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【帰りの電車で展覧会寸評!】♯9 根津美術館「将軍家の襖絵」

つい昨日まで東京は青山・根津美術館で開催されていた展覧会「将軍家の襖絵」。遅まきながら見ることができましたので、レビューします。

美術史とは何か? その一つの例。

今回の展示はズバリ「室町将軍の邸宅ではどのような絵画が鑑賞されたのか?」
中でも中心となるのは、襖絵。
それは当時の美的感覚だけでなく、為政者に求められる精神を示すものであり、また権威を示す装置でもありました。
例えば、人が農業に励む耕作図や、絹の製造に励む養蚕図。庶民の労働を、なぜ武家のトップである将軍が襖絵にして飾るのでしょうか?
「人々の労働の様子を見て、彼らが豊かに暮らせるよう政治に邁進するため」「身分が高いからといってかまけることなく、人民と同じように汗をかくため」、まぁざっくり言えばこんな感じの意味があります。そうした、「為政者をいさめるための絵画」を「勧戒画」といいます。
しかしこれは、ぱっと見でわかることではありません。さまざまな文献をひもとき、類例をさぐり、儒教思想に精通して初めて言えることです(👆の解釈はおおむね合っているはずですが、かなり適当なのでご容赦を)。
そうした美術史研究の成果が、この展示につながっています。

将軍の邸宅を再現

しかし、室町将軍家の邸宅というのは、今もそのまま京都に残っているわけではありません。それどころか、そこに飾られていた襖絵すら、確かなものは残っていません。
今回展示されていたのは、実際の襖絵を描いていた絵師の作品や、実際の襖絵と同じ画題の作品など。そうした作品を通して偲ぶしかないのです。
しかしこれとて、たいへんに難しいこと。多くの美術史研究の積み上げがあって、はじめて展覧会を構成し、作品を選定することができるのです。
そう言った意味でも、日本美術史の本領発揮!といった展覧会でした。

少しムズイかも

という、意義深い展示だったのは間違いありません。それをなるべく噛み砕いて見せようという意図も十二分に感じられましたが、それでもやはり、少し難しいように感じました。
展示室の冒頭、いきなり雪舟の絵が出てきます。これは「倣李唐」の山水画。中国の有名な画家・李さんのスタイルで描いたものです。
なんでそんなことをするのかといいますと…
当時の有力者の間では、本格的な中国の山水画がトレンドで、あこがれの的でした。しかし、モノホンなんて手に入らない。だから、日本の画家に描かせます。雪舟はこの「倣李唐」の作品を偉い人に対し、「こんな描けまっせ、仕事おくんなはれ」と見せていたわけです。
それが「画様」とか「筆様」というやつ。
その説明も、会場途中のパネルにあったのですが、なかなか立ち止まって見る人は少なかったです。「夏珪様」「馬遠様」といきなり書かれても、「ほにゃららさま」としか読めませんよね。これは「かけいよう」と呼んで、「夏珪さんのスタイルで描いた」ことを意味します。べつに敬語を使っているわけではありません。
こうしたことは、プロが思ってる3倍くらい噛み砕かないと、なかなかわかりません。もう少し、わかりやすくても良かったと思います。
それでいうと、「将軍家の襖絵はもう残ってないけど、画題とか絵師とか、近いもん集めましたんで見たっとくんなはれ」というコンセプト自体、もうすこしスッと伝われば、鑑賞クオリティもぐっと上がったと思います。
もちろん、たくさん書いてらしたとは思いますが…。もうひといき、わかりやすさをお願いしたかったところです。



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