変わる時代のコンサートホール①

 大きな政府から小さな政府へ。財政支出削減、行政サービス縮小、官民連携、業務委託に指定管理…。納めた税金を何に使うか、どう使うかという考え方が、いま根っこから変わろうとしています。3期、4期と続いてきた昔ながらの首長もそろそろ交代の影がちらつく中、これまで「あ・うん」の関係で行政とつながっていた業界も、うかうかしていられない時代がすぐ来るように思われます。

 文化行政もその1つ。文化事業はそれ自体では利益を生み出せない(利益を生み出すことを必ずしも良しとしない)ため、一般的には公共事業として位置づけられています。そのため、コンサートホールや劇場、博物館、美術館経営のハード面、アーティスト派遣や企画づくりのソフト面など、この業界に関わるすべての業種は、国や地方自治体の財政、民間の補助金など、外部資金に依存しきりです。

 大きな政府から小さな政府へ。これが謳われるとき、文化行政の予算はもちろん削減されます。そんなとき、文化事業は何をすべきか。そんなヒントを求めて、これからしばらくは世界の劇場を調べることにしました。

ナショナル・コンサートホール(アイルランド)
アイルランド・ダブリンにあるナショナル・コンサートホールの参加型プログラムでは、同ホールに出演するプロ演奏家を、学校・病院・老人介護施設などに派遣するアウトリーチ企画を展開中。いずれの企画も、きちんと企画側のホールからコーディネータが入り、アーティストと受益者の間に第三者的な専門機関(研究所、大学、基金、財団etc...)を巻き込むことで、地域密着でオリジナルな企画になっているのが素敵です。

教育プログラムでは、授業に演奏家や学生が入る「よくあるやつ」だけではなく、国立科学財団・各大学(おそらく理系研究科)と協力しながら楽器の仕組みや音響効果を解剖する「音楽と理科」の授業を展開。そのほかにも、企画ごとに色んなセクターを巻き込むファンド・レイジングを行っています。

健康・医療の分野では、長期入院の子どもたちやお年寄り1人1人に演奏家が演奏する企画(どこかに集まってみんなで聴くのではなく、1人1人というところが素敵!)、認知症を患ったお年寄り向けのいわば「うたごえ喫茶」、精神病やうつ病の患者さんでつくるアンサンブルグループなど、音楽の持つ効果を存分に利用したアウトリーチが目白押し。

そしてこれら全部について、(財団や基金の投資効果を実証するためとはいえ)企画の内容、その効果や結果が詳しく報告されているので、私のように遠く離れた国にいても、それぞれの地域にカスタマイズして使えるようになっているのです。スバラシ。

(つづく)

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