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大嫌いな夏


今年も夏が来た。私の大嫌いな季節だ。


私が夏を嫌う理由の1つは気温と湿気だ。

纏わり付いて離れない暑さとジメジメ感。汗っかきでひどい癖毛の私がこの世のあらゆるものの中で最も嫌いなものだ。

ひとたび外に出れば噴き出す汗と広がってうねる髪。メイクもヘアセットも完璧にして家を出るのに、一瞬で全てが台無しになる。

暑さで必然的に肌の露出面積が増えるのも嫌いだ。私が汗っかきでさえなければ、夏だって長袖長ズボンで過ごしたいぐらいには露出が嫌だ。理由は簡単で、体型が気になるからだ。痩せればいいだけの話だけど、ダイエットは嫌だ。


何でもかんでも嫌だと思ってしまうのも全部大嫌いな夏のせいだ。


それから、夏がどうしても好きになれないもう1つの大きな理由は、匂いだ。

「日本の夏って、死の匂いがするよね」


昔大好きだった人がそう言っていた。

秋や冬の匂いは大好きなのに、なんで夏の匂いは好きになれないのかずっと不思議だったのに、この一言でその疑問が解決した。


そうだ。夏は死の匂いがするんだ。


ひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが死んだのは小学校の夏休みの時だった。法事があるのはいつも夏の息が詰まるような暑い日だった。

おじいちゃんが死んだのも去年の夏のはじめだった。あの日、泣き疲れた声のママからの電話の後、じめじめした空気の中、汗なのか涙なのかわからない液体を拭いながらバイトを早退して実家に帰った。


周りの人がみんな夏に死んだからなのかもしれないけれど、私にとって夏の匂いは死の匂いだ。

夏なんて大っ嫌い。夏が来るたびにそう思う。



でも、そんな私の憂鬱な夏を、少しだけ明るくしてくれたのが元彼だった。

彼に出会ったのは2年前の6月末だった。これまた大嫌いな梅雨真っ只中の日、彼と初めて2人で出かけた。クーラーの効いたお店に入ってもなかなか止まらない汗を、私は絶えずハンカチで拭っていた。初対面の相手の前で汗が止まらない恥ずかしさで余計に汗が出た。

付き合って少し経った時、初めて会った日の話になった。汗をかいていたのも、恥ずかしそうにハンカチで拭っていたのも可愛かった、彼はそう言った。


私が夏が大嫌いだと知っていた彼は、「俺と出会った夏を少しでもいいから好きになってほしい」と言っていた。


その言葉がたったひと夏で現実になりそうなくらいに、その夏私たちはいろんなところに行って、いろんなことをして、これでもかというほどキラキラした思い出をたくさん作った。


でも、そんな私たちが別れを選んだのもまた、夏だった。思い出すだけで目の奥が熱くなるほど、悲しくて辛い思い出が作られた夏だった。



そして今年の夏、また恋を始めた。偶然なのか、新しい彼氏もまた、私が汗をかいているのを可愛いと言って愛おしそうに笑う。

今度こそ、大嫌いな夏が少し好きになれたらいいな。


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