
存在しなくてもいいから死なないでほしい。 

ミラー大尉やライアン二等兵のような勇敢で立派な人が大勢いたことと、
戦争の美しい面を見ようとすることとは、まったく別のことだ。
何か得るものがあるとしたら、
「問題解決のために、二度と戦争という手は使わない」ということくらいだろうか。

 この映画のひとつのキーワード戦時国際法。
「民間人や負傷者、降伏者を攻撃してはいけない」など、戦争にも色々とルールがあるらしい。

やるなら正々堂々!! とでも言いたげだが、
「放火はするけど火事場泥棒はしない」みたいな気持ち悪さを感じる。 

この映画は、ドイツ VS. アメリカの一コマをアメリカ側から描いた映画なので、
正義はアメリカにあり!というニュアンスが最後までぬぐい切れない。
ちょっとWikiで調べただけでも、当時のドイツはやり過ぎだから、
ドイツ人てやつは…という気分にならなくもない。 

だからこそ、あえてミラー大尉やライアン二等兵に心を寄せ過ぎず、
このリアルな残虐シーンからも目をそらさず、
とち狂った戦争の犠牲は計り知れないという視点で見ることをおすすめしたい。

アメリカ兵もドイツ兵も、良き父、良き夫、良き息子、良き兄弟だった。
きっと、そうだ。 

キャスト
監督:スティーヴン・スピルバーグ

出演:トム・ハンクス, エドワード・バーンズ, トム・サイズモアほか

あらすじ
ノルマンディー上陸作戦を成功させたアメリカ軍だったが、ドイツ国防軍の激しい迎撃にさらされ多くの戦死者を出してしまう。
そんな中、アメリカ陸軍参謀総長ジョージ・マーシャルの元に、ある兵士の戦死報告が届く。
それはライアン家の四兄弟のうち三人が戦死したというものだった。
残る末子ジェームズ・ライアンも、ノルマンディー上陸作戦の前日に行なわれた空挺降下の際に「敵地で行方不明になった」という報告が入り、マーシャルはライアンを保護して本国に帰還させるように命令する。
Wikipediaより


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