見出し画像

恋愛向いてないな


2週間くらい前に彼氏ができた。

半年前に2ヶ月足らずで元彼と別れてから、恋愛なんてもうしばらくしないのだろうと思っていたし、したい気持ちもなかった。


きっかけはマッチングアプリだった。退会して随分と経ったアプリを久しぶりにダウンロードしたのは、無性に誰かとお酒を飲みたくなった金曜日の夜だった。

土日休みなわけでもないのに、金曜日の夜はなぜかどうしてもお酒が飲みたくなる。いつもだったら大人しく家で1人お酒を飲むが、その日だけは何となく相手が欲しかった。いつもの友達を誘ってみたけど断られたから、アプリを入れた。

無心でスワイプし始めるとすぐに増え出すいいねとマッチング。当たり障りのないメッセージのやり取り。

ただ今すぐ一緒に飲んでくれる相手が欲しいだけなのに、名前とか歳とか職業とか、そんなことを尋ね合っている時間が煩わしい。今日は無理か、なんて思っていたところに「今から飲もうよ」なんて都合の良いメッセージが届いた。その一文を待っていたんだ。

でも、電車で1時間もかかるところに住んでいる人だったから、会うのは諦めてビデオ通話でオンライン飲みをすることになった。

すごくかっこよくて、すごく優しい人だった。彼女はもう6年くらいいないと言っていたのが信じられないほどに良い人だった。彼もお酒が好きで、アプリは飲み友を探すためにやっているらしい。良い飲み友達になれそうだな、なんて呑気に思っていた。


15分ぐらい通話したところで、彼がやっぱりうちに来て欲しいと言い始めた。その時22時くらいだったことと電車で1時間かかることもあり、さすがに厳しいと私が言ったら、「じゃあ俺が行っていい?」と言ってきた。私はいいですよと軽く返した。自分が行くのは面倒くさくて嫌だけど、相手が来てくれるならありがたい、なんて思ってしまう私は嫌なやつだ。

30分くらいで通話は切り上げて、彼が私の家に来ることになった。来る途中、彼はもう一度私に電話してきて、「本当にいいの?そんな簡単に男を家に入れちゃだめだよ。」なんて言うから、私も大丈夫か心配になったけど、私の勘が彼は大丈夫だと言っていた。

タクシーで家の近くまで来た彼を迎えに行った。少し離れたところから歩いてくる彼は、はっきり見えなくてもそこら辺の男より明らかにかっこいいと分かった。こんな私がこんなイケメンと2人でお酒を飲んでもいいものかと思ってしまうほどだった。でも、まあ飲み友達なら私でも別にいいか、なんて思った。


部屋で2人で適当な映画を見ながらビールを飲んだ。近くで見てもやっぱりイケメンで、「彼女ずっといないの絶対嘘ですよね」と思わず聞いてしまった。多分好きになることはないと思ってたから、本当でも嘘でもどっちでもよかったけど。

私の問いに彼は笑いながら嘘じゃないと言っていたけれど、私はやっぱり信じられなくて何度か同じ質問をした。そうしたら、「彼女はいなかったけど、奥さんはいたよ」彼はそう言った。「子どももいるんだ」そう言いながら愛おしそうに5歳くらいの男の子の写真を見せてくれた。


ああ、そういうことか。不思議と何とも思わなかった。この顔で、28歳で、結婚して子どもがいてもおかしくないような人だった。

彼は5年間結婚生活を送った末に昨年離婚し、子どもは元奥さんのもとで育てられているらしい。喧嘩別れだったと言っていた。セックスレスだったとも言っていた。


彼の子どものことを考えたら、少し複雑な気持ちになった。私は母子家庭で育てられたから、親が離婚していること、父親と呼べる存在がいないことがコンプレックスだった。子どもは成長していく過程で、どうしてもいろいろなことを周りと比べるようになってしまう。だから、彼の子どもも父親がいないことで辛い思いをする時が来ると考えると、離婚以外の道はなかったのかと思わずにはいられなかった。

私の両親が離婚した理由は、父の不倫だった。不倫の末に子どもまでできたらしい。だから、両親が離婚したのは当然だと思う。でも、彼の喧嘩別れはどうにかできたんじゃないかな、なんて思ってしまった。人それぞれ事情や理由があることももちろん分かっているけれど。


そんなことを、彼が離婚した話を聞いた後にぼーっと考えながらお酒を飲んでいた。


少し酔っ払った彼が私の方を見て、「ねえ、俺を家に入れたってことはさ、キスしてもいいってこと?」なんて言ってきた。あー今回も勘が外れた。この人は大丈夫、手を出してこない人だっていう私の勘は、なんでこうも外れるのかな。

キスをした。何回も。ビールの味だった。

「かわいいね」彼は何度も言った。恥ずかしいからそんなこと言わないでほしいと思ったけど、悪い気はしなかった。



「ねえ、付き合ってみる?」

これっぽっちも想像していなかった言葉が彼の口から発せられた。多分今年に入って一番びっくりしたと思う。

正直、他の女にも同じようなこと言ってるんだろうなと思った。だってかっこよすぎるから。だからそのまま言葉にして聞いてみたけど、違うよ、俺本当にモテないんだ〜、とふにゃふにゃ笑っていた。

でもやっぱり信じられないから、酔っ払った勢いかなとも思って結局その場は濁した。

酔っ払った彼をベッドに寝かせてから、私は化粧を落としてタバコを吸った。イケメン、5個上、バツイチ…彼の情報を整理してみたけど、結局よくわからなかった。


朝5時、カーペットの上で寝ていた私を彼が起こした。そのまま一緒にベッドに入り、もう一眠りした。

8時くらいには2人とも完全に起きた。前の日の夜の話を彼はちゃんと覚えていた。付き合ってみる?と彼はまた言った。お互いのことをまだほとんど何も知らないからと渋っていた私に、付き合ってみてから知ればいいじゃん、と言った。確かにと思って付き合うことにした。


あっさり付き合ってしまったけど、正直私はこの恋愛が怖い。幸せな恋愛ができるとは少しも思えない。


去年からずっと私は暗闇の中にいる。このままだと大学を卒業できるのかもわからないし、就職先が決まるのかもわからない。自分が何者なのかもわからないまま、何もできない毎日に苦しんでいる。そんな私が恋愛なんてしたら、もっと苦しむことになるのは目に見えている。


実際、付き合って2週間経った今、私は苦しんでいる。ラインはなかなか返ってこないし、会いたいと言われて会いに行くのはいつも私で、彼が私に会いに来てくれたことはまだ一度もない。頻繁に飲み歩いていて、女の人と2人で飲むこともある。重いと思われたくないから何も言えない。

はっきり言ってしまえば付き合ったことを後悔している。だから恋愛はしたくなかったのに、なんて思いながら、結局彼の返信を待つことしかできない自分が恨めしい。

やっぱり私、恋愛向いてないなあ。

だってまた1人で泣いてるんだもん。


この記事が参加している募集

#スキしてみて

528,964件

#最近の学び

182,202件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?