僕の彼女はお見合い中 2話 【ずっと恋愛していたい?】
「もう一度会いたいって思った」
真琴と初めて会った日に「あなたは結婚に向いてないヒト」そう言われたオレは、もう一回、真琴に会うべきか迷っていた。
もちろんそれは自分が勝手にそう思っているだけで、真琴が会う気でいるかどうかは別問題。
それを考えると、ラインで誘うのもイマイチ勇気が出ない。でも、もう一度会いたいと言う気持ちが自分にあるのはわかっていた。
夜ひとりで部屋にいるとスマホが何かの着信を知らせてくれる。マッチングアプリが、見知らぬ女性と繋がったことを教えてくれていた。
(とりあえずメッセージを書かなきゃな・・・)
いったい誰にアクセスしたのか。その相手はどんな人で、どんな顔だったのかも覚えていない。それって、相手に対して驚くほどドライで、興味もないってことだ。そこからスタートする恋愛を、どうやって飲み込んでいけばいい?
そんなにワクワクする感じもなかったが、アプリを開き確認をする。
(ああ、こんな女性だったな。たしか、比較的近くに住んでいて、趣味も似ていたから、ボタン押したんだっけ)
とりあえず、せっかくマッチングしたんだから、何か起こるかもしれない。そんなことを考えながら、決まりきった挨拶文をメッセージ欄に打ち込んだ。
はじめまして、きぼうと申します・・・
ここまで打ち込んだ時、ふと真琴のラインを思い出した。
(ねぇ、なんでアプリの名前がきぼうだったの? 今度会った時に教えてね)
オレは書きかけのメッセージを削除し、真琴にライン送った。
(お疲れさま、真琴ちゃん。仕事終わったかな? もしよかったら、来週のどこかでご飯でも食べない?)
真琴から返事が来たのは1時間くらい経ったとき。
(おつかされま。いいよ、来週なら水曜日と週末以外ならOK。どこに連れて行ってくれる?)
真琴のラインは最後が質問で終わっている。もう少し会話が続けられることに、ちょっと、いやかなりワクワクしてしまった。
(じゃあ、真琴ちゃんの食べたいジャンルにしよう。何がいい?)
(お酒飲みながらゆっくりできるところかな。和食以外で)
そして、翌週、オレと真琴は2回目の食事をすることになった。
「しばらく、週末はダメなんだ」
真琴との会話は楽しかった。まだお互いのことを何も知らないから話題なんか探さなくても山ほどあった。
仕事のこと、趣味のこと、好きな食べ物、これまでの恋愛。そして、いろんな会話を繰り返しながら、きっとオレは「もっと自分に興味を持ってください」って無意識に真琴に訴えかけていたんだと思う。
ひとしきり盛り上がったところで、真琴が思い出したように聞いてきた。
「そうそう、なんでアプリの名前がきぼうだったの?」
「あっ、いや・・・」
なんて答えようかと戸惑ってしまった。きぼう=希望 好みの女性に出会いたいっていう希望。
そんなことを正直に言うってのもどうかと思ったから。
「いやなんとなく、文字を打ちやすかったから。深い意味はないよ」
「そうなんだー。希望って、なにか夢があるのかと思っちゃった」
真琴がワイングラスを傾けながら、ポツリとささやく。
真琴は、きぼうって名前をつける男性に何かを期待していたのかもしれない。でも、それ以上、オレはなにも言わなかった。
何も言わなかったけれど、どうしても真琴に聞いておきたいことがあった。それは初めて会ったあの夜、なんで「結婚に向いてない」って思われたのかってこと。
「あのさ、オレからも聞いていいかな?」
「なに? ヘンな質問には答えないからね」
ほほ笑みながらちょっとおどける真琴。
「なんでオレが結婚に向いてないって思った?」
質問からワンテンポおいて、真琴が正面からじっと見つめてくる。視線が合った瞬間に、本当にドキッとした。
「だって、よしきさん、恋愛の先に結婚があればいいなって言ってたじゃない。それってみんなそう言うけどホントかな? 恋愛感情なんて、いつか冷めちゃうんじゃないの?」
その言葉は意外でもあったけれど、否定することもできなかった。だって、オレはその「恋愛感情なんていつか冷める」ってことを、つい最近、身をもって経験したばっかりだったから。
出会った頃は本当に楽しくて、お互いにずっと一緒にいるって思い合っていた。だけど、終わりはびっくりするほどあっけなく訪れた。そして今、オレは元彼女のことを忘れたくて仕方がない。あれほど大好きで愛してたのに・・・。
「でもさ、結婚って恋愛してからじゃないと。付き合ってみないと相手のことだってわからないじゃん」
「よしきさんは、そう思うんでしょ? だから結婚に向かないんだよ。ずっと恋愛していたいタイプの人」
真琴の言葉に何も言い返せなかった。
「でしょ? だから、よしきさんの彼女になれる人はめっちゃ幸せだと思うよ。今まで、別れた彼女にヨリを戻そうって言われたこと、あるでしょ?」
「そういえば、ある」
「ほらねー。まぁ、よしきさんの恋愛経験を聞いてればだいたいわかるんだ。私ってけっこう人を見る目があるんだよー」
そう言って無邪気に笑う真琴。その姿から、どうしても視線を外すことができなかった。
オレはきっと、この短い時間の中で真琴に惹かれていたんだと思う。だから、また真琴に会いたいと思った。
そして、お店を出る前に、自分の口から次のデートに誘ってみた。
「真琴ちゃん、またデートしてくれるかな。今日で2回目だけど、両方とも夕食だけだったからさ、ドライブでも行こうよ週末に」
(いいよ)
そんな返事が返ってくるんじゃないかって思っていた。でも真琴から帰ってきたのは、そんな都合のいい返事じゃなかった。
「ごめんね、平日なら仕事終わりに時間は作れるけど、週末はちょっと難しいかな、しばらく」
少しショックだった。だけど、真琴にその理由を聞けるほどの仲じゃない。
「そっか、じゃあ、また仕事終わりで・・・」
そう言いかけたとき、真琴がオレの言葉を遮った。
「私ね、週末ってお見合いしてるんだ」
何を言っているのか一瞬わからなかった。週末? お見合い?
少しだけ頭の中を整理してみたが、やっぱりよくわからない。
「え?それって、お見合い? あの、結婚する前にやるお見合い?」
なにが何だかわからなかったから、とりあえずお見合いっていう単語を口にしてみた。
「うん、そうだよ、結婚相手を探すためのお見合い」
「え? でもこうしてオレと会ってるのは・・・」
「だよね、よしきさんからすればびっくりだし、意味わからないよね。旦那さんが欲しくて、結婚相談所に入ったの、今から2か月前に。で、毎週末、お見合いしてるけど。よくわからないんだ、自分の気持ちが。」
視線をテーブルに落としながら話す真琴を、ずっと見ていた。
「そうなんだ。でもまだ旦那さん候補も見つかっていないんだよね」
「うん」
その先に続けられる言葉がすぐには思いつかなかった。二人の間に生まれる沈黙の時間。
「オレと会ってるのは、婚活の合間の息抜き・・・とか?」
「違うよ、息抜きなんかじゃないよ」
(じゃあ、どうして・・・)
そう言いかけたけれど、オレは言葉にしなかった。
「週末はお見合いの予定だから、次に会うのは平日にしよっ」
真琴は、明るい口調で言った。その明るさが逆にオレを迷わせた。
真琴を改札で見送ったあと、一人で考えてみる。
いったい何だ、この関係って? お見合い? 結婚相手探し?
真琴の楽しそうな顔と、寂しそうな目が交互に浮かんでくる。
来週の木曜日。真琴と三回目の合う約束をした。
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